見出し画像

『海を渡って、現れる日を待つ』


============

ぼんやりとした海辺の暗闇を歩いていたら、

向こうの島の光が見えた。


「この海の向こうから、あなたはやってくる。」



数日…

数ヶ月…

タイミングは、わからない。

不定期で、あなたはやってくる。

いつ来るか、を

教えてもらえそうで、

そんなに上手くいかなかった。



この海を渡りそうで、渡らない。


あなたの状況とか背景に思いを馳せるようになって

気づけばずいぶんと会わぬまま。

時は流れていた。


一つ、視界にでも入れば

ホッと胸を撫で下ろせられようが

存在のカケラもないほど

空っぽの空間だけが目の前にあった。


「あなたは夢だったのかもしれない。」


いつぞや、あなたは幻のような気さえしてきた。


そういえば、

そんなパラレルワールドの物語。

学生時代に愛読していたな。

時間を行き来して、ゆがみを正して

最愛のあなたにたどり着く…と思いきや

存在すら消してしまう話だった。

物語で存在するなら

現実にもあるのかもしれない。



いや、正直、都合が良すぎると思ったのだ。


同じ様相をした、向こう側の集団で、

あなただけ、キラキラとしたオーラを纏っているように見えた。

話した事もないのに、

“他とは違う”と勝手にインプットして

勝手に親近感を覚えていた。


けれども、

接点のない人達だから、と

気にも留めなかったある日のこと。

たまたま見かけてしまったの。

あなたが真剣に読み込んでいたマニアックな雑誌は

私の大好きな雑誌だった。

日常生活の中で同じ趣味の人に出会ったのは初めてで

何も考えず私は反射的に

「あなたもコレ好きなんですか」と話しかけた。

私を知らないあなたなのに、

静かな空間、

私達はマニアックな会話で盛り上がった。


またある時、

休憩室の前に、一枚の上着がポツンと置いてあった。

私のものと同じブランド、ほぼ同じ形だったから

自分が置き忘れたのかと首を傾げて

見ていたら

「あ、それ、私のなんです…」と

中からあなたが出てきたの。

「実は私もここの服着るんです」って。

担当は違う販売員さんだったけど、

その共通点に、また驚いた。

別の日には、私も好きな、別の上着を羽織った姿も見せてくれた。

「最近は買えてないけど、買いたいなぁ」と。

そう呟いてた、帰り道。



遠くにいたのに、

一度話せば、波のように近くに寄せて

また少し間が空いて、

また近づいて。


「元気でしたか?」

「久しぶりですね!」

「最近どうですか?」

「私今度は…」


なんて、そんな穏やかなさざ波のような会話が数年。


大きな波がひとつ押し寄せて、

今は何故だか

揺れる小さな波すら感じられない。

防波堤でも築かれたのか。

そこに存在していたかも、わからなくなって、

結論:あなたは、私が見せた幻だった、

という訳だ。


それでも、

あなたが現実に存在していたか、は

誰かに聞けば答えは出るだろう。

いや、恐らく

「存在した」とか「存在しなかった」とかの

お伽話的なものではなく、

もっと今のあなたについて、確信に触れる事ができるだろう。

同じに見える様相の集団に私が切り込むか、

私の方から海を渡りさえすれば、

ほぼ100%、答えは出るのだ。


ただし、

私は今、そのタイミングを見計らっている。

夢かもしれないあなたの存在を

私は信じているから。

自分自身を研ぎ澄ませ、

“その時“に、ただただ、備えている…。



ぼんやりとした海辺の暗闇を後にし、

街の灯りを目指す。


対岸に立つ私が、

羨ましそうにこちらを見ているような気がした。


============


本日は詩のようなものでした。

最後までお付き合いいただき、

ありがとうございました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?