見出し画像

「るろうに剣心 最終章 The Beginning」 - るろ剣の世界が一気に深く鮮やかに、リアルに

★★★★★+

ドラマではないですが、ここ最近でひさしぶりに観た日本の映画です。「るろうに剣心」のシリーズばかりは1作目から映画館で観てきているので、ラスト2作も昨年の春に前売券を買い、コロナのあれこれを経てようやく観ることができました。

正直ここまで1作目がベストだと思っていて(というか1作目が好きすぎる)、The Finalも縁編のエピソードをうまくまとめてはいるものの、終幕にあたっての大盤振る舞いで幕の内弁当感も強く、やはり1作目を観たときの衝撃にはなかなか及ばずでした。

ですがこのThe Beginningは原作でも特殊な立ち位置の物語なのでまた新たな期待を抱いて観に行って、結果とても良かった。作品としてももちろん、るろうに剣心の実写化としても、1作目とは違う感覚ですごく成功してるように思い、改めて感動しました。

まず冒頭の剣心の立ち回りシーンから、相変わらず飛天御剣流を実写で表現することにおいてこの映画は大勝利していると実感させられます。なおかつThe Beginningの世界はまだ剣心が抜刀斎だったころであり、これまでのシリーズとは剣心の刀や体の使い方が確実に異なることに息を飲みました。佐藤健は他の作品で見ると全く別人に感じるので、佐藤健=剣心かと言われると個人的にはまた違う感覚ですが、るろうに剣心の映画に登場する剣心は本当に剣心で、それは原作と比べる意味でもなく、本当にそこに緋村剣心という人物が生きていると思います。

そして本作はそんな剣心の「過去」として説得力がありました。ここまでの剣心がいかに重苦しい人生を歩いてきたのか、その上で築かれたキャラクターがいかに深かったのか。ザ・剣心的な剣心は飄々として成熟した優しさを感じさせますが、このThe Beginningの時代の剣心はまだまごうことなく若者であり、超人的な剣術を使うけれど人間としては未熟で不足が多い。その描き方のリアリティがとても刺さりました。

有村架純が演じる巴もまた、すごく現実味のある存在です。原作のキャラクター的な無感情さではなく、様々な想いを巡らせながら外に出る表現に乏しいという感じが、漫画ではなく実写である意義なのかもしれません。私は好きでした。

そして物語の終わり、ともすれば心が完全に折れてしまいそうな喪失を味わう剣心。けれどまずは新時代のために前進することを選ぶわけですが、維新が成ったのちに剣を置くのはすべて巴との約束があったから。だから「るろうに剣心」にはこのエピソードが必要なのだと、多分すっかり大人になった今、実写の映画で観たからこそググッと感じ入ることができました。

そして1作目のオープニングへと回帰するラストシーンに続きます。手法として目新しいものではないのかもしれませんが、結構ここで受けた感覚が私には驚きでした。こうして見ることでこんなにも1作目に対しての印象が変わるものかと。もちろん原作を知っているので個々のエピソードも物語の枠組みも分かっていたのですが、それでも剣心の背負う生の重みが手触りを感じさせ、セリフがまったく違って聞こえました。こういうことが脚本と演出の力なのだなと。

あとは個人的にとても好きな村上虹郎が花形・沖田総司を演じているというのも欠かせないポイントでした。これまであらゆる俳優に演じられてきた人物だと思いますが、漫画的になりすぎることなくパブリックイメージにも当て嵌まりつつ、少し独特で剣心と対峙しても引けを取らない存在感。この沖田でさらに一本映画を観てみれたらなぁと思いました。他にも高橋一生や安藤政信、世代的にうなってしまう贅沢な布陣で隅々まで油断のない感じが仕上がりの完璧さをさらに補完しており、映画館でリピート鑑賞したくなる、純粋に良い作品でした。


▼その他、ドラマの観賞録まとめはこちら。

喜怒哀楽ドラマ沼暮らし

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?