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「国民死刑投票」 - 悪魔、刑事、英雄、そして群衆

★★★★

大好きパク・へジンが孤高の敏腕刑事、ノリに乗ってるイム・ジヨンがサイバー捜査官、キーマンとなる娘を殺された法学者がパク・ソンウンというツボすぎるキャストで1話からリアルタイムで鑑賞しました。最後まで反転と予想外な展開が続き面白く観ましたが、全体に既視感が強い物語とウェブトゥーン原作ならではの漫画みの強さが少し好みでなかったので星4つ。ですがパク・へジンのこういう硬派(?)でイケメンを封じた役どころは結構アリだと思います。

キム・ムチャン(パク・へジン)は証拠を捏造してでも犯人を捕まえる南部庁の刑事です。やり方は荒いですが非常に優秀。彼はとある辛い過去を抱えており、罪に見合わない刑罰しか受けない犯罪者を強く憎んでいました。

ある日、児童を相手にした性犯罪を犯しながら1年半の短い刑期を終えた犯人のペ・ギチョルが釈放されます。社会からは反対の声も上がりますが、本人は反省の色もなく悠々と檻の外へ。そんな中で突然、人々のスマホに「国民死刑投票」という画面が立ち上がります。そして犬の仮面を被った人物がペ・ギチョルの死刑の賛否を問うと、賛成と反対を選択できるように。戸惑いながらも明らかに悪だと言えるペ・ギチョルに対し、賛成が多数を占める結果が出ます。するとペ・ギチョルは本当に殺害された状態で発見されてしまうのです。

たまたま妹のパソコンに入ったウィルスを調べていて「国民死刑投票」と同じ犬仮面の人物の動画に行き当たったジュ・ヒョン(イム・ジヨン)はムチャンとともに捜査にあたることに。ムチャンもまた、犬仮面の発した言葉からとある人物のことを思い浮かべていました…。

法が正しく裁かない犯罪者を私的に罰するダークヒーローというのは昔からある物語のひとつの型ですが、本作の主人公はそんな犬仮面を追う刑事。刑事自身もまた悪に相応の罰を与えたい願望の持ち主であり、何より犬仮面とは浅からぬ因縁がある(と思われる)ので登場人物みんながどちらに転んでもおかしくない怪しさ満載でストーリーは進行します。中でもキム・グォン演じる最初から200%悪役のミンスが、悪いは悪いのですがどの立ち位置なのか読めずずっと振り回されました。キム・グォンの吹っ切ったサイコパス演技があったからこそ、このドラマのテーマに説得力が生まれた気もします。

パク・ソンウン演じるクォン・ソクチュは知性溢れるイケオジですが本心を決して見せず、犯人のようでもあればムチャン側のようでもあり…。このあたり役者陣の充実を感じました。イム・ジヨンは本当に見るたびにキャラクターががらりと違ってすごい。「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」の性格がひん曲がった成り上がりセレブとも「庭のある家」の悲壮さと逞しさを共存させる女とも違って、ごく普通に家族を慈しみ仕事に邁進する一本気な女性捜査官として、誰も信じられないような作中で「この人は裏切らないだろうな」という安心感を与えてくれる稀有な存在でした(そんなヒョンにも悲しみはあるのですが)。

終盤は人物関係も概ね分かってあとはどう落とし前をつけるかの話になっていくので、ミステリーというよりはドラマティックな展開に。エンディングについては各自の心に傷を残すことになり、シーズン2ももしかするとあるのかもという感じでした。

基本的にはアプリの非常に手軽なUIで犯罪者とはいえ他人の生死を選ばせてしまう現代的な群衆心理の恐ろしさが画面を支配している印象です。犬仮面の造形も相まって、ややホラーな漫画のようなテイスト。ごく個人的にはその昔、「金田一少年の事件簿」を観たときの感覚に似ている気がしました。

悪役はただ悪としてあるので、なぜそうなってしまったかみたいな背景は特に描かれません。なのでどこか怪談みたいな気持ちを持つのかもしれません。描いたら話に深みは出るかもしれませんが、この独特のダークさとどちらが良いかは好み次第でしょうか。役者がいいのでもうちょっと重厚でもよかったかもなと思わなくもありませんでした。悪役が揃いも揃ってクセが強い分、ムチャンは比較的フラットに見えますが、彼の闇と内面にもっと焦点があたるような続編があるならぜひ観てみたいです。



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