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「サンクチュアリ -聖域-」 - 一瞬の凄みを極めたメイドインジャパンドラマ

★★★★★

大相撲が舞台でヤンキーの成長物語と聞くとどうしてもそそられて観始めてしまいました。制作費が潤沢なのか、Netflix作品は邦ドラマも押しなべてクオリティ高いですが、中でもこの作品は相撲という日本独特の舞台を贅沢に描いているのでまさしくメイドインジャパンここにあり、といった趣き。キャスティングも撮影も強いこだわりを感じる非常に面白い一本でした。

寿司職人だった父親が店を潰し夜間交通整理で日銭を稼ぐ姿、すっかり男にだらしなくなってしまった母親を眺めながら福岡で荒れた暮らしを送っていた小瀬清(一ノ瀬ワタル)。元は有望な柔道選手だった彼は、ひょんなことから相撲をやらないかと声をかけられます。横綱になれば億単位で稼げると言われ相撲部屋に入門する清でしたが、挨拶もまともにできない中で礼節を重んじる相撲の世界はなかなかに厳しいものがあります。

兄弟子の猿谷(澤田賢澄)などからの激しい嫌がらせに出ていこうとする清。ところが、同部屋で相撲オタクの力士・清水(染谷将太)に「才能があるんだから逃げるな」と引き留められます。反抗的な態度を取り続けながらも清は「猿桜」の四股名で次第に頭角を見せていくように。問題児としてたびたび窮地に立たされはしますが、猿桜の相撲の不思議な魅力に周囲も次第に惹かれていくのです。

「スラムダンクっぽい」という評判も目にしましたが、たしかにそんな風合いもありつつ、面白さの核にあるのは力士たちの醸し出すオーラのように感じました。主演はじめ元格闘家、元力士、元ラガーマンといった本格的に肉体派のキャスティングで相撲ドラマとしてのリアリティがまず凄い。そして本物のアスリートだからこそか、稽古や取り組みのシーンで見せる彼らの一瞬の表情がゾクッとするほど強いのです。ただの演技ではない迫力に満ち溢れ、相撲という生身の肉体同士でぶつかり合うスポーツならではの、独特な深淵に痺れました。

相撲部屋の描き方や先輩力士が後輩をいじめるシーンなどはデフォルメもあるみたいで、特に序盤なんかは「『クローズ』なのかな」と思うくらい烈しい画面も多々ありましたが、一方でそれはそれでヤンキー漫画っぽいコミカルさも兼ね備えた見やすいテンポ。ウブな清をもてあそぶホステスもいれば、跳ねっ返りの女記者がいたり、イケメン優等生の大関や怪物レベルのライバルもいて、鉄板のキャラ配置とエピソード展開は番狂わせはなくとも絶対に裏切らない仕上がりです。個人的には清水が清を引き留めるシーンの染谷将太がとても好きでした。清をそこで引き留めるために自分はここに来たのだと思った、そんな彼のセリフがグッと来ました。才能というのは優劣ではなく個性なのだと思わされます。ですが才能は磨いてこそのもの。清・猿桜が周囲の期待や妬み、裏切り、いろいろなものを受け取って磨かれていく姿は清々しいものがありました。強くなるほどに、自ずと礼儀も備わっていく。その過程がよく分かります。

そして四股の意味や小指の重要性といった、相撲初心者にも理解しやすい要素を知ることで、長い伝統のあるスポーツとしての相撲の面白さにも少し触れることができました。究極にシンプルなスポーツですが、強さには実に筋道立った骨組みがあるものです。だからこそ人は強くなることができる。そこに魂に響くエンターテインメントがある。8話では描ききれなかった部分も多々ある気がしましたがシーズン2想定なのでしょうか。とはいえこの8話だけでも無駄なく研ぎ澄まされた良作。一瞬で一気観できます。


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