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「イノベーション統一理論」⑩~「ジョブ理論」と「CAS理論」~「ニーズ」から考えると「ジョブ」の理解が圧倒的に高まる

さて、ブルー・オーシャン理論からは離れ、今回からはクリステンセンの「ジョブ理論」について論じていきたいと思います。

以下は「ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム」(2017、クリステンセンら、ハーパーコリンズ・ジャパン)を参考にジョブ理論についての私なりの説明・解釈を生活工学及び梅澤理論(CAS理論)の観点から試みるものです。

ジョブ理論は当初にも触れましたように「生活価値観点」の理論です。そのために「商品価値観点」のNOHL理論やブルー・オーシャン理論よりも「生活工学的観点」がより色濃く現れていると思われます。

上記著作を読むとクリステンセンはこの「ジョブ」というものの説明に大変苦心している様子が窺われます。例えば「ジョブ」の定義だけでは理解が難しいと思ったのか、「ジョブではないもの」をわざわざ例示していたりします。また、「ジョブ」の説明も観点・角度を変えながら多様に行っています。これは彼の国には「生活工学」という概念が無いからだとも言えます。

クリステンセンの定義ではジョブとは結局
「ある状況下で個人が求める進歩」
だとしています。
そして、その進歩の為に
「商品を生活に引き入れる」
という言い方をしています。
他にも、
「状況が含まれて定義される」
であったり、
「機能面だけでなく社会的、感情的側面のある複雑なもの」
であるという言い方をしています。

これは、「生活の中で発生する様々な状況」を解決して「進歩」するために「商品を生活に引き入れる」と言っているわけですから、結局のところ
「生活工学的観点」を持っている、ということに他なりません。正に「生活と商品の関係」に着眼しているわけです。さらにクリステンセンは「ジョブを理解するうえで、ある思考実験が役立つことに気づいた。特定の状況で進歩を遂げようと苦心している人を、短編ドキュメンタリー映画風に頭の中で撮影してみるのだ」とも説明していますが、これは正に「生活のナラティブ」を捉えることに他なりませんし、それをイメージせよということは私の申し上げている「間接観察」「脳梁マーケティング」をせよ、ということに他なりません。このあたりはインタビュー編で詳しく述べてきたことです。

※このリンク先にご紹介している事例は正にこの「頭の中の撮影」の例に他なりません。

クリステンセンの言う「進歩」とは、「したくてもできなかったことができるようになる」ということだと考えて何ら差し支えないと思われますが、すなわちこれは梅澤CAS理論で言うところの「未充足ニーズの満足による生活の変化」だと考えても良い、ということになります。すなわち「未充足の強いディファレントDoニーズの充足」ということに他なりません。

また、「状況」とは「ある生活シーンにおける一つのオケージョン」と考えることを否定する材料は何もなく、すなわちこれは「オケージョナルDoニーズ」ということを言っているということになります。

「複雑」「ニーズが集合したもの」という言い方は、単純な原始的ニーズに対してオケージョナルに発生する社会的もしくは感情的な問題などに対応する様々な条件が付加されて成り立っているものだ、と考えますとやはりその意味を明確にすることができます。条件付きニーズ(ディファレントニーズ)とは、元の主たるニーズに、そのニーズを達成するにあたってオケージョナルに発生する問題を解決・回避しようとするニーズが複合したものだと考えることができるからです。

ここまで読み解いて私が至った結論は乱暴かもしれませんが、「ジョブ理論とは本質的にCAS理論と全く同じものであって、用語が異なるに過ぎないもの」である、ということでした。※

※学術的には「乱暴」なのかもしれませんが、しかし、この理解で実際にクライアントのご要望にお応えできているというのが現場での事実でもあります。

すなわちクリステンセンの言うところの
「ある状況下で個人が求める進歩」
とは、梅澤理論的には
「人が遂げようとする生活変化を生む生活ニーズであって未充足のもの」を充足しようとすること」
であって、さらに言い換えると、
「未充足の強いオケージョナルディファレントDoニーズの達成を課題にすること」
ということに他ならないと言えます。これをまとめたのが下図です。

上記の考察から「ニーズ」と「ジョブ」の関係をまとめると下表のようになると考えています。すなわち「ニーズ」、「ベネフィット」、「ジョブ」とは観点が違う故に語尾が異なるだけの本質的には三位一体のものだということです※。

※「できるようにする」とはクリステンセンは言っておらず私のオリジナルの解釈、表現ですが、このように表現することによってより「ある状況下で個人が求める進歩」の意味合いが的確に表現されるようになったと考えます。

この表は一例なのですが、「用語が違う」とはすなわち、「言葉遣いを変えるだけで通用する」ということになります。例えば、下図のオリジナルのCASは

上記著作のジョブ理論の用語にホンヤクすると下図のようになります。これは上記の「短編ドキュメンタリー映画」における観察ポイントとして挙げられているものを使っています。

さらに紹介されている事例をCASに置き換えると下図のようになります。

すなわちやはりすべてCASで説明できてしまうわけです。むしろジョブ理論はCASのような単純明快なフレームワークを持っていないからこそ、その説明や理解が難しくなってしまうのではないか、ということも言えるわけです。このようなフレームワークの有無は、例えば同じインタビューの中からいくつのジョブが見つけられるか?といった調査・分析のパフォーマンスの問題にも影響してきます。

即ち、CAS理論というのはやはり極めて優れている理論だということになるわけですが、その原因、理由はクリステンセンが「ニーズ」というものを所与のものとして「ニーズの集合」と片付けてしまった陰にある、そもそもの基本要素である「ニーズ」についての研究が他の追随を許さないからです。例えば、上記のような説明ができるのは梅澤が下図のようなニーズの特性に関する研究をしていたからです※

※昔から「ニーズではなくウォンツ」とか「ニーズに応えようとすると新機軸の商品は生まれない」などといった議論(「ニーズ否定論」とでもいうべき議論)があったのですが、このクリステンセンの態度も含め、そもそも「ニーズとは何か」ということを深く考えようとする人がおらず、お互いに異なる意味で「ニーズ」という言葉を使っていたり不十分な理解の中で「ニーズ」という言葉を使っていたりした為に話が噛み合わず、それらは不毛の議論に陥っていたと私は考えています。例えば「潜在ニーズ」と「顕在ニーズ」を同じ「ニーズ」という言葉でくくると議論はかみ合いません。「Haveニーズ」と「Doニーズ」も同様ですし、「ベターニーズ」と「ディファレントニーズ」や「充足ニーズ」と「未充足ニーズ」、「基本ニーズ」と「オケージョナルニーズ」しかりです。しかしニーズとは結局「欲求」であり、欲求とは人類進化の原動力ですらある広大無辺のものですから雑な定義の議論では神学論争になるのは当然です。

蛇足ですが「マーケティング」や「インサイト」などという言葉も同様の「よくわからない言葉の一人歩き」の状況があるかと思います。

この研究をベースとして、この考察の基礎としてジョブ理論用語と梅澤ニーズ理論用語の対照表をつくってみたのが下表です。本質は同じで用語が異なるだけなのでこのような対照表=辞書が作れるわけです。

さらに「ジョブとは何なのか?」を考察し上記の結論に至る部分での分析プロセスが下図です。このような検討を経て上記の結論に至ったわけです。

本稿の結論ですが、
「ジョブ理論とは用語が異なるだけで本質的には梅澤CAS理論と同じもの」
であり
「しかし、ニーズ研究のち密さや広大さによって、ジョブ理論はCAS理論に包含される」
ものであるということになります。





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