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絶対に成功商品が作れるインタビュー〜CASに対応するインタビュー方法とは?

最初に前回紹介した「間接観察」に関係する実話というか余談というかをご紹介します。まさにシンクロニシティと言うべきですが、この一週間の間にその事例を体験することになりました。

先週実際に行ったあるスマホアプリの調査での出来事です。課題は「見たいコンテンツの検索・探索方法」に関するものでした。その中で、対象者に実際に検索・探索行動をしてもらう場面がありました。

対象者はスマホ画面に表示されるコンテンツのサムネイルをフリックしながらスクロールしていきますが指が止まりません。気に入ったものがないのでしょう。サムネイルに目を止めることがありません。そこでインタビュアーが「サムネイルは見ないんですか?」と確認しましたところ、「目につくサムネイルがないし、最近はあんまり探索もしてないので、この機能はあんまり使わないんですよね。」と答えられました。私はこの調査の統括者としてミラールームからその様子を観察していました。

さてインタビューが終了し、デブリーフィングを行ったときのことです。インタビュアーは「サムネイルは探索には使わないんですよね、見ていませんよね」と言いだしました。それに対して私は、「十分使ってるじゃないですか」と反論しましたところ彼女は眼を白黒させています。「ああ、わかっていないな」と思いながら私は以下のように説明しました。

たしかにこの対象者は「なにか面白いコンテンツはないか」という探索行動は最近はとっていませんし、サムネイルを比較して見ながら面白いコンテンツを探すという使い方もしていません。これが現状です。

一方、過去見つけたコンテンツの見つけ方は「直感的に」ということでした。しかし、コンテンツの内容を実際に見る前に直感的に感じさせるものはサムネイルしかありません。つまり、サムネイルを判断材料として使っていたわけです。しかし、直感的にしか選ばれない中で、多くのサムネイルがそのニーズに応えていないので、フリックされてスルーされているわけです。また、探索する機能は「人気ランキング」などほかにもあります。その結果、ある程度面白いコンテンツが見つかったらサムネイルを並べてビジュアルから選択させるというこの機能の利用頻度は下がってもいます。つまり、「使っていない」、「見ていない」というのは最近の状態を言っているわけであって、実は「使っている」し「見ている」わけです。しかも、「不満」なのです。言葉の裏にあるファクトは、利用経験はあるけれども、この人のニーズには応えられなかったから使われなくなったということです。その証拠にこの人にはこの機能について「見つからない」という知識、認識があります。見つけようとしたからこそ「見つからない」という認識ができるわけです。

コンビニでどこの売場にあるのかわからない目指す商品が見つけられるのはその間に「要らない商品ばかりあり”そうな”棚」を無意識に識別しているからなのですが、その人の意識は「他の棚は見なかった」ということになっています。しかし、明らかに「見ている」からこそ、その棚には立ち寄らないのです。このフリックという行動もまさにそうです。一瞬のうちに要不要をまさに「直感的」に判断しているわけです。

したがってここで問題ととらえるべきなのは「サムネイルを通した視覚で”直感的”にコンテンツを選んでいるのに、その選び方、そのニーズにほとんどのサムネイルが応えていない」ということなのです。この対象者はすでに十分に見たいコンテンツを見つけている段階であるし、他の探索機能も使っているので、この機能への不満の表明という形ではその問題が顕在化しなかっただけなのです。一方、その問題によって見たいコンテンツが見られなかったユーザー達のなにがしかの部分はその時点でアプリから離脱しているであろうことが潜在しているわけです。これは、この対象者のインタビュー現場での発言から「時空を超えて」過去を「間接観察」したことによって得られる考察です。

それをこのインタビュアーのように解釈してしまうと、この機能は無くてもよいということになりますが、そもそも「どのようにコンテンツを選びたいのか」というニーズに関する考察は得られないということになりますし、潜在している問題も見逃されることになります。この対象者にもそれを使った体験があったわけですから、潜在的な期待感というものがあったはずです。それが何なのか、ということが見逃されるわけです。しかし、それを直接質問しても、この対象者はそれを意識していないのですからおそらく「なんとなく使ってみた」という事しか答えられないはずですし、無理に答えさせたとしたら「粗雑な合理化」が行われたものになるでしょう。口にそれを出させてしまうと分析上のノイズになりますから自発的に発言されない限り、訊問するべきではありません。しかし「直感的に選んだ 」という行動とその後もそのように選んでいる行動を素直に受け取ると「ビジュアルで直感的に選びたい」というニーズが潜在していることは明らかでしょう。

正確に分析すると、この事例は、
「視覚的に直感的に選びたい」ので「サムネイルを見て判断する」という行動をとったわけですが、「サムネイルの比較では直感的に判断できるものが少ない」という潜在的な不満があってその機能を使わなくなっているわけです。一方「視覚的に直感的に選びたい」ニーズの目的である「面白いコンテンツを見たい」というニーズは他の手段や不満を持ちながらもこの手段で充足されているので、その機能を使わなくなっても直接的な問題や不満とはなっていないわけです。しかし、「視覚的に直感的に選びたい」というニーズは満たされてはいないわけです。それが満たされるのならば、この人は今見ているコンテンツよりも面白いコンテンツや、より自分にあったコンテンツを見つけられるようになる可能性が高まるわけです。

これが、現場での「間接観察」の実例です。この場合は現場で「直接観察」をしていても直接観察だけでは過去の生活体験が見逃されることの実例でもあります。直接観察していても見えないことがあるわけです。先にも説明しましたように、それが見つかるのがインタビュー調査の長所の一つです。

さて、本題です。

このような「間接観察」によってインタビュー対象者の生活が想像できるというスキル・能力が必要であることが前提ですが、CASにフィットした情報をシステマティックに得るためのインタビュー調査のあり方をご紹介します。しかしそれは極めて単純です。

CASにインプットされる情報は以下の3つしかありません。

1、生活ニーズ
2、その生活ニーズの充足方法(行動)
3、その充足方法に伴う生活上の問題

そして、生活ニーズもその充足方法もそれに伴う生活上の問題も「体験」から推測することができます。「体験」の中には「行動」とその時に感じた感情などの「意識」があります。感情の中には「満足」や「不満」が含まれています。梅澤先生は「生活上の問題」とは不安や不快感などの「アンバランス感情」を伴うものだと説明されていますが、感情の体験の中に必ずそれが現れるわけです。また「ニーズ」というものは上記の例にも見られるように、生活者に自覚されているとは限りませんから直接質問をするべきではなく、「行動」や「満足」から推測するべきであるわけです。

つまり、CASにインプットされる情報をインタビューから得ようとした場合、以下の3つの切り口で「生活体験」そのものを聴取すればよいということになります。

1、生活の中での行動実態=やっていること⇒行動から「ニーズ」とそのオケージョナルな「充足手段」がわかる
2、行動に伴う「Happy」体験⇒感情から「満足」とその充足オケージョンがわかる
3、行動に伴う「not Happy」体験⇒感情から「不満」や「生活上の問題」とその発生オケージョンがわかる

満足や不満などのオケージョナルな感情については潜在しがちなことなので、Happyやnot Happyの体験としては表明されないことがあります。その場合には、その行動が継続しているのか、とか、繰り返されているのか、によって満足なのか不満なのかを推測する必要があります。しかし、基本的にこれらの情報があれば十分に「ニーズ」、「充足手段」、「生活上の問題」とそれが発生している「オケージョン」を明らかにすることができるわけです。そしてそれらが明らかならば、CASによって「未充足ニーズ」を発見、創造することもできるわけです。

そのようなインタビューの概念モデルは以下のようになります。拍子抜けするほどにシンプルですが、真理とはシンプルなものだとご理解いただければ幸いです。

このシステムの考え方の基本にあるのは、どこまで行っても「生活体験」を聴取しようとしているところにあります。つまり「生活工学」的観点に立脚しているわけであり、「意見」を聴取するのではない、という点を強調しておきたいと思います。どこまで行っても「CAS」のフレームに合う情報が得られるように戦略的に不要な部分をそぎ落としてあります。経験値ですが、スキルのあるインタビュアーと分析者が臨めば、2時間×6人のグループインタビューではだいたい60個前後の未充足ニーズに関するインサイトが得られます。つまり2分に1つのインサイトが得られる非常に効率的な方法であるわけです。


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