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第5話 セッチャンと呼んでください

「開場します。」 スタッフの声と共に、ガラス扉は開かれた。

受付を済ませた観衆が、続々とホールへ向かっていた。

そして、ついにあの方も受付を済ませ、我々の方へゆっくりとした足取りで向かっていた。

「みんな、長官をお迎えに行くぞ!」

ケンチャンの一声で一行は長官のもとへ足早に向かった。

「長官、ご無沙汰しております。 今日はご夫婦でお出でいただき、ありがとうございました。」

ヒラチャンが代表して長官に挨拶をした。

田中長官の姿を目にしたメンバーは、一瞬、現役時代に戻ったような気がした。

「みんな久しぶりだね。 今日は楽しみにしているよ。」

田中長官は笑顔で答えた。

「皆さん、そんなに固くならないで。 芸能人は笑顔が大事よ。」

長官の隣にいた妻の輝枝さんは笑顔を浮かべながら、メンバーを見回した。

長官の奥様が我々に優しい言葉をかけてくださっても、どうしても固くなってしまう。

これには、ちょっとした理由があった。

彼の名前は田中せつお。 元警察庁長官だ。

KOBが田中長官と出会ったのは、彼が宮城県警本部長として就任していた時期だった。

かつて日本の警察のトップにいた長官に対して、粗相があってはならない、皆そのことで頭の中が一杯になっていた。

「そうだよ、そんなに固くならないで。 私は君たち同様、隠居の身なんだから。 長官じゃなくって、そうだな・・・ セッチャンでいいよ。」

長官は少し照れくさそうに言った。

「セッチャン!?」 その言葉を聞いて、皆驚いてしまった。

「KOB、そろそろ楽屋に行けよ。」

後ろから真野先生の声が聞こえた。

「ああ、真野先生。 長官・・・いやセッチャン、この方は私たちの歌の先生なんです。」

ケンチャンはセッチャンに真野先生を紹介した。

「なるほど、それはそれは。」 

セッチャンと輝枝さんは真野先生に会釈をした。

「長官、記念に写真を撮りませんか?」

ダイチャンは鞄からカメラを取り出した。

「そうね、記念だから真野先生も一緒にどうぞ。」

ひろみ先生は真野先生の方を振り向いた。

「それでは長官と奥様は中央へ、真野先生はそちらへ。 皆さん撮ります、は~い。」

ダイチャンはシャッターを切った。

「では頑張ってくれ!」

セッチャンはそう言うと、輝枝さんと二人でホールへ向かった。

「我々も楽屋へ行こう。」 

KOBは、楽屋へと足早に向かった。

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