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「マイネーム: 偽りと復讐」 - 血と闇の似合うヒロインと誰のことも赦さない物語

★★★★+

ドラマの魅力を決める要素にもいろいろあると思いますが、ノワールを仕上げるのはやはり問答無用の戦闘、殴り合いな気がします。物語の緻密さとかよりもそういう血飛沫が飛ぶシーンの気合いで語ることに重きを置く。ひとつの視点だと思います。

このドラマはハン・ソヒが筋肉で10kg増量して挑んだという話に興味を惹かれて見ました。物理的な役づくりというのはシンプルな気もしますが安易にできる話ではないので、そのくらいの意気込みで臨んだ作品は何かしら面白さを築いているんじゃないかと思いました。「わかっていても」で見せたごく普通の、ごく可愛らしい女子からの落差も楽しめそうという期待。実際、ダメ男に振り回される気の優しい女子大生の余韻は欠片もなく、激しく過酷な運命を凄まじい生命力で生き抜いていくヒロインを研ぎ澄まされた野良猫のような眼で演じていました。特にラブシーンに至ると、「わかっていても」のナビとは完全に別人です。

そんなヒロインは、姿を消した父親が暴力団の構成員だと言って周囲から冷たい目を向けられ高校の退学を迫られるジウ(ハン・ソヒ)。最低だと思っていた父親ですが、ある日銃で撃たれて死んでしまいます。犯人の顔は見えなかったものの現場に居合わせたジウは、本当は大切な父親への想いを胸に復讐を誓い、犯人を見つけるため父親がいた組織に入るのです。

どうやら犯人は刑事らしいということを知り、父親の信頼する友人でもあった組織のボス、ムジン(パク・ヒスン)の助けを得ながら警察に潜入するジウ。しかし次第に明らかになる真実は予想を大きく裏切るもので…。

主人公がハン・ソヒであろうと、初めから終わりまで残酷な裏社会とそこに沈む複雑に絡み合った人情を描く世界観はヒリヒリとして気が休まりません。そしてそこに実に違和感なく存在するジウ。

初めこそ正直ジウがケンカが強すぎて、ご都合主義のような印象もなきにしもあらずだったのですが、振りきって復讐に生きる少女の荒んだ気配と地頭の良さがうまく醸し出されていて次第に馴染んでゆきます。とにかくアクション自体もクオリティ高く、めちゃめちゃ強い女子の魅力を堪能できます。

そして欠かせないのは、パク・ヒスン演じるムジン。麻薬組織のトップであり、家族のことはどこまでも守り裏切り者を決して許さないお手本のような極道です。これがまたとにかくかっこよくて。ジウにだけは裏切られたくない、どこかそんな気持ちを窺わせる悲哀もまた華を添えています。

ジウのパートナーになるピルト(アン・ボヒョン)も目の離せないキャラクターなのですが、いかんせん王道ノワール感があるので、どう転んでもハッピーエンドの予感がまったくしませんでした。誰かしら救われてくれればいいけど…という不安が絶えない、そんな辛さはありつつですが、全8話という絶妙なさじ加減で中だるみなく一気に完走できます。

D.P. -脱走兵追跡官-」もそうでしたが、ストーリーの緩急を最大限活かせる最適なサイズで作られているドラマという感じがして、表現というのはかくあるべきなのかもしれないと思ったりもしました。たまに訪れるノワールへの渇望に程よく、闇に生きるキャラクターたちのかっこよさにどっぷり浸かれる一本。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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