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小説版『アヤカシバナシ』右半分

医療関係の仕事に就いた時の話なのですが・・・。


2日間缶詰になって1日8時間、介護を中心に医療関係に携わる為の講習会に参加することになりました。

教科書を開いて睡魔と戦う説明からの説明、そして説明。

休憩挟んで実技、移乗介助の方法、入浴介助、ベッド移乗、など、その他介護に関わる動き、捌きなどを学ぶ。関節の使い方や体重移動など、学んでみると格闘技に通じるものがあり、格闘技好きとしては個人的にはとても面白く、自分で言うのもなんですが、格闘技経験者と言う事もアリ、覚えも上達もやたら早かった。自信をつけての2日目、どうやら1日目に詰め込み過ぎたらしく、時間に余裕があるので師長さん自らが本館の案内をしてくれると言う。


『ご存知の通りここは本館ですけど、皆さんの勤める施設に関連する部署もありますので、折角だから見学して帰って下さい。まぁ部署のよっては無駄な時間になるかもしれませんけど社会勉強と言うか、普段見られない所なんかもあるのでね』

私の職場は別の施設で、その親会社での研修だったのです。

しかし移動でいつここに来ないとも限らないので案内すると言うのは別に無駄ではないよな・・・そう思ったのを覚えている。


食堂、ナースステーション、売店、休憩室などを案内され、研修生の一人が『霊安室ってあるんすか!?』と言い出す。バカかお前は、バカなのか?ここは病院だ、無いわけがないだろう…と思っていると師長さんが『無いわけがないでしょ?』と半ギレ。当たり前の事を聞かれるとイラッとするのは私だけじゃないようだ。


エレベーターに乗ってB2を押す師長さん。


ジジジ・・・スーハースーハー

エレベーター内の古くなった照明の音と、体格のいいスタッフの鼻息だけが聞こえる時間だった。


ツン!


チン!ではなく少し訛った様な到着音が鳴る。


霊安室があるからと言ってこれは暗すぎでは?と思う程薄暗かった。

分かりやすく言えば紺色と黒の見分けがつかない程度。

『今日、ご遺体があるので静かにね』と囁く師長さん。

歩数で言うと20歩くらいだっただろうか・・・

『この角を曲がるとあります』と師長さんが言うので、歩を進めたのだが角を曲がった途端に私の右半分の顔が、顔だけがビリビリと痺れて痛みが走りました。

四角い乾電池を舐めた時のあの感覚が顔の半分に被せられたように、ビリビリジンジンと顔が痺れるのです。

けれど麻痺ではなく顔の筋肉は動きましたが、とにかく痛いので師長さんに『すみません私ここ無理です』と言って角の前まで戻った。


離れるとその痺れは緩和されたが違和感はあった。


師長さんが『見える人?』と私に聞く。

恐らくこういうことは日常茶飯事なのだろう。

『いえ、はっきりと見えるとかは無いのですが、感じると言うか、そう言う事はあります・・・』

師長さんが『なるほどね・・・』と呟き、右手で抑える私の顔を見て『顔の右が痛かったの?』と尋ねる。

『ええ、痺れるような感覚でした・・・』と答えると、周りの研修生は息を飲んだまま、呼吸を忘れたように目を剥いて私を見ていた。


師長さんが静かに話し始めた・・・


『今日のご遺体ね・・・事故で顔の右半分無かったのよ・・・』

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