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「未成年裁判」 - 圧巻のキム・ヘス。少年とは、大人とは

★★★★★

キービジュアルだけを見たときはスペクタルな法廷サスペンスなのかなと思いましたが、むしろ社会派の作品と聞いて興味が湧き観始めました。この作品はタイトル通り「裁判」が主な舞台ですが、事件や謎を解決することが重要なのではなく、あくまで少年犯罪の渦中に存在する人々の人間ドラマを描いていくのが印象的です。子供なのか、大人なのか。事実なのか、心なのか。感情なのか、信念なのか。判事という公正さの権化のような職に就く主人公たちが向かい合うのは、未熟なのか異様なのかも分からない少年たちで、少年犯罪はどうしても家庭環境と切り離せない部分があります。成年の裁判のように罪に応じて刑罰を与えるのではなく「更生」という目標がある少年裁判の特殊さと問題点をしっかりとあぶり出すつくりになっているドラマでした。

ある日、13歳の少年ソンウが血塗れの姿で警察署に自首してきます。彼は近所に住む8歳のジフを殺し、斧で遺体を解体してマンションの屋上に遺棄したのです。世間を震撼させる凶悪犯罪ですが、犯人はまさかの13歳。14歳未満の少年は触法少年(14歳未満で犯罪行為を行った少年)として刑事罰の対象になりません。

そんな中で地裁の少年刑事合議部に着任した判事のシム・ウンソク(キム・ヘス)。非常に優秀ですがにこりとも微笑むことのない鉄面皮のような彼女は非行少年を嫌悪していると言います。一方で左陪席のチャ・テジュ(キム・ムヨル)は担当した子供たちを処分後も丁寧に面倒をみ続けるような判事。対照的なふたりが社会復帰した子供たちと会食をしていると、そのうちの一人の少女が他の客の財布をするのをウンソクは目撃します。その少女を捕まえると憎しみすら感じられる目で「だからあなたたちが嫌いなの」と言い放つウンソク。テジュはそんなウンソクに戸惑います。

ジフ殺害事件の裁判では「14歳未満は刑務所に入ることはない」と鷹を括った様子のソンフ。しかし審理を進めるうち、ウンソクはソンフの話に違和感を覚えます。どうやら事件にはまだ裏がありそうで…。

冒頭で登場する小学生殺害事件は実際に韓国で発生し世の中を驚愕させた少年による児童殺害事件がモチーフとされています。10代の幼い子供が快楽殺人のような罪を犯したとき、果たしてその先に「更生」は存在しうるのか。初っ端からゾッとするような物語です。ここでは同時に、刑事罰を受けない「触法少年」と言う存在とそれを利用しようとする狡猾な少年の姿が描かれます。法をなめている子供たちに対してウンソクがどんな法廷を見せるのか、その考えの深さに「なるほど」と思わされるスタートでした。(ちなみにこの少年ソンフ、本当に声変わり前の少年にしか見えないのですが実は27歳の女優さんだと聞いて驚きました)

続くエピソードたちも、いずれもウンソクの客観的で問題の本質を見極めようとする裁きに共感を誘われる、そんな内容になっています。ウンソクにもまた消えない痛みを伴う過去があり、そこから来る非行少年たちへの嫌悪がある意味で彼女の原動力なのかもしれません。時に暴走を見せるウンソクは、その無茶がもどかしく思える場面もあるのですが、それでも決して公正に俯瞰する視点を失わない姿がとても美しく感じました。人ではなく罪を憎み、怒りに燃えるような目がこの作品のコンセプトそのもののようです。それを表現できるキム・ヘスと言う役者あってなのかもしれません。

かたや感情に振り回されがちなタイプを代表するテジュは、頼りなさもありますが遠回りしてもいつもウンソクを理解してくれる救いのような存在。また、ウンソクとテジュの上長としてふたりの部長判事が登場します。ウンソクの信じる道を妨げることもありますが、彼女の裁判の意味に手触りを与えるためのアンチテーゼとして効いており、観ている側によく考えさせる構造になっている気がしました。

少年法に関する議論は日本にもあると思いますが、論点も多く本当に難しい問題なんだなと思います。厚みのあるドラマの中に自然とそう言う感覚を織り交ぜてある作品でした。とにかく濃いので、個人的には一気観できずエピソードごとじっくり観ましたが、無駄に引っ張ることをしない全10話はテンポもよく純粋に面白いです。ラストシーンのキム・ヘスが非常にカッコよく(51歳と知ってこれまた驚きましたがいろいろな意味で美しい人)、彼女の圧倒する存在感に酔える質の高い一本でした。

▼このポスターのキム・ヘス、痺れます



▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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