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「ペーパー・ハウス・コリア: 統一通貨を奪え」 - 人物の奥行きで魅せるクライムエンタメ

★★★★+

スペインの人気ドラマ「ペーパー・ハウス」の韓国版ということで、赤いつなぎに白い仮面という派手な出で立ちが目を引く強盗団の物語。もともとあまり手を出さないタイプの作品ではありましたが、クオリティを裏切らないパク・ヘスがメインのキャラクターを演じていることに惹かれて観ました。ただし、「全6話!観やすいじゃん!」と思ってうっかり足を突っ込んだものの、1シーズンでは何も解決しないパターンのやつです。Netflixにおけるシーズンの定義が気になりますが、しばらく間を空けてシーズン2の配信があるようなので、別シーズンというより長編漫画の途中で休載挟む感じでした。「攻殻機動隊 SAC_2045」なみに普通に途中で終わる感じなので、いやー続き気になるわ。

2025年。南北統一を間近に控え、「共同経済区域(JEA)」なるものを設立した南北朝鮮。北の軍隊出身でBTSが大好きな少女(チョン・ジョンソ)は成功を夢見てソウルへ向かいましたが、悪質な業者に騙されて借金まみれになります。お金を返すために働かされていた彼女は、ある日女を食い物にする男たちを銃で撃って逃走。指名手配の身になってしまいます。

そんな中で自殺をはかろうとした夜、彼女に「教授」と名乗る男(ユ・ジテ)が声をかけてくるのです。教授に誘われて4兆ウォンを盗む計画に参加することにした少女。

教授に引き会わされた仲間たちはみな世界の都市の名前を名乗っていました。超凄腕ハッカーの青年・リオ(イ・ヒョヌ)、頭は悪そうだが陽気な元ファイターのデンバー(キム・ジフン)、詐欺師のナイロビ(チャン・ユンジュ)、生きて帰れないはずの北朝鮮の刑務所を脱獄してきたというベルリン(パク・ヘス)などなど…。そして少女は「トーキョー」を通り名にします。

彼らが狙うのは南北の統一通貨。誰ひとりとして犠牲者を出さずに4兆ウォンを奪うことがミッションです。そして金を奪う場所はJEAの造幣局。予定どおり突入し、現場にいる面々を人質に立てこもるチームですが、各自の思惑もあるメンバー同士で衝突も生まれます。人質のメンツもクセが強く、一方で事件の解決をはかる警察サイドも南北合同編成で臨むことに。統一前に失敗は許されないため、あちらでもこちらでも様々な計算が絡まり合います。

大きくは強盗団、人質、警察というそれぞれのグループの物語があり、それぞれに南北の概念があり、さらに一段階深くてなかなか見えてこない教授の真の目的。要素が多いのですごく複雑そうではありますが、終始エンターテイメント感を失わない見せ方の質の高さでどんどん観進めて行けました。なおストーリーにとって必要なのは分かっていても、事件現場に付きものな身勝手がすぎるキャラクターには心底イライラします(笑)。頭に来る登場人物に憤慨してはそいつがやりこまれる姿を見て溜飲を下げるの繰り返しでした。

先に行くほど独特の存在感が滲み出てくるのがベルリン。強烈な生い立ちを背負い、合理的に冷酷に場を掌握していく姿はなかなか背筋に来る凄みを持っています。至って客観的に物事を眺めて自分の判断を疑っていない、そんな思考回路が視覚で伝わってくるような表情の数々がさすがパク・ヘスといった印象。ですがとりあえずシーズン1の中においてはベルリンの本当の意図みたいなものは分からないまま終わってしまいました。たぶん彼の人生の背景が明かされてきたらめちゃめちゃベルリンの沼にハマるんじゃないかというそこはかとない予感がする存在です。

教授と警察の交渉係ソン・ウジン(キム・ユンジン)、デンバーと人質のひとりであるユン・ミソン(イ・ジュビン)、トーキョーとリオといった組み合わせによる濃淡バラバラなロマンスも並行して展開していき、結構多角的に楽しめるドラマですが、一番グッとくるのは教授による計画の緻密さかもしれません。「おおっ」と感じる場面も散りばめられ、とにかくエンタメ力の強い作品です。演出のテンポなど、どことなく「イカゲーム」のメガヒットを踏まえてる部分もあるのかなと思いましたが、個人的にはこちらの方が断然面白かったです。原作のスペイン版にも興味が湧きましたが、大きなあらすじは同じみたいなので韓国版が完結したら観てみようかな〜と思います。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

喜怒哀楽ドラマ沼暮らし


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