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「二十五、二十一」 - 眩しくて切ない、何のために青春が存在するかを知る傑作

★★★★★+

何を考えて観始めたわけではなかったのですが、気軽そうな雰囲気と「スポーツ青春モノっぽい」印象でスタート。それが2話の後半にイメージが転覆して、気づいたら滝のように涙が流れていました。90年代と言う舞台もあってか一種のレトロ(ニュートロ?)さと、弾けるようなポップさがある一方で、どこか得も言われぬノスタルジーと恋愛に限らない苦しいほどの切なさもあり、そんな中とにかくキム・テリ演じるヒロインが優しくて強くて、底抜けに心根のいい子なのです。彼女のエネルギーあふれる笑顔が本当に素敵で、彼女が笑うだけで泣いてしまいました。「ミスター・サンシャイン」を観ておらず、キム・テリという役者を初めてちゃんと目撃した気分なのですが、本当に太陽のように眩しいパワーに溢れていて釘付けになりました。

始まりは1998年。IMF通貨危機で人々の生活が一変してしまった韓国のとある高校でフェンシング部に所属しているナ・ヒド(キム・テリ)。彼女はフェンシング韓国代表のコ・ユリム(ボナ)のライバルになるという夢を描いて頑張っていましたが、IMF危機のあおりで部活動の予算が縮小され、彼女のいるフェンシング部が廃部になることに。

有名なニュースキャスターである母親(ソ・ジェヒ)にはこれを機に勉強に専念するように言われますが、フェンシングを諦めることができないヒドは、ユリムが通う強豪の太梁高校への転校を目論みます。そんな中で、新聞配達をするペク・イジン(ナム・ジュヒョク)との出会いが訪れます。22歳のペク・イジンはヒドが住む町に越してきてアルバイト生活をしていますが、もともとは大企業の御曹司で将来はNASAで働くことを夢見てた青年。それがやはりIMF危機の影響で父親の会社が倒産し、一家離散の憂き目に遭って大学に通うこともままならなくなってしまったのです。再び家族で暮らすことを目標に頑張りつつも、どこか人生の希望も夢も全て失ってしまったようなイジンと、時代に邪魔されようと決して夢を諦めないヒドは、いつしかお互いの人生を応援しあうようになって行きます。ヒドは夢見てきたユリムのライバルの座、そしてオリンピックの金メダルを目指して邁進し、そんなヒドを心底愛して自らも自分なりに人生を取り戻していくイジン。

ヒドとイジンのロマンスが確かに軸となるのですが、いわゆる恋愛ドラマのロマンスとはまったく違って、このふたりの間に生まれるのは互いの生き様を支えにそれぞれ逞しく前に進んでいく得がたい絆です。互いがいるからこそ夢を見ることができ、誰よりも互いを応援して、理解しあえる。イジンがヒドに「これは愛だ」と言うシーンがありますが、確かにもはや単純なときめきとかではなく、「間違いない、愛でしかない」と深く溜息をついてしまいました。ふたりの恋愛に焦点があたってくるとヒドが未成年だということで視聴者から批判的な意見もあったりしたみたい(?)ですが、このふたりの関係性は年齢に関わらず人と人として磁石の両極みたいに惹き合うものだと思います。

実際のキム・テリは32歳にも関わらず、10代の青さや純粋ゆえの物怖じしなさをあまりにも自然に演じていて、またイジンがヒドを見る瞳は間違いなく4つ年下の愛しい存在を慈しむそれで、たまに「本当はキム・テリのほうが年上なんだよなあ」と思い出すと、なんだかそれだけで感動してしまうほどでした。

同じくヒドとユリムの間にやがて芽生えていく友情もまた深くて美しいもの。序盤こそヒドにとってユリムがアイドルでしたが、いつしかユリムにとってヒドがヒーローのように見えてきました。終盤で訪れるふたりの対決は、何かスポーツで感じうるあらゆる感情が詰まっているようで、ずっと涙が止まらなかったです。

大きな大きな時代の渦が何度も個人の夢や想いを飲み込んでしまう現実を強烈に実感させられる作品でありながら、ヒドとイジンはそれぞれ自らの意志で足掻いて飛躍していきます。その中で愛は元の形を保てなくなっていくのですが、それは愛を失うよりも超えていく過程のように感じました。ああ、青春の意味はそういうことなのかもしれない、と。苦しくても、それだけ眩しいものなのだと。永遠に続く愛にしか価値がないわけではありません。完結した愛はその先もずっと道標のような光になる。ヒドとイジンの姿に、これ以上ないくらい完成された青春を見ました。

ヒドの、輝くままに輝かせてあげたいと思わせる魅力はもはや演技を超えて放たれるもので、ドラマが終わってしまって一番感じたのは「ヒドの笑顔にもう会えないのか」ということでした。本当に眺めているだけで励まされました。愛、友情、夢、信念。それぞれがそれぞれだけでも作品にできそうなほど力強く描かれていて、気持ちが弱るようなときにきっとまた無性に観たくなるドラマなんじゃないかなと思います。


このドラマの話で欠かせないのがタイトル曲でもある紫雨林の「二十五、二十一」。もともと2013年リリースの曲だと思いますが、とにかく歌声が記憶に刻まれる名曲。この歌詞をドラマがモチーフにしているのか、ドラマを観ながら聴くと一層刺さります。

▼リスボンのストリート?で歌うこちらの映像も素敵。

▼ちなみに「社内お見合い」のキム・セジョンが歌う「二十五、二十一」がまた良い・・


OSTも思い出のシーンをたっぷり噛み締められる楽しい内容になっていました。海の写真も最高ですが、ヒドとユリムのプリクラがアツい(笑)。

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▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

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