小説版『アヤカシバナシ』大きな男
さて、霊感の持ち主である母親の登場です。
彼女の霊感の強さは、一緒にTVを見ていると、急にうずくまって唸りだし、脂汗を流したかと思うと、スッと起き上がり『〇〇が死んだ・・・』と言った途端に家の電話が鳴り、母の言った親戚の〇〇が亡くなったと言う知らせが来るほどである。
そんな母親は身体が丈夫ではなく、これもそう言う者の影響なのかもなんて考えたりもする。
ある日、脚の関節が痛み、入院となった。
病室に案内されると、母親はとても嫌な気持ちがしたと言う。
ベッドに誘導されたが、そのベッドも凄く心地が悪く、一言で言うと【なんだか不快】だったそうです。
その夜、消灯時間となり寝る事にした母親。
気持ち悪いとは言え、入院当日で色々あったわけで、気疲れもあり睡魔に襲われた。
コツコツコツ・・・
足音で目が覚めた母親。
その足音は看護師さんのそれとはまったく違った。
コツコツコツ・・・
『あ、そうだ、サラリーマン』と思ったと言う。
踵の硬い革靴の音じゃないかと推測した母親。
消灯時間が過ぎてから面会に来た人かしら・・・
母親が入った病室は2階の角で、4人部屋だが、母親一人だったので、とても寂しく、ましてやこんな意味不明の音が聞こえたのでは、心細くて怖かった。
コツコツコツ・・・
『あれ・・・離れていく・・・』
コツコツコツ・・・コツ・・・コツコツコツ・・・
『ん?・・・んん????』
母親は慌てて上半身を起こした。
外を歩いている事に気が付いたからである。
カーテンをしているが、間違いなく足音は窓の外。
『なにこれ・・・』
足音は窓を横切り、母親の頭の方の壁の後ろを歩いた。
いわゆる【外】ではあるが。
コツコツコツ・・・
キィイイイイイイイイイイ・・・ゴットン・・・
普段誰も開ける事が無いはずの非常ドアを開けて入って来たらしい。
そこから3歩進み、足音が止まった。
母親が見てはいけないと思いつつも、ついつい『え?』と言う勢いで見てしまった。
学校の教室の出入り口を覚えているだろうか、その上に、棒を使って開ける高い位置にある窓を思い出していただきたい。
このような高い場所の窓から男が覗いていたのだった。
この窓から覗ける身長の人間などそうそういないはず。
その見知らぬ男は黙って母親を見つめた。
一晩中見つめ続けた。
恐怖で眠る事が出来なかった母親だったが、信じてもらえるはずもなく黙っていたのだが、流石に5日も覗き続けられたのでは体力が持たない。
神主である父親に相談すると、出刃包丁をお酒で研ぎ、神への祈りを長い時間捧げ、真っ新なさらしに巻いて病室の母親の眠る枕の下へ置き、切先を北に向けて、もう一度迷惑にならないように小声で祈りを捧げた。
他にも何かしていたと思うのですが記憶にありません。
帰宅後も父親はずっと神棚に祈りを捧げた。
翌日、母親を訪ねると男は来なかったそうで、ぐっすり眠れたそうです。
母親が担当の看護師さんに、私が来る前にこの部屋で何かなかったか尋ねると、『本当は言えないのですが・・・・』と言うと、静かに教えてくれた・・・
『貴方が入院する前の夜、男性が亡くなったのよ・・・このベッドで・・・とても大きな方でした』と。
※文中の魔除けの様な儀式は正式なものかどうかはわかりません。
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