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学習塾からライブコマースへ転換。中国人のたくましさの話

去年の夏頃から、中国で学習塾に対する強い規制が始まったことを覚えている人も多いかと思います。その狙いは高騰する教育費や、子どもへの健康被害などの問題の解決のためだと言われています。

当然のことながら、これによって教育業界は大打撃を受けました。とりわけ幼児教育や小中学生向けの教育サービスを提供していた企業は軒並み苦境に陥り、倒産も相次ぎました。

中国の教育最大手のひとつであった新東方教育科技集団(以下、新東方)も例外ではありません。売上の半分以上が吹き飛び、2021年下半期には日本円で約1,000億円の赤字を計上。株価は暴落、従業員を6万人以上も削減せざるを得なくなるなど、まさに踏んだり蹴ったりとなりました。

ところがこの新東方、最近になってにわかに中国で注目され始めています。

教育サービスに、新たな活路が見出されたのでしょうか? そうではありません。なんと、英語を交えながら商品を紹介するライブコマースがバズったことが、今回の注目の理由です。

この記事によると、新東方は去年の12月からライブコマースの事業を開始。もともと新東方に属していた教師陣が、教育現場での経験で鍛えた英語の知識と軽妙なトークを交えながら商品を紹介するというスタイルを売りに、ライブコマースを始めたようです。

YouTubeに動画がありました。コメントの質問に答えるようなこともやっていたようです。

最近に至るまでほとんど売上はなかったようなのですが、なぜか今月に入ってインターネット上に巨大なバズを形成し、ある日には一晩で約500万元(1億円)の売り上げを叩き出すなど、瞬く間に注目株となりました。

その背景には先生たちの軽妙なトークが抖音(中国のTik Tok)上でウケたことや、これまでライブコマースの「絶対王者」とされていたようなインフルエンサーが諸事情からライブコマースを休止していて、「スター不在」だったことがあったとされています。ちょうどECサイトのセールが始まる6月18日(購物節)の前後だったことも追い風となったのかもしれません。

ともあれこの流行を受け、株価は数倍に急上昇。すわ「新東方、ライブコマースで復活か」という機運が中国のインターネット上を流れました。

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今回のことが、新東方の復活につながるかどうかはまだわかりません。

株価が上昇したのは単に教育関係の株が底を打ったからだとも言われていますし、ここ数日は逆に株価急落のニュースも出ています。そもそも、今回の注目が一過性の流行だけで終わってしまうことも十分考えられます。ライブコマース事業が新東方のこれからを支えるに至るかどうかは、まだわかりません。

しかし、今回のことで「新東方」という名前を人々に忘れさせないようにしたことや、苦境に喘ぐ会社の財政を少しでも助けたというだけでも、十分な意義のあることでしょう。また、今いる人材の活用としても見事なものです。

この件を見て個人的に感じたのは、学習塾が突然ライブコマースを始めるという発想の転換であったり、臆面もなく流行や儲け話に飛びつこうとするたくましさには、大いに学ぶべきところがあるのではないか、ということです。

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