見出し画像

午前五時の内神田で出会った、頑張っている人達。

「申し訳ございません。
サウナは五時からになります。」
少し眠そうなスタッフの方が、
丁寧にそう言う。
腕時計を見てみるとまだ四時三十五分だ。
内神田にある「セントラルホテル」。
四月で閉館してしまうという事で、
急遽行ってみた。

仮眠を取っていたところだったのだろうか?
だとしたら悪い事をしてしまったなあ。
さてあと二十五分をどう過ごそう?

僕は早朝の神田を散歩することにした。
まずは神田のガード下を歩いてみる。
すると突然女性に声をかけられる。
「お兄さん、マッサージ?」
「大丈夫、足りてますから。」
そう言ってそそくさと立ち去ると、
その女性は堪忍したようにほくそ笑む。
午前四時四十分、まだ寒空のガード下。
その姿でさえどこか健気に感じる。

ようやく五時になり入館を果たす。
とても落ち着いた浴室でとても良い。
他におじさんが一名いたが、
瞳を閉じると流水と乾いた桶の衝突音だけが聞こえてくる。
テレビなどは無く研ぎ澄まされた空間、
まるで禅の世界。

しかしサウナに入って間もなくし、
一気に暗雲が立ち込める。
いかついお兄さんが二人、入ってきた。
ひざ下以外に全て入れ墨の入った、
明らかに格上の人。
金髪で一見強面風だが、
よく見ると目がクリッとして、
ちょこんとタトゥーが入った、
子分風の人。

だがもはやそこは禅の世界。
僕は何食わぬ顔で頑なに鎮座を続ける。
十分程経ちサウナを出る。
サウナ室の方を振り返ると、
金髪の強面風がタオルで熱波を送っている。
「送らされている」と言った方が正確か。
かすかに、「あちいな!ばかやろうっ!」と聞こえた。

色々と感情が揺さぶられかけたが、
最後にサウナと水風呂をもう一回。
完全に整えてチェックアウトだ。
フロントのスタッフさんは、
先ほどとは違う人に変わっていた。
やはり勤務終盤の、
辛い時間帯だったのだろう。

世の中には、
様々な方向性で「頑張っている人」がいる。
自分が辛い時に外の世界へ目を向け、
そういう人の姿を見たり、
「頑張っている人の顔」を想像するのは大切だ。
「最後のもうひと踏ん張り」が効いてくる。

帰り道に「ダンカン」と書いてあるスーツ屋の看板を見つけた。サウナでの光景を思い出しながら「ダンカン、ばかやろうっ!」と心の中でモノマネをしながら仕事へ向かった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?