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【映画】『ルックバック』 いつまでも2人、輝いて。

割り引きなしの、みんな一律1,700円。

そもそも映画館に行くことが年に1回あるかないかであって、昨年も『THE FIRST SLAM DUNK』を観たきりだった。(観ようとしていた『劇場版サイコパス Providence』は、もたついてたら終わっていた。)

Amazon Primeやネットフリックス等の配信サービスが普及して久しく、映画を観ること自体が私の生活にとっては高級品。
自宅から車で片道30分、暗闇の閉鎖空間で沢山の人と一緒に詰め込まれて約2時間…結構ツラいものがある。

「今年の一本」は、大好きな薬売りさんシリーズの新作『劇場版 モノノ怪 唐傘』の予定だったのだ。7月末の公開を待つべし、もちろんハッピーマンデー1,100円、空いている月曜日を狙って。

薬売りさん…。

 
ところが突如彗星のごとく公開された(私が情報に疎いだけ)『ルックバック』が気になって仕方がない。大人気漫画『チェンソーマン』の作者・藤本タツキ先生の読み切り漫画が原作らしい。原作自体が凄い人気のようだが、予告編を観てもまだピンと来ない。

 さらに上映時間は58分しかなく、各種割引は適用されず一律1,700円。 
な、生意気な…!(お前がな。)

それでも観ることを決めたのは、私自身が小学生の頃、友達と漫画を描いて遊んでいたからなのかもしれない。

あらすじ

学年新聞で4コマ漫画を連載している小学4年生の藤野。クラスメートから絶賛され、自分の画力に絶対の自信を持つ藤野だったが、ある日の学年新聞に初めて掲載された不登校の同級生・京本の4コマ漫画を目にし、その画力の高さに驚愕する。以来、脇目も振らず、ひたすら漫画を描き続けた藤野だったが、一向に縮まらない京本との画力差に打ちひしがれ、漫画を描くことを諦めてしまう。

しかし、小学校卒業の日、教師に頼まれて京本に卒業証書を届けに行った藤野は、そこで初めて対面した京本から「ずっとファンだった」と告げられる。

漫画を描くことを諦めるきっかけとなった京本と、今度は一緒に漫画を描き始めた藤野。二人の少女をつないだのは、漫画へのひたむきな思いだった。しかしある日、すべてを打ち砕く事件が起きる…。

劇場版『ルックバック』公式サイトより

上映時間58分しかないわりに、ネタバレとまでは言わないが、物語の大半をあらすじで説明してしまっている。大盤振る舞いか。

小学生の私は『ルックバック』の彼女たちのように漫画を完成させたり投稿したりは出来なかったけれど、面映ゆい日々がフラッシュバックするようだった。

友達と電車に乗って、隣町まで画材を買いに行ったこと。電車の乗り方も知らないほどに幼くて、鈍行料金で特急に乗り込み車掌さんに怒られた。
コピック1本200円は高くて、3色しか買えなかったことも。いつだったか未来から過去に遡る物語のネームを書いて、相方に「背伸びし過ぎだ。」と指摘を浮けた。(その通りすぎる。)

今はこんなに持ってるのにさ。


もう二度と、観たくない。

反論されるのを覚悟で言う。
素晴らしい作品であるのは間違いないが、それでも私は本作をもう二度と観たくない。
そのくらい観ていて胸が苦しくなった。
私のしょうもないノスタルジーのせいではない。
浅学菲才の私の身とは全く重ねられないくらい、藤野と京本のひたむきさもエネルギーも才能も眩しかった。

終始生意気スタイルの藤野と、藤野をキラキラとした眼差しで追い続ける京本。
2人が初めて出会うシーンから、共に過ごす青春時代の映像は、口から何か変なモノが出そうになるくらい可愛いし尊い。(ずっと手で口を覆っていた。)

短い時間でも、見応え十分。
原作者・藤本タツキ先生が若き鬼才であるのは言うまでもなく、映像も音楽も声優さんも100%以上のお仕事をしている。
絵を描いたことのある人も、描いたことの無い人も、共鳴し、胸に刺さるものがあるだろう。


本当に美しいものは、1回でいいのかも。

漫画も小説も映画もアニメも、気に入ったら何度も読むし観るほうだ。
セリフを覚えるほどに。
人から「よく飽きないね。」と言われるほどに。

それでも『ルックバック』は二度と観たくない。
悲しい事件が起こるからじゃない。
初回の感動が薄れるから、も少し違う。

引きこもりの京本が部屋から飛び出て来たシーン。
2人で原稿料を握りしめ、町へ出かけるシーン。
一瞬一瞬があまりに美しく輝いて、痛くて、心臓を掴まれるようだったから。

刹那の閃光のような2人の日々が、
目に焼き付いて離れない。

【作品情報】
・『ルックバック』
原作:藤本タツキ(集英社、少年ジャンプ+)
映画製作:スタジオドリアン

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