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『三つ子の魂、百まで』vol.2

布団と寝袋

移住する少し前、長男を妊娠している事が判明し、一先ずカミさんを東京に残して、地元の友人と古民家のリフォーム工事へと向かった。時季は3月初旬、季節としては春だが、集落の中でも"日陰"という屋号で呼ばれる我が家は昼間でも外へ出ている方が暖かい。

日が暮れてからは囲炉裏で火を起こし暖をとったが、外部との気温差が小さい為、布団の中に寝袋を入れて眠っても夜中、寒くて目が覚めてしまう程だった。断熱のとれている家での生活がどれ程、便利で有り難いものかを実感した。

毛虫のカーテン

約2週間のリフォーム工事で台所や寝室、居間など日常生活を送るために支障のない所まで終らせる事ができた。寒い中、手を貸してくれた友人には心から感謝している。

2013年3月の終り、友人たちに引っ越しを手伝ってもらい、僕たちの里山暮らしが始まった。4月に入ると次第にお日様も高くなり暖かく過ごしやすい陽気となった。しかし、その年、集落一帯に毛虫が大量発生し軒先に毛虫のカーテンが出来上がった。洗濯物にも付く始末でカミさん大パニック。おまけに家の中に蜂や巨大蜘蛛も出てきて、またパニック。

出だしからどうなる事かと心配したが、里山の清々しい空気や夜、真っ暗な中に光り輝く無数の星たちが僕たちを癒してくれた。善くも悪くも人工的な都会では味わう事のできない経験で、その後の僕たちの大きな財産となっている。

いきている野菜

引っ越してすぐに、畑作りを始めた。ずっと経験したいと願っていたので、ド素人ながら近所のじぃさんばぁさんの畑を参考に見よう見まねで鍬を振った。教われば早いのだろうが、何事も自ら考え体験し、失敗して学ばないと納得できない困った性分なのである。
山の落葉から成る腐葉土やコンポスト式トイレの排泄物を利用し、自然栽培で野菜を育てる事にした。毎日毎日少しずつ成長していく野菜たちは、その一つ一つに小さな命があるんだと初めて実感する事が出来た。便器に水を流せば何処へ辿り着くのかも解らないウンチさえも土に還してあげれば立派な肥やしとなる事も、実際にやってみて初めて理解する事が出来た。頭では解る事も自分で体験して初めて身につく。

自分の当たり前は皆の当たり前じゃなく、人それぞれ考え方や感じ方は違って当然なんだと、土に触れる事で僕の価値観は大きく変わっていった。

つづく

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