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読書感想文 知念実希人「優しい死神の飼い方」

死んだ人間の魂を「主」の元へと導くことを仕事とする死神の「私」はとある事情から左遷され、犬の姿となって地上に遣わされるという憂き目に遭っていた。

余命幾ばくもない状態で、様々な後悔や未練を持った人々に生前から働きかけることでその未練を解消して地縛霊となることを防ぎ、滞りなく「主」の元へ導く。それが「私」の新たな仕事だった。

しかし、「私」を左遷した上司の手違いで吹雪の屋外に放り出されて凍え死ぬ寸前だった「私」を救ってくれたのが、左遷先のホスピスで看護師として働く朝比奈菜穂だった。

菜穂は院長に頼んで「私」をホスピスで飼う許可をもらってくれた恩人にして、「私」に「レオ」という名前をくれた名付け親となった。

かくしてホスピスに潜入したレオは、死神としての能力を駆使して、余命わずかな身の入院患者たちが抱える未練を知る。

最愛の人を空襲で亡くした男性。駆け落ちの約束をした彼女はなぜ家に戻ったのか。今際の際に彼女が男性に渡した黒焦げの塊の正体は何なのか?

絵を描くことができなくなり、その上若くして不治の病に侵されてしまい、絶望に打ちひしがれる青年。彼の絵が好きだと言ってくれた少年の家で殺人事件が起きた。少年の両親は殺害され、少年は行方不明。事件後、少年の家に立ち入ってみたところ、青年が少年の父親に売った絵はなかった。なぜ?

患者たちの未練を聞き出したレオは、過去の謎を解き明かしていくことで、彼らが安らかに旅立てるように導いていく。

ホスピスは、もはや手の施しようがないほど病状が悪化した患者の苦痛を可能な限り取り除き、穏やかな最期の日々を過ごしてもらうための施設だ。

例え未練を解消したところで、病状が良くなったり患者の寿命が伸びたりはしない。それでも、心を絡めとっていた呪縛から解放され、残されたわずかな日々を精一杯生きようとする彼らの姿は清々しかった。

そんな彼らの心に触れ、その変化を見てきたレオの心持ちにも変化が訪れる。

かつてのレオは、死者の魂を「主」の元へ導くという死神としての仕事をただ淡々とこなすだけで、自分が導こうとしている者の気持ちや思いを考えたことはなかった。寧ろ、感情に囚われて非合理的な行動を取る人間のことを愚かだと思っていた。

そのレオが、ホスピスの患者やスタッフを救うために自らの意思で奔走する。死神は人間の生き死にに関わってはならないという決まりを曲げてまで。

この危機を乗り越える手助けをしたら、自分は最悪の場合、「主」によって存在を消されるかもしれない。それでも、彼らのことを守りたい。悩み抜いた末にその覚悟を決めたレオにも悲壮感はなかった。

叶うものなら、私もこんな清々しい最期を迎えたいと思った。でも同時に、自分が最期まで「あの本を読みたかった…」とか「あの本、読みかけなのに…」と言っている様がありありと浮かんでしまい、「はて、私は清々しい最期を迎えられるだろうか?」という疑問を抱えてしまった。

こんな未練たらたらな最期をレオが見たら、呆れるだろうか。でもそうなったとしても、本好きの性ということで勘弁願いたいものだ。

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