旅日記 秩父にて 伍 神に願う
ここは「礼所10番 大善寺」。此処の神様はどうやらお喋りが好みのようだ。大慈寺の階段下には殻だけの卵がお供えされているが、その中には人々の言葉が籠められているらしい。それが、どんな御利益になるかはわからない。
貴方なら何を込める?
そうだね。君と出会えたこの奇跡を忘れないようにって籠めるかな。
バカ。
メリーは、照れながらそう呟いた。だけど、彼女を大慈寺に連れて行くことは出来ない。だから、僕達は道路の隅に愛車を置いた。
メリー、すぐに戻るよ。
いってらっしゃい。
二人は、急になっている階段を一段一段、丁寧に踏みしめていく。
大慈寺に人の姿は無かった。静かな境内はこれと言った見どころのない場所だが、静かで居心地の良い所だった。
二人は長居をせず、この地を後にした。すぐに愛車の元に戻った二人はそいつに跨る。
早かったわね。
うん、僕らに残された時間は僅かだからね。
そんな少しの焦りを夕日が包む。頭の中に終わりという言葉が浮かんでおセンチな気持ちになりながら。僕らは走り出した。
おい、おしゃべりな神よ。時を止めてくれ。アンタの欲しい言葉ならいくらでもくれてやるから。
なんて、叶わぬ願いを僕は神に祈り続けた。
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