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厭な話

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小説。
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2015年10月の記事一覧

怪談『追走』

怪談『追走』

「冬前だったので、まだ全然暗くって」

新聞配達をしている真鍋さんは言った。

朝五時過ぎ、最後の配達を終えて、住宅街を通って配達所に戻るときだったという。

「薄ら暗い、というか。空は徐々に明るくなりかけてるんですけど、まだはっきりとは見えない、みたいな。ちょうどあれです、夕方の黄昏時の、朝版、みたいな感じ」

黄昏は、誰彼とも書き、自分以外の者の顔が暗くなりかけてるため、果たして誰なのかが判別

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怪談『おにーさん』

怪談『おにーさん』

「その人、レジに並んでる時から声大きくて」

とある大手スーパーで働く浜田さんは言う。

「前の人が会計してるのに、大きな声で『いや、それはまずいですよ、おにーさん』とか言ってて」

その客の両手は、商品で塞がってたと言う。

「その人の会計の番に来るまでは、携帯をハンズフリーの状態で、会話してるんだと思ってたんです」

イヤホンとマイクで会話しているのだ、と、浜田さんは思っていた。

「『そうい

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怪談『カーナビ』

怪談『カーナビ』

「もう今のこのカーナビは違うんですけど」

タクシー運転手の大森さんは言った。

「前まで使ってたカーナビがどういうバージョンだったかはわからないんですが」

相当、古いものであったらしい。

「で、夜中に走ってたときです」

若い女の人が、大森さんのタクシーを停めた。

「住所を告げて、そこに行ってくれって言うんですけど」

カーナビに住所を入力すると、そこは神奈川県の山道の真ん中だったという。

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厭な話 『呼びだし 後日談』

厭な話 『呼びだし 後日談』

「と、言う話を聞いたんです」

僕がそう言葉を結ぶと、湊町黒絵(みなとまちくろえ)先輩は、「へぇ」と言った。

「今度は、ヘぇ、だけですか。もっとこう……なんかないものですかね」

僕はたった今語り終えた話のメモが書き付けてあるノートを鞄にしまいながら言った。

「何かないものかと言われてもなあ――へぇ、が不満なら、はぁ、でもいいが」

「対して変わらないですよどちらも」

僕はジョッキに残った生

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厭な話 『呼びだし』

厭な話 『呼びだし』

「九時くらいです。夜の」

及川さんは細かく何度も頷きながら言った。

「正確ではありませんけれど、大体そのくらいの時間に、家のインターホンが鳴るんです」

及川さんがリビングでテレビを見たり、キッチンでやや遅めの夕飯を食べていたり、お風呂に入っていたりしている時、インターホンは鳴るのだ、という。

「確かに遅い時間ではありますが、そこまで非常識に遅いって程じゃありません。宅配の荷物なんかも、二十

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怪談 『ハサミ』

怪談 『ハサミ』

「津田爽子、て名前でした」

美容師をやっている赤山さんは言った。

「爽子は、店に来た時は明るくてお話好きで、努力家で仕事も覚えるのが早くて……店長も、あの子はいいとこまでいける、なんて、褒めてたんです」

ただ、センスは今ひとつでしたけど、と赤山さんは眉を潜めながら言った。

「爽子には、親友がいて、美容師学校の同期生で。その子は別の店で働いてたらしいんですけど、将来その子と共同で美容院開くん

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