見出し画像

ドキュメント 宇宙飛行士選抜試験 (光文社新書) 大鐘 良一, 小原 健右

この本は、2008年に日本で実際に行われた宇宙飛行士選抜試験の様子を、つぶさに記録したドキュメンタリーです。帯にも書かれている通り、宇宙兄弟を観たり、読んだりしている方には絶対オススメしたい一冊です。

NHKが取材を行ったものであり、ドキュメンタリー番組自体は今も観ることができます。

なぜ、今ここにいるのか?

一番おもしろかったのは、P200-203 第4章 NASAで試される"覚悟"

まず声をかけたのが、リンゼー氏だった。
「ノリ、アオイ? NASAへようこそ。私の名前はスティーブン・リンゼーだ。まず、君はなぜ、今ここにいるかを、教えてくれるかな?」
面接を見守っていた私たちにとって、その質問は意外に聞こえた。リンゼー氏は、「どうして宇宙飛行士になりたいのか」ではなく、「なぜ今、ここにいるのか(=Why are you here, What brings you here ?)」と問うたからである。
(中略)
こうした質問の仕方は、すべての候補者に共通していた。候補者に自らの人生について語らせ、その時々に下した判断について、その内容や理由を尋ね、掘り下げていく。どのような人間関係に支えられ、今の自分があるのか。なぜ、これまで築き上げてきたキャリアを捨ててまで宇宙飛行士になりたいのか。リラックスした雰囲気の中、詳しく問い詰められたのだという。

就職活動の面接で、よく「志望動機は何ですか?」とか「自己PRをしてください」といった質問がありますよね。

就活でよくそんな質問を受けました。社会人生活数年経った今では、面接官側、質問をする側にもなりました。

世に一般に流通している"面接対策本"などでも、対策必須とされている質問でしょう。

ただ、聞く側になって改めてわかったのですが、ほとんどの大学生は同じような回答をするんですよね。ビックリした。

バイト・サークル・ゼミ・留学などなど。

でも、同じような経験をしてきていること自体は、ネガ要素ではないと思っています。むしろ「何をしたか」はいっぱい言うのに「どう考えて」「何を大事にして」「じぶんの中にどんな思考のルーツ」があって、その行動に至ったのかを喋ってもらえず、残念に思うことが多いです。

これはじぶんに、質問力が足りていないのも問題ですし、世の中的に思想・信条に関わる質問は避けるよう示されているから訊ききれないものでもあります。

そんな経験があるからこそ「なぜ今、ここにいるのか(=Why are you here, What brings you here ?)」というのは、一つおもしろいものだなと感じたのです。

でも、そのまんま訊いてしまったら

SUITSという海外ドラマご存知ですか? その第一話でも同じような質問がありました。

ドナ「じゃあ、チップなぜ初対面のあなたを面接室に通すと思う」
チップ「約束しているから」

ある種コメディタッチなシーンですし、そのままの質問ではないですが、まあ「なぜ今、ここにいるのか(=Why are you here, What brings you here ?)」と訊いていたとしても、同じような返事をされる気がしますね。

おもしろい質問だからといって、そのまま採用するのもよくないでしょう。

かといって、直截にあまり深掘りしすぎるのも、やはり思想・信条に関わる質問に聞こえてしまうだろうから難しい。世の中デリケートだから難しい。

なぜ、獣道へ進むのか

「憧れだけではやっていけない」

宇宙飛行士に限らず、いろいろな職業において一度は聞いたことのある文句ではないでしょうか?

サッカー選手やYouTuberならいざ知らず、宇宙飛行士はなるまでの道が険しい割に、待遇も別段よいとは限らないのです。

P18-19 第1章 選びぬかれた10人の"プロフェッショナル"たち

宇宙飛行士とは、そもそもJAXAの職員で、選抜試験はつまるところJAXAの中途採用試験である。今回の募集要項によると、「採用時本給 大卒30歳 約30万円 大卒35歳 約36万円」とある。つまり、宇宙飛行士は、命をかけるほどリスクが高い割には、給料は公務員とあまり変わらない。これはNASAでもそうで、世界的に見ても同じだという。

P206 第4章 NASAで試される"覚悟"

しかし、何よりも宇宙飛行士になって、劇的に変化するのは、「職務で死ぬ」確率だ。
宇宙飛行士は、危険と常に隣り合わせだ。スペースシャトルで死亡自己が起きる確率を計算してみれば、いかに命がけの仕事であるかがわかる。
シャトルはこれまで、132回、打ち上げが行われている(2010年5月現在)。そしてこのうち2回、1986年と2003年に死亡事故があった。(中略)
世界最先端の有人宇宙と言われるスペースシャトルでも、死亡率は66分の1だ。すなわち、66回の打ち上げで1度は必ず失敗し、死亡してしまうという計算だ。事故率が100万分の1とも言われる航空機と比べると、あまりにも高い。

こんなの獣道を 1年や2年ではなく、この先長い間歩み続けなければならないのだから、必然思いの強さは重要になります。

そのため、やはり思想・信条に関わるくらいの深掘りが必要になるのです。

これは受験者側にとって重要なのはもちろん、JAXA側も同じこと。

P208 第4章 NASAで試される"覚悟"

日本の場合、選抜試験で採用した人間は全員、宇宙飛行士になり、宇宙飛行しなければならない。途中でやめたり、医学的に不適格になったりすることは許されない。それは、宇宙飛行士の育成には億単位の税金がかかるからで、投資を無駄にしないためにも、確実に宇宙へ行くことができる候補を採用しなければならないのだ。

選ぶ側にも、選ばれる側にも、一般企業の面接とは文字通り桁違いの責任が伴うというわけなのですね。

やり抜く"覚悟"、そいつが大事というわけです。

じぶんには、憧れはあってもやり抜く覚悟までは見つからなかったので、手近なところで全ピース真っ白のジグソーパズルを買ってきました。

本当に宇宙飛行士選抜試験で、やっていたらしいですよ。やり抜く覚悟を試してみます。

終わりに

「本を読んだり、新しいこと知るのは興味あるけど、そんな時間無い!」という方、ぜひこの #週一文庫 のマガジンをフォローしてください! 代わりに毎週じぶんが何かしら本を読んで2,000文字程度で紹介します!

ビジネススキルのような、明日すぐに使えるものでは無いけれど、雑学として知っておくと日常がちょっと面白くなる。そんな書籍を紹介し続けていきたいと思っています。

今週の一冊はコチラ▼

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?