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小説版『アヤカシバナシ』助手席

私の体験談の中では最恐のお話しをしようと思います。


私は18歳で即車の免許を取得しに自動車学校へ通いました。

それまで車は悪戯でも触ったことが無かったので、それが逆効果となり、全て一発で取得できました。

バイトもしていたので車は直ぐに購入する事となり、無理のないレベルで返済が可能な車を父親の知り合いのディーラーに依頼することになった。


それから数日、掘り出し物が手に入ったとディーラーから連絡があり、休みの日に見に行くと、白い四角っぽい軽四でした。

飾りっ気のない事務用の集金車のような軽四でしたが、『新古車と言って、展示がメインだったから3000mしか走っていない、だけどまぁ・・・48マンで良いよ』とのお話だった。

父の友人でもあるので45万にしてもらって購入が決まった。


何日か経過して納車となった。

そうなればなったで可愛いもので、愛着も湧き、シフトノブを交換したり、グラフィックイコライザーを付けたり、スピーカーを積んだりフォグランプを装着したりしました。

とてもお気に入りだったのですが、ある日の早朝、私は事故を起こしました。


その日は早出してミーティングがあったので、少し急いで出社。

いつもの道路、いつもの信号、大きめの交差点に差し掛かり、青の矢印が出たので右折したのですが、ハンドルに変な力がかかり、左にギュン!と持っていかれました。

『ん?』と思った時はもうガラスまみれで回転する私を、後ろから見ている映像がスローモーションで脳裏に焼き付いているだけ。

勝手な想像ですが、ぶつかる瞬間私の魂が後ろに抜け出た・・・

その時の映像なのかもしれません。


目撃者の証言によると、私の左ドア部分に車が真っすぐつっこみ、私の車は宙を舞いながら3回転半して逆さまになって止まったそうです。


目を覚ますとブラブラと揺れていました。

上を見ているのに血だらけの天井と、人の足が見えるんです。

不思議でなりませんでした。

逆さま、つまりシートベルトで宙づりなのが理解できず、天地がひっくり返っている事で混乱してしまいました。

宇宙船のコントのような状態です。


やっと周りの音が聞こえてきました。


『車起こすぞー!』『こっちこっち!』『いいかー?』


激しく車が揺れ始めた。

私は怖くなって『生きてます!下ります!出ます出ます!』と声を張った。くわえたばこの男性が覗き込み『おお!生きてるぞ!』と言った。オイルも漏れて臭かったのだが、くわえたばことは何事か。

マッド・マックスの1作目を思い出し、咄嗟に死を感じた私は急いでシートベルトを外した・・・ゴン!!!!痛ツツツツ・・・・

上下の間隔が狂っているので頭から思い切り落ちたのだった。這いつくばって車から出ると手も服も血で真っ赤な事に気が付いた。


やっと事故を起こしたことに気づき、急に震えが止まらなくなった。


『そうだ・・・相手がいるはず・・・無事なのかな・・・』


そう思い、キョロキョロしていると『大丈夫かい?』

と声をかけてくる男性が居た、正直ショックなのか目が霞んで良く見えなかった。

『私にぶつかった人は知ってますか?』と聞いてみたところ『キミが信号無視で突っ込んできたんだよ、ボクに・・・』と言った。

だんだんと目が見えてきたのですが誰かは確認できなかった。

聞き覚えがあるような気もしたのですが・・・・


そこへ救急車が来たので歩いて乗ろうとしたら『あなたが怪我人?』と隊員に言われたので『はい』と答えると『あの車の状況で歩いて乗れるなんてあり得ない、本当にキミなのかい?』ともう一度聞かれた。振り返ると私の軽四は軽二輪のように潰れていたのだ、頑丈な乗用車に突っ込まれて助手席のドアは運転席の横まで来ており、エンジンがボンネットから飛び出していた。


状況を説明し私は救急車に乗れたのだが、隊員に『住所は?名前は?』と聞かれている間に声がどんどん遠くなり、眼が見えなくなったまでは覚えているのですが、倒れたらしい。

頭の痛みで目が覚めると、手術台の上で頭を縫われていたところだった。

『あ!目が覚めた?あと2針だから頑張って』と医者に言われた。

気を失っている間に塗ってしまおうと、麻酔をしなかったらしく、正直針とは言え激痛だった、刺して頭蓋骨にカリッと触る音も聞こえるし、その感触もあった、皮膚が引っ張られるのもわかったし、痛すぎて吐きそうだった。


その医者によれば運転手が傷つくのは大体右で、左の、しかも後頭部寄りの側頭部に轢きちぎられたような切り傷がつくなんて聞いたことが無いとの事。あり得ないとは言い切れないが、私の車内には飛ぶようなものは何もなく、車のガラスは粉々に割れるようになっている、そう考えると不可思議な傷だった。


家に帰り、目覚めると3日経過していた。

3日間眠り続け、母親は私を『死んでるのではないか?』と何度も確認したと言う。

父親がその間事故について動いていてくれたらしく、話をしに部屋に来た。

聞けばぶつかってきたのは車を売ってくれたディーラーだと言う。

自分で売って自分でぶつけたのかよ!と突っ込みたかった。

借金は残るが、怪我が治るまでの医療費は全て向こうが面倒見ると言ういわゆる示談と言う話だった。まぁ父親の友人だから妥当だろう。

2.000円の値段がついたままお見舞いを買って来たディーラーさんに、病院に何度か連れて行ってもらい話は終わった。


ある日『あぁ・・・初めての車だから写真撮って置けばよかったなぁ』

と私が車の無い駐車場を見ながら呟くと、『そんな事より、毎朝乗せて行ってた友達、今回乗せてなくて良かったね』と母親が言う。

『え、まって、なんの話?』


『あら、髪の長い女の子、朝助手席に乗ってあんたを待ってたじゃない、毎日』


母親は誰かと勘違いでもしてるのだろうと思った。

そこへ姉が『写真現像してきたよ~』と居間に入ってきた。

それを見る母親の横で姉は『あんたの初めての車、記念に撮影してたんだよ』と話していた、すると母親が『あぁホラ!写ってるじゃん』と声をあげる。

その写真を見ると、私の車の助手席に髪の長い女性が座り、こっちを見ていた。


ディーラーさんに車の事で話を聞きたいと父親に申し出ると、日にちを合わせて家族全員が居るときに来てくれることになった。


まず事故当日に私に『君が信号無視してきた』と嘘をついたのは、あと1点で免許取り消しだったからと白状した。

車の件を父親が強く出ると、ディーラーさんが話始めた。

『実はあれ・・・事故車で・・・』


聞くところによると前の持ち主が事故を起こしたが、ちょっと打ちどころが悪く亡くなってしまったそうです。車の損傷は殆どないないので安く私に売った・・・との事だった。


写真とネガを供養してお焚き上げし、その後は何もないのですが、あの時私は彼女に連れて行かれそうだったのだろうか、あの世に引っ張ろうとして私の左側頭部が引き裂かれたのだろうか、まるでチャンスを逃すまいと爪を立てたかのように・・・・


そして何より、毎日私は助手席にあの人を乗せていたのかと思うと

今でもゾッとします。

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