「弁論をはじめます。」 - 様々な味わいを同時に飲み干すミクスチャーサスペンス
★★★★+
Disney+配信の韓国ドラマは結構新感覚なものが多いというか、独特の感想をおぼえることがよくある気がします。この作品も観始めてしばらくは世界観を見定められずゆらゆら船に揺られているみたいな気分で観ていました。ミクスチャー系というか、ミステリーもコメディもヒューマンドラマもフラットに混ぜ合わされている不思議な風合い。あらすじは以下のような感じです。
ノ・チャッキ (チョン・リョウォン)は大手法律事務所「張山」で、勝つためにはなんでもやるスタンスでエースの座を握っている弁護士。週に100時間以上でも働き続け、所属事務所の次期パートナーの最有力候補にまでのし上がりました。
しかし彼女は、パートナー選定を左右する重大案件でまさかに失敗。一旦は田舎町で国選弁護人として働くことを余儀なくされます。これまでの華やかな生活からの格差、そして新たに同僚となったチャ・シベク (イ・ギュヒョン)のことが嫌でたまらないチャッキ。司法研修所を首席で卒業したにも関わらず、すべての法律事務所のオファーを断って弱者のために自らの血も流すような国選弁護人になったシベクは変人で有名でした。ですが長きに渡って仕事をともにしてきた事務長も私生活を知らないミステリアスな面もあるシベク。
当然のようにウマの合わないチャッキとシベクですが、互いの仕事ぶりを見ているうちにどことなく惹かれ合う部分もあり…。そんな中、世間では資産家の老人が殺される連続殺人事件が発生し、その残酷さにざわめきます。果たしてこの事件とチャッキたちを結びつけるものとは?
入りを断片的に見ていると、チャッキとシベクという真反対の弁護士である男女が真反対ゆえに惹かれ合っていくラブストーリーのような様相もあります。ですがわりと序盤で凄惨な殺人が起こり、水槽にインクを垂らしたようにガラッと雰囲気が変わるのです。かといって完全にミステリーに転換するわけではなく、チャッキとシベクのコメディのような掛け合いや様子を伺い合うロマンスは健在。ときにヒューマンドラマ的なシーンもあったり、かわるがわる色々な味わいを楽しめる作品です。
次第に物語は連続殺人事件の真相に向かって収斂されていくのですが、これもなかなか二転三転。誰を信じていいか分かりません。犯人はもちろんのこと、良い人・悪い人が見えているようで見えなかったりもする。ですがそんな中でチャッキとシンクロするようにシベクがものすごく素敵な人に思えてくるのです。本当にいろいろな作品にいろいろな役で登場するイ・ギュヒョンですが、こんなにもかっこいい大人の男性の役でも魅せられるんだとうなりました。これぞ演技力。個人的には「刑務所のルールブック」のハニャンがとてつもなく好きなので、もはや同じ人が演じているとは思えないのですが、同じ役者だと思って見るとシベクの男の色気が5割増しくらいになって見えました。うーん、これはイケメン。
チョン・リョウォンのチャッキも印象に残るキャラクターです。地位と金に振り切っていた序盤から人情味に溢れた闘いを見せる終盤までの心境の変化をうまく描きつつも、一貫して強さと揺らぎが共存する独特の眼差しを見せます。無表情が多くを語るタイプ。その分、たまに浮かぶ笑顔がかわいかったり。シベクとの掛け合いは見ていて飽きません。
真犯人が分からず翻弄されるサスペンスって犯行動機が意外と陳腐なことも多いと思うのですが、この物語の真相は結構ずっしり重めでした。でも悪役はとことん悪役。最後はしっかりと結末を迎えるので後味は爽やかです。普段は脇役としてドラマを支えているような俳優がど真ん中の役割を果たしていくだけで見応えは十分以上にある一本。中だるみもなくテンポよく観られる長さと奥行きのバランスがいい全12話でした。
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