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「涙の女王」 - 雪解けを待つ種のように、愛は枯れてもまた蘇る

★★★★★

キム・スヒョン×キム・ジウォンという別格カップルのキャスティングに脚本がパク・ジウンとくれば、壮大でロマンティックを極めたラブストーリーが降ってくると確信できます。破綻している夫婦関係から始まる物語がとにかく新鮮で、序盤から引き込まれてしまうこと間違いなし。終盤の展開は正直詰めの甘さを感じましたが、とにかく主役カップルが強くて美しいので最後まで楽しめる一本でした。

3年前に結婚したペク・ヒョヌ(キム・スヒョン)とホン・ヘイン(キム・ジウォン)。クイーンズデパートの社長でクイーンズグループの令嬢であるヘインと、非常に優秀だが田舎出身の弁護士でクイーンズデパートの一社員でしかないヒョヌの結婚は究極の逆玉の輿で、「世紀の結婚」と周囲からは言われていました。

出会ったときはヘインは正体を伏せて勉強がてらクイーンズデパートでインターンとして働いていたため、ヒョヌはよもやとんでもないお嬢様と知らずヘインに恋してしまい、ヘインもまた何かと自分を気遣ってくれるヒョヌに心惹かれていきます。身分の違いを乗り越えてゴールインしたふたり。

しかし3年を経て夫婦関係は冷え切っており、財閥一家の婿としての生活に限界を感じていたヒョヌは離婚を望んでいました。強烈なキャラクターが揃っていて、身内同士での睨み合いも激しいホン家の面々。ヒョヌは能力を認められてはいますがいいように使われている感は否めません。

遂に離婚の決意を固めたヒョヌはヨンドゥリ村の実家に行き、家族に離婚を宣言します。そして家に帰ると離婚の書類を手にヘインの部屋へ行き「話がある」と切り出しますが、その前に自分も言うことがあると告げるヘイン。もともと表情の乏しいヘインですが、淡々と彼女は自分が余命3ヶ月を宣告されたと話すのです。

ヒョヌは驚き、思わず手に持った書類を後ろに隠します。そして彼は結局離婚を言い出すことなく、目に涙を浮かべながらヘインを抱きしめ「愛してる」と伝えるのです。しかしそれは決して悲劇を前に愛情が蘇ったわけではなく、もうすぐヘインが亡くなるならそれまでは耐えようという計算から来るもので…。

何より面白いのはヒョヌの心境の変化と、それを見事に表現するキム・スヒョンでした。妻への気持ちが冷めきったところから始まり、ヘインの病を知れば彼女の死を心待ちにすらしている序盤のヒョヌ。ですが、この物語は時間をかけてふたりがもともと育んでいた深い愛情を解き明かしていきます。それにつれてヒョヌは心の奥底で冬眠してしまっていたかのようなヘインへの想いを取り戻していくのです。

一方のヘインは感情表現が少なく、ヒョヌをどう思っているのか初めはほとんど読み取れません。ですが、根本的にはヒョヌだけが自分の味方だと考えているようでもあり、表に見せないだけで行動はヒョヌを思いやって見えます。そんなヘインの心情もまた次第にシンプルになってゆき、とても素直にヒョヌを愛していることが分かっていきます。一度は隔たってしまったふたりの距離が徐々に確実に戻っていく、そして苦難を経たからこそ以前より遥かに深みを増している互いへの想い。主演ふたりの抜群の演技力が魅せるストーリーだと思います。

キム・ジウォンのキャラクターはパク・ジウン作品ならではの強さと慈愛を併せもつ女性で、設定こそ現実味は少ないかもしれませんが、こんな風に強さを養ってしまって正直な感情を見せられず、でも豊かな愛情を秘めているような人は非常に現代的な気がしました。キム・ジウォンの圧倒的美しさのなせる技でもありますが、なんならコミュ障なのにとても魅力的です。

ふたりの間に割って入るユン・ウンソン(パク・ソンフン)はすっかり悪い役がハマっていますが、どこか悲しい人生を感じさせる絶妙なキャスティング。彼がもう少し救われたらいいな、と思ったり思わなかったりしつつ…意見の分かれるところでしょうか。

贅沢なカメオ出演も本作では話題になっていましたが、ソン・ジュンギが思い切りヴィンチェンツォで登場したときは嘆息モノでした。細かな見どころも多く楽しみ方も様々なドラマです。

冒頭にも書きましたが、ラスト3話くらいは賛否があるんだろうなと思います。が、個人的にはやはりヒョヌとヘインが枯れ果ててしまったかに見えた愛情を再び蘇らせていく過程こそがこのドラマの素晴らしさだと思います。ふたりの過去を少しずつ見ることで視聴者もまた同じ気持ちを辿れるような気がします。家族の愛情についても同じように、丁寧に振り返っていく本当に優しいドラマでした。



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喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

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