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フルリモートリサーチャーとして。

最初の会社で叩き込まれた調査の基本

地方に住んでフルリモートで仕事をする。
コロナ禍を経て、今や珍しくなくなった働き方だ。以前も書いた通りで、リサーチ会社というのは基本的に東京に一極集中していることもあり、自分も東京以外でこの仕事ができるとは想像していなかった。

リサーチは現場を見ることから始まる。
紙アンケートを基本とするCLT(会場調査)や店頭・街頭調査、グループインタビュー、エスノグラフィーなど、オフラインの各種手法は、現場を見ることで初めて体感・実感できる情報が数多い。事件は会議室で起こってるわけじゃない…という昔のドラマのセリフじゃないけど、言うまでもなく調査は「現場」で起こっている

伝統的な調査会社に入社して1年ぐらいの間は、意図的に現場管理の仕事にアサインされることが多かった。現場を見るからこそ理解できる生活者の行動や態度がある。この原理原則はインターネット調査、オンライン調査が主流となった今でも常に頭に入れておかなければならない。

だからこそ、東京で調査の仕事をすることにはそれなりの意味があるのだ。
WEB調査、オンラインインタビューで大抵の定量調査・定性調査は実施できるけど、地方に比べて圧倒的に情報量の多い東京で、対象者を生身の人間として自分の目で見ることでしか気づけない示唆があったりする。

調査業界に飛び込んだ初期にこの原理原則を叩きこまれたことは、オンラインで行動と意識を探ることが主となった今だからこそ、その価値が理解できる。N=1の生身のヒトを多面的・総合的に理解することが調査の基本だ。オンラインで集まってくるデータを眺めているだけでは、その視点がごそっと抜け落ちるリスクを孕んでいる。

そうは言っても、地方住みの自分にとっては、WEB調査とオンラインインタビューぐらいしか現実的に選択できる調査手法がない。スマホが普及し、SNSが生活者の可処分時間を奪うようになった今だからこそ、WEB調査もオンラインインタビューも有益な示唆をもたらすものと見なされるようになった。地方移住と調査を仕事にすることの両立は、このタイミングだから実現できたようなものだ。

調査プロジェクトに求められるレベル感

そんな現況だからこそ、それぞれの調査手法に求められるレベル感が変遷しつつあることにも留意が必要だ。調査がますます安価で手軽なものになって、従来では考えつかなかったようなインスタントな調査が世の中に溢れてきている。例えばわずか30分のデプスインタビューなど、伝統的な調査を実施してきた者にとっては信じがたいものだろう。(従来、デプスインタビューで人の深層心理に迫るには90分程度の時間をかけるのが通例だった)

それがすべて間違いというわけではない。特にマーケティングやプランニングへの活用に主眼を置くのであれば、品質や精度を求めすぎず、さくっと調査して最低限の情報を得て、企画の検討に充分な時間を取ることがビジネス上求められる。

実際、自分がジョインした会社ではそういう形で調査を提供することが多い。インスタントが悪なわけではない。必要に応じてヘビーなものからライトなものまで選択できるということが大事だ。ただ自分の中の一つのケジメとして、30分のインタビューを「デプスインタビュー」と表現することは意図的に避けた方がいいなと思っている。(1:1のオンラインインタビューという表現の方が適切な気がする)

今僕は、フリーランスとして「企画会社」にジョインしている(調査会社ではない)。調査の品質と精度に必要以上にこだわることを一旦やめた。求められるレベル感を見極めて、最もコスパの良い手法と設計を選択することを基本方針とした。オーバースペックな調査提案にならないよう、マインドを切り替えた。

調査は人間理解だという信念は持ちつつも、そもそも調査で全てを解き明かすことなどできない。だったら徹底的に無駄を削ぎ落したライトな調査であってもビジネス上は成立する。ハイスペックな調査を目指したくなるのは、実は調査マンとしてのエゴなのかもしれないと気付かされたのだ。

調査には必ず目的があり、目的設定の前提にはマーケティング課題・ビジネス課題がある。調査そのものが目的ではない。調査を「やりすぎた」人間だからこそ、この前提に立ち返ってプロジェクトにコミットすることを改めて意識しなければならない。

今、フルリモートリサーチャーとして

フルリモートで調査を仕事にするということは、生身の対象者を直接目で見る機会が限りなくゼロに近いことを意味する。それは伝統的な調査手法をベースにするなら致命的ともいえるディスアドバンテージだ。しかし現在はネットがある。従来型の調査でしか解決に導けない領域は確かにあるものの、精度よりもコスパとタイパを重視するプロジェクトにおいては、ネットリサーチがあれば概ね用は足りると言っても過言ではない。

そんなフルリモートリサーチャーの一人として改めて思うのは、コスパとタイパを重視する調査手法を採用する一方で、現場で感じたライブ感、生身の人間が対象であるという調査の原理原則を常に頭の片隅に置いておかねばならないということだ。言うなれば、「たったひとり」の生活者の姿を頭の中にありありと描けること。それが本来の調査スキルと呼ばれるものだと思う。

その基本を外さず、思考を止めないこと。
データを見て、何となく「わかったつもり」にならないこと。
多角的・多面的に思考すること。言葉を磨くこと。

リモートワーク環境で調査を仕事にする者として、改めて生活者インサイトを探ることの難しさを痛感しながら、プロジェクトの最適解を探している。
正解はないが、最適解はある。そう信じて。


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