「ミッシングナイン」 - 極限状態を舞台に際立つ色彩豊かな役者の個性
★★★★
チョン・ギョンホ主演作ということで興味を持ったドラマです。共演にチェ・テジュンとEXOのチャニョルというのもタイプのバラバラな3人で面白そうと感じたところ。しかもオ・ジョンセまで出ており、なんとなくオ・ジョンセの出演作は外れないイメージなので観てみました。
事前情報としては「事故で無人島に漂着した9人のサバイバル」「殺人事件が起こる」「主人公は落ちぶれた元人気アイドル」あたりだったので、なんとなく「アガサ・クリスティー…?」みたいなイメージで入ったのですが、最終的にはもっと王道のテレビドラマ的サスペンス!と言った感想を抱きました。
一時はトップアイドルの座に君臨していた3人組ボーイズグループの「ドリーマーズ」。しかしリーダーのソ・ジュノ(チョン・ギョンホ)の飲酒運転事件をきっかけにグループは離散します。解散の原因を作ったことですっかり転落し、仕事もろくに選べない状態に陥っているジュノ。一方で他のメンバーであるチェ・テホ(チェ・テジュン)とチイ・ヨル(チャニョル)はそれぞれに人気を保ったまま活動しています。ジュノと2人の仲はぎこちなくなってしまい、特にテホとは敵対と言っても過言でないような状態に。
そんな中、3人の所属するレジェンド・エンターテインメントのアーティストが全員一緒に海外公演に行くことになります。そしてその日、やっとの思いでソ・ジュノの専属スタイリストの職を手に入れたラ・ボンヒ(ペク・ジニ)も初仕事の現場としてその海外公演に帯同することに。
初めての職場、初めての出勤、そして初めての海外旅行にもなったこの日。ドキドキしながらやってきたボンヒですが、ジュノはワガママ放題といった様子で初対面のボンヒも散々に振り回されます。そして事務所が保有する専用機に乗り込んだ、社長をはじめとするレジェンド・エンターテインメントの面々は、どこかみんなよそよそしかったり感じが悪かったり。しかもボンヒは女優のハ・ジア(イ・ソンビン)がテホと親密な様子まで目撃してしまい気まずくなってしまいます。
不安を乗せて飛び立った飛行機ですが、尋常じゃない乱気流に巻き込まれ、遂には火を噴いて海に墜落。気がついたボンヒは水中でジュノを見つけ、必死にジュノを引き上げるとどこかの砂浜に辿りつきます。けれどそこはどう見ても無人島で…。
そしてそこから数ヶ月後。奇跡的に発見され韓国への帰国を果たすボンヒ。人気アイドルや女優が巻き込まれた飛行機事故の行方に国中の注目が集まりますが、ボンヒは飛行機墜落後の記憶を全て失っており、他の人々の生死やどうやって生還したのか何も分からない状況になっています。そしてそこからボンヒの記憶が少しずつ戻り始め、他の生存者も発見されるうちに、無人島で起こった恐ろしい出来事、そしてさらには過去のある事件の真相まで明かされていくことになります。
冒頭、まず登場するのがスタイリストのボンヒというのが、いい意味で意表を突かれました。芸能人たちの騙し合いみたいな物語の中にあって、非常に平凡で普通寄りの存在のボンヒが起点となることで、変に尖り過ぎずお茶の間にも馴染む世界観で話が進んでいく気がします。
そしてワガママスターのジュノですが、こちらは早々に「まあ、根はいいやつなのだろう」と言った感じが伝わってきます。チョン・ギョンホらしい軽快なキャラクターに癒されるというか、絶望的な無人島スタートでもボンヒとジュノはどこかほのぼのしていて、生存能力も意外とあるので、むしろ平和なドラマなのではという錯覚すら生まれるのですが、島に流れ着いた他のメンバーと合流していくにつれ、腹の探り合いが始まってやがて生き死にを賭けた闘いに発展していくことになります。
それでも基本的にはみんな苦楽を共にしてきた仲間たち。ジュノに対する誤解はあれど、助け合って救助が来るまでどうにか生き延びる努力を続けるのです。そういうシーンは演出もライトでちょっとした笑いもあり、こうした陰影によるテンポのおかげで全編スピーディーにのめり込むように観られる構成にもなっています。
また、無人島でサバイバルするタイムラインと生還したボンヒが記憶を取り戻していくタイムラインを行き来する緩急もあります。ずっと無人島シーンが続くと観ていても気疲れしそうですが、ちゃんとボンヒが助かって韓国に戻れているシーンが挟まることで息をつきながら話を進めていくことができました。とはいえ、他のメンバーの安否がずっと気掛かりなままで、真実が分からないもどかしさは続きます。それがミステリー要素として力強く効いています。そう、軸はミステリーなのです。後半はほぼ無人島を脱出して真実を明らかにしていくフェーズへ。
そしてとにかくギラギラした存在感で圧倒的に画面を支配するのがテホです。わりと序盤からテホがクズ男極まった感じなことは分かってくるのですが、キレイな顔と相まってテホがいる無人島で過ごすことが次第に恐怖に。「この人もう一線とっくに超えちゃってるな」感がゴリゴリに伝わってくるあたり演技の底力なんだろうなと実感しました…。ちょうど並行して「だから俺はアンチと結婚した」(チェ・テギュンが主役で世界的に人気のイケメンスター歌手を演じるラブコメ)を観ていることもあって、脳がバグりそうにすらなる仕上がった悪役でした(顔面は本当にイケメン)。
チャニョル演じるヨルは、ドリーマーズではビジュアル担当だった末っ子で、可愛らしさのある容姿に穏やかな性格で、こと無人島での密室サスペンスフェーズにあっては、ボンヒと並んで癒しキャラとしてなくてはならない存在。こういう設定の物語なので登場人物の本心が読めては意味がないというか、視聴者は人間不信に陥ってなんぼだと思いますが、それでもヨルは良い人でいて欲しい!と感じるオアシスのような人でした。
終盤まで来るともう白黒は明白であとは真実を晒すのみ、楽しく観ることができます。対立構造もシンプルになり、登場人物が芸能人メインというのもありますが、ある意味で漫画的というかキャラクターが各々濃く、極限状態を舞台にすることでそれが際立っていたように思います。役者もみんな演技が華やかな印象でした。
最後、ラストシーンは多少「それでいいのか?」感も正直あったのですが、ドラマ的なボーナスということで納得しておきます(終わり方自体は文句なし)。規模の大きなストーリーに複雑なミステリーを絡めつつ、エンタメ感たっぷりにまとめあげて一気に観せる。地力が強いドラマでした。
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