怪談『おにーさん』
「その人、レジに並んでる時から声大きくて」
とある大手スーパーで働く浜田さんは言う。
「前の人が会計してるのに、大きな声で『いや、それはまずいですよ、おにーさん』とか言ってて」
その客の両手は、商品で塞がってたと言う。
「その人の会計の番に来るまでは、携帯をハンズフリーの状態で、会話してるんだと思ってたんです」
イヤホンとマイクで会話しているのだ、と、浜田さんは思っていた。
「『そういうこと言うならもう、駄目にしてしまいましょうよ』とか、なんか、会話の内容が怖くて」
普段は気にしないのだが、会話の内容を覚えてしまっていたのだ。
「ちょうどレジに来た時が、『はい、じゃあ、おにーさんに任せます。駄目にしちゃってください』みたいな内容で」
そこからその客は、会計が終わるまで誰とも喋らなかったという。
「で、気になるのでそのお客さん見たら、別にイヤホンしてなかったんですよ」
その客のどちらの耳にも、イヤホンは装着されてなかったらしい。
「だから、え? 誰と喋ってたんだろう? て、不思議に思って」
とても記憶に残ったらしい。
「でも、今思い出してみたら、『おにーさん』て言ってたのは、こちらの思い込みだったのかも知れないかな、て思うんですよね」
浜田さんは不思議そうに言った。
「おにーさん、て伸ばしてたんじゃなくて、おにさん、て言ってたように、今は思えるんです」
その客が何を買って行ったかは、覚えていないが、坊主頭ではあったらしい。
なんにしても、厭だ。
※登場する人名は全て仮名です。
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