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「シーシュポス:The Myth」 - 戦闘と幻想、巡りめぐる世界線を楽しむ

★★★★

何はなくともチョ・スンウ主演と言われたら観たい!しかもパク・シネまで!と観始めたシーシュポス。初めは設定の理解すらままならず、得体の知れない生物にでも触れるような気分でスタートしました。

飛ぶ鳥を落とす勢いのテック系スタートアップ「クォンタムエンタイム」の共同創業者であるハン・テスル(チョ・スンウ)はイケメンで風雲児的な趣がある財閥会長ですが、そもそもは天才的なエンジニアです。物語の冒頭で彼は乗っている飛行機が原因不明の墜落事故に見舞われるものの、そのキレッキレの頭脳をフル活用して物理的に落ちてゆく飛行機を修理し、何とか着陸させることに成功。乗客261人の命を救うことになります。

しかし助かったものの、この墜落事件にどうやら死んだはずの兄が絡んでいるらしい…となり、テスルは真相を追い求めるようになっていきます。兄の死はテスルにとって大きなトラウマなのです。しかしあれこれ調べようとするほどに彼は命を狙われる状況に。拉致されるは狙撃されるは大忙しです。

一方でパク・シネ。SFの壮大な世界観を背負って登場する彼女が演じるカン・ソへは、どうやら未来から現代にやってきたらしいということが徐々に理解できていきます。この後、朝鮮半島が崩壊するほどの戦争が起きること、そしてその戦争を食い止めるためにソへがテスルを守ろうとしていることも。とにかくこのソへの戦闘力が高くてかっこよさの際立つ序盤。

またテスルから溢れ出るアイアンマン感がじわじわ刺さります。生身の人間ではありますが、トニー・スタークさながらの財力と知力と技術、そしてマイペースさを発揮する非常に現代的なヒーロー(体力勝負になると出番をソへに譲りますが)。チョ・スンウがまたテスルによくハマっていて、「ライフ」や「秘密の森」といった過去作品とは一味違う顔を見せてくれます。

お互いを訝しく思いながらも命を狙われる状況の中で手を取り合っていくテスルとソへ。このふたりの間にだけはある意味で嘘がなく、次第に無垢な好意が生まれていくのが伝わってきて、ジェットコースターな展開にあっても心温まります。また、ソへのおかげで一攫千金を成し遂げた若者ソン(チェ・ジョンヒョプ)がすっかりソへに夢中になって心強い味方に。このソンがまた可愛いので注目です。

6話のラスト、テスルを救いに夜の道具街へソへがやってくるシーンは、戦闘シーンでありながら幻想的で、何よりテスルとソへの心が通じ合う様子を丁寧に描いており、このドラマの見せようとする世界はこれなのか、とじんわり感じました。そこから一気に物語が動き出してすっかり引きずり込まれていきます。

そもそもタイムリープがテーマで未来は変えうるものであり、パラドックスも存在しうるのでストーリーは決して一筋縄では行きません。終盤は結構ややこしくもなってきます。ですが、戦争は止められるのか、敵は誰なのか、最後にテスルとソへは一緒にいられるのか。ポイントをシンプルに絞って鑑賞すると素直に主役ふたりに感情移入してどっぷりハマって楽しめます。

15話までの盛り上がりが凄かったので16話を観始めたときは「え、もう最終話?」とびっくりしましたが、「シーシュポス」のタイトルの由来を感じさせる余韻もありつつ、物語は着地していきます。ソへの父親のシーンがとても良い救いを残してもくれました。余談ですが、後半に差し掛かって少し浦沢直樹さんの「20世紀少年」を思い出しました。

SFとしてのクオリティが高いので、端々に描かれる未来のシーン含めてじっくりと味わえる上質の娯楽作。私は毎週の配信で観ていましたが、一気観にも良さそうなドラマです。


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