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「意識マトリクス」理論によるインタビュー対象者リクルート法~「NEC理論」

意識マトリクス理論は、システマティックなインタビュー調査を行うための基礎理論です。それはインタビュー調査の領域をマトリクスマップとして見える化し、インタビューの戦略も可視化することに成功しています。

今までに述べてきたように、意識マトリクス理論によるインタビュー調査の必勝戦略は、

1、アスキングによってS領域を「聞きだそう」とする戦術は「どうせ不可能」、「どうせ無駄」なので、最初から放棄する。
2、その代わりに、「宝の山」であるC/S領域に「攻撃」を集中する。その手段は「生活経験に関するリスニング」である。
3、その結果として得られる情報量の多さを生かして、S領域をインサイトする。

ということになります。

さて、インタビューの話であるのに、実際のインタビューでのインタビュアーのふるまい方、テクニックなどの話はまだまだ先になります。なぜならば、ALIというのは「P(企画)、I(実査)、A(分析)」が三位一体となったシステムとして効果を発揮するもの(PIA三位一体説(梅澤))であり、インタビュアーのテクニックだけで成立するものではないからです。当然のことながら、良い対象者と良いインタビュアーの両方が揃わなければ良いインタビューにはなりません。また良い対象者であれば、インタビュアーが多少未熟でも良いインタビューになるわけです。少し考えてみれば当然のことです。インタビューの主役はインタビュアーではなく、対象者なのです。逆に、インタビュアーが幾ら優れていても、対象者が良くなければ成果は得られるはずもありません。なので戦略的には、インタビュアーの小手先の「聞き出す」テクニックなどよりも、より良い対象者を選定するノウハウを磨く方が得策であるわけです。

では、「良い対象者」とはどのように選ばれるべきなのか?ということが問題になります。

通常、これは対象者個人の特性、キャラクターに責任転嫁されることが多いわけです。インタビューが不調に終わった時、調査主体側関係者による「今日の対象者は良くなかった」というような発言(愚痴)はしばしば耳にするところです。ご協力頂いている方に非常に失礼なのですが、業界には「ハズレの対象者」という言い方もあります。またこの「特性・キャラクター」論に依れば、「情報発信意欲の高い人」を呼べば良いということにもなりますから、リクルート時にライフスタイル理論によるところの「イノベーター的な人」を判定するアンケートを行うこともあります。しかし、昔からある「ハズレ対象者」の問題は今日に至るまでそれが解決されたという話を耳にしたことがありません。例えば、イノベーター判定をされた人でも話さないこともあり、逆にイノベーター判定されなかった人がよく話す場合もあるわけで、実のところその判定には余り意味を感じなかったりするわけです。そもそもインタビュー調査に応諾されている時点で、すでに話す意欲が高いことが行動として示されているわけですから「話さない」問題の原因は「そこじゃない」のです。そもそも話す意欲が低い人はインタビューには応諾しないのです。

「NEC(ネック)理論」は、この問題を一気に解決する革新的理論です。調査クオリティの「ネック」となる相応しくない対象者をリクルートしないための理論だとお考えください。「外れ」と対象者に責任転嫁している時点でインタビューの成否は「偶然」に委ねられてしまっているわけですが、その偶然を必然に変えることが目的です。

「宝の山」のC/S領域に攻撃を集中するという戦略において考えられなければならないのは、「C/S領域における情報をより多く持つ」対象者をリクルートする必要があるということです。ではその「C/S領域の情報」をより多く持つ人をどのように見分けるのか、ということが課題となります。

意識マトリクス理論で明らかなように、C/S領域とは「企業からは見えていない生活」の領域です。つまり、調査の領域として設定されている生活領域において、より多くの経験を持つ人が望ましいということになります。このパラメータをE:「生活経験値」(Life Experience Level)と呼ぶことにします。生活経験値が高いとは、具体的には「経験期間が長い」、「経験頻度が高い」、「経験の種類が多い」などが考えられます。

しかし、いくら経験が多くても、それが当たり前になっていて、もはや無意識化しているような人は調査対象者としてふさわしいとは言えません。つまり、調査対象領域の生活において、より高い意識レベルを持つ人がふさわしいと言えます。意識レベルの例としては「意向や興味関心の度合い」や「知識の多さ」などが考えられます。このパラメータをC:「生活意識レベル」(Life Conscious Level)と呼ぶことにします。

しかし、「生活経験値」と「生活意識レベル」の両方が高くても、その領域における生活について「全く満足で不満は思いつかない」人や、「全く不満で満足は思いつかない」人は調査対象者としてふさわしいとは言えません。なぜならば、その人のその生活領域での心の中には「葛藤」がなく、したがって、行動や商品の「選択のメカニズム」が情報として得られないからです。例えば、何の疑問もなく、何の躊躇もなく、いつも同じ商品を買うような行動を取っている人からは、その商品を選ぶメカニズムはわからないわけです。この葛藤のレベルをN:「生活ニーズ葛藤値」Needs Conflict Level)と呼ぶことにします。具体的には、「選ぶ商品が時と場合によって複数ある」とか「満足はしているけれども不満もある」といったことが基準として考えられます。この領域における「未充足の強いニーズ」があるか?と言うこともできます。

NEC3つのパラメータのレベルが高い人ほどC/S領域における情報量をより多く持っているのは自明です。逆にいくら「イノベーター」判定をされたような人でも調査対象領域におけるNEC値が低い人は、そこで話せることはありません。

確認の具体的な仕方は調査課題や調査領域によって異なりますが、3つのパラメータは定量化、可視化できます。つまり、そのパラメータをリクルートアンケートで測定することで、対象者の選択を科学的、客観的に行えるようになるわけです。ということは、対象者候補抽出を自動的に行えるということでもあり、一人一人の対象者を個別に検討していくことに比べて、大幅な省力化も可能であるわけです。つまり、リクルートの品質をコスパ高く保証することが可能になったわけです。

この方法論はかつての、リクルーターさんと呼ばれる機縁ネットワーカーによる電話リクルートでは無理で、Webアンケートでリクルートをするようになったからこそ可能になったものです。なぜならば、この方法は電話で実施可能なアンケート設問数では難しいからです。また、Webリクルートを行うことにより多数のアンケート回答者の中からより条件にふさわしい人を選択できるようになっています。特に、オンラインインタビューでは全国からより望ましい対象者を選ぶことが可能になるわけです。

というわけで、NEC法はまさに「リクルートのイノベーション」、「リクルートのDX」と言える画期的方法論であるわけです。革命的方法論であるALIはインタビュー調査の業務体系自体に変革を起こすのです。

さて、リクルートの考え方は上記の通りですがALI、NEC法実施のためには「調査対象領域」を明確に規定する必要があるわけです。これは従来「なんとなく」行われていてその重要性が見落とされがちな課題です。次回からはその点について述べてみたいと思います。


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