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「模範タクシー」 - 痛快を約束する復讐のカタルシス

★★★★+

「復讐代行タクシー」というキーワードの妙にそそられる響き。法律が罰してくれない悪に裏で密かに(こっぴどく)鉄槌を下していくタクシー会社の物語ということで、幼いころミュータント・タートルズが大好きだった私的になんとなく「間違いなさそう」な印象で鑑賞スタートしました。反省しない犯罪者を排除したいタクシー会社の社長が資金を出し、ターミネーターみたいに強い主人公がガジェットみ満載のタクシーに乗って悪を懲らしめていきます。爽快で面白い復讐劇が続く全16話。

ドラマは性犯罪者のドチョル(チョ・ヒョヌ)が心身衰弱を理由に減刑されて出所するシーンから始まります。当然、世間からの批判を盛大に浴びながら刑務所を出たドチョルの前に「模範」と書かれたタクシーが止まります。そのままドチョルはそのタクシーに乗り込みますが、タクシーはマスコミを撒いてトンネルの中へ。そしてドチョルは行方不明になってしまいます。

タクシーを走らせていたのは運転手のドギ(イ・ジェフン)。ドギの勤めるムジゲ運輸は表向きは普通のタクシー会社なのですが、ドギたち一部の特殊な社員たちで実は裏の「模範タクシー」を運営しています。法で裁けない悪人たちに対し、犯罪被害者からの依頼を受けて復讐を代行する模範タクシーが、今日も弱者のSOSを受けて走り出します。

一方で検事のハナ(イ・ソム)は模範タクシーの存在を探り始め、自身に降りかかる出来事も経ながら法と悪の間で何が正義か揺れ動いていくように。また、模範タクシーのメンバーたちにはそれぞれに犯罪者を許せない強烈な理由があるのです…。

毎回依頼者たちは復讐くらいしないと報われなすぎるといった状況に置かれており、基本的に目には目をスタンスで模範タクシーが加害者をやっつけていく姿が本当に愉快。時にユーモアもありつつ、彼ら自身の心の傷に触れざるを得ない場面もあり、非常に抑揚の効いた展開を見せていきますが、終盤が見えてくるあたりから次第に様相が変わってゆき、少し違った場所に大きな敵の存在が見えてくるようになります。この相手がかなりクレイジーなため序盤こそ軽快に見えていた世界観が徐々に残酷さを増していって、ちょっと正視しづらいシーンも。ただある意味、ここで手加減しないことが作品として仕上げの加速度を生んでいます(意見の食い違い?で11話から脚本家が交代したそうなので、それによる変化が大きいのだろうとは思います)。

主人公のドギは初見はともすれば無骨で冷淡そうなのですが、作戦の中にあっては非常に熱く、とにかくべらぼうに強い。そして必要とあれば抜群の演技まで披露してしまうマルチな才能。そんなスーパーマンをさらっと演じているイ・ジェフンが凄いなとしみじみ感心しながら観ていました。顔立ち含めて地味にも派手にもなれる独特の存在感と特殊部隊出身と言われてなんとなく肯ける肉体の強さ。彼が中心にいることでドラマ全体にしっかりした出汁が出てるような感じがしました。

また、個人的にはムジゲ運輸の社長であり模範タクシーチームのボスであるチャン・ソンチョル(キム・ウィソン)が妙に好きでした。内心には犯罪者たちへの凍るような憎しみを持ちながら、人情味に溢れ、とにかく笑顔の優しい素敵なおじさん。タクシーメンバーたちへの接し方、慈しみ方がドラマの中でどこか癒しになっています。ハナの上司であるチョ次長検事(ユ・スンモク)とソンチョルのおじさんコンビもまた良い味に。

正義のヒーロー的な感じで復讐代行を果たしていくチームですが、復讐はすれば返ってくるもの。彼らもまた自分たちだけで復讐を完結できるほど完璧ではなく、どうしても闇と手を組まざるを得ない部分があり、そこからの綻びが自分たちを危機に追い込んでいくことに。主人公たちも際どいところで生きていて決して安全ではないこの感じが、テーマとしての「復讐」の輪郭を鋭く描き出していました。

最後のエピソードは避けて通れない仇との対峙になりますが、思いのほか淡々と進む復讐に、かえってそれこそが正解のように思わされる着地。そしてエンディングはある意味、こういうチームものとして理想的なものでした。人気作品だったのも納得、シリーズ化もありそうなドラマです。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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