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ルネ・ラリック リミックスー時代のインスピレーションをもとめて

ルネ・ラリック リミックスー時代のインスピレーションをもとめて
2021.6.26-9.5
@東京都庭園美術館 本館+新館(東京都港区白金台5-21-9)
入場料:1400円
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東京都庭園美術館の建物である、旧朝香宮邸の玄関で迎えてくれるガラスの扉。これを手掛けたルネ・ラリックの展覧会である。

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ルネ・ラリック展は昨年の春も開催していて、絶対に行こうと予定していたのにちょうど感染症蔓延の影響で急遽終了して行けなくなってしまい、とても残念に思っていたのだ。昨年の「北澤美術館所蔵 ルネ・ラリック アール・デコのガラス モダン・エレガンスの美」→(https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/200201-0407_lalique.html

その後も、2020年はバタバタと美術展が途中閉幕してしまい、「推しは推せるときに推せ」みたいなことを心に刻んだ1年だった。実際、去年から今年にかけてどんな展覧会も会期終了間近に出かけることがなくなってきた。今回もそそくさと行ってきた。

先に感想を言うと、今年見た展覧会でいちばん良かった。
ちなみにこの展覧会では、いつもは作品保護のために塞がれている建物の窓が、できるだけ開かれ自然光が入ってくるようになっている。

旧朝香宮邸であるこの建物と同時期に活躍したルネ・ラリックとの相性はこの上なく良く、建物と展示物がお互いの魅力を最大限に引き出しあった結果の素晴らしい展覧会だったと思う。


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最初に目に飛び込むのは、冒頭の庭園美術館入り口扉と同じガラス彫刻。しかしこれは上部が割れていて、特にそういったキャプションは見つからなかったが、割れてしまって取り替えたものの保存なのだろうかと推測。

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本展覧会のごあいさつ文は、展覧会図録のテキストもすばらしい館長の言葉。以下抜粋。

・・・自然とは人がそれを愛好する気持ちとは関係なく、それ自身の法則で花を咲かせ、葉を生い茂らせていく。人がなにかに美を感じるのは、眼差しを向けられた先の対象が、それ自身美しいからであるとはかぎらない。むしろ、そこに美を感じようと求める人の心に、美の源泉があるのだということを、ラリックは「自然を観ること」から体得したのです。

 ですからラリックの作品では、ラリックの作品には、従来のジュエリーでは考えられなかった裸身の群像や、妻アリスの面影を隠花植物の羊歯で囲うという、思いがけない取り合わせが登場します。ラリック作品のさまざまなモティーフとは、美を探し求めた作者自身の生きる姿だったといえるでしょう。・・・


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もう最初からそうなのだが、写真で撮っても全然目で見たものと違ってびっくりしてしまうくらいだ。ひとつひとつの存在のかけがえのなさ、美しさ、儚さにため息が出る。

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↑朝香宮邸正面玄関ガラスのためのスケッチ。左下には「TOKIO」の文字。


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これはいつもと変わらずある「香水塔」。このカーテンのデザインも、空間に調和していて好き。


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ジュエリーの展示。

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↑この植物モチーフのブレスレット《ヴェロニカ》の美しさに衝撃を受けた。写真では全然伝わらないけれど…。


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↑これは展覧会とは関係ないけど、初めてまじまじと見た扉。摺りガラスの模様がとってもお洒落。


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大食堂の窓際のテーブルには、ラリックのテーブルウェア《ニッポン》や燭台《トウキョウ》が。生涯日本を訪れたことはなかったようだが、この朝香宮邸のプロジェクトやジャポニズムなどにも影響を受けており、日本への想いはそれなりに強かったようだ。

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この部屋も本当に光がたっぷりと入って美しかった。

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そしてこの大食堂壁面のグレーのレリーフ部分は、国外から輸送するときに事故に遭ったそうだ。ものづくりには悲劇とドラマが尽きない。

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ひょうたんがたくさんぶら下がる模様。有機的でカジュアルだが、センスが良い。


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これはトカゲ。じっと観ると、たくさんの動物や植物が隠れていて、全体として調和のとれた図柄になっているのが本当にすごい。

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花瓶《雌鹿》は、東山魁夷の作品を思い出した。


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天井の換気口までうっとり。

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階段の一部。どこを切り取っても絵になる。


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↑2人の足がクロスしながら伸びて取っ手になる形、見事。


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↑テーブルセンターピース《火の鳥》。


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こういう壁も、壁紙ではなくカーテンと同じ織物。はぁ、、良い。


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途中で見えるお庭。


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本館最後のセクションは、香水瓶やタバコ入れなどの小型の製品が多かった。すべてのものがユニークで美しくて、いつまでも感心してしまう。

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朝香宮邸の子ども部屋。羨ましすぎる…。


本館は終わり。

新館へと展示は続く。


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新館のホワイトキューブでは、ラリックがガラス作家・プロダクトデザイナーとして活躍した時期から1930年頃までの作品を取り上げる。

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スズメが奥にいったり手前にきたりしているリズムが良い。

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これは「1912年に初めてガラス作品展を開催したときの招待状」とある。なんと招待状をガラスで作ったのだ。かっこいい。

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晩年には大きな建築プロジェクトなども多く手掛け、電車車両や豪華客船の内装デザインなど活動の幅は広かった。旧朝香宮邸のガラスの扉のデザインを制作したのもこの頃である。

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↑なんだかこの写真は怖い感じになってしまったが、実際はもっとやさしくて素敵な装飾品だった。


ミュージアムショップの前の映像展示室では、現在のLALIQUE工房で職人がものを作っている様子が流れていた。

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新館の展示デザインは中山英之設計事務所。


この新館はホワイトキューブなのであまり自然光が入らず、それはそれで自由なライティングや見せ方ができるのだが、ルネラリック作品はやはり本館の自然光の中での展示が最適だなと思った。

この新館での展示では、ラリックというひとりのジュエリー作家から、ガラスの工房を持ちプロダクトデザイナーとして広く活躍する様子が紹介されていて、ところどころ私の好きなアーティストであるイサム・ノグチと重なるところがあるなあと感じた。

それは、"1点モノ"を作っていたアーティストが後に、大量生産の技術で工業製品を生み出すということに喜びを感じていたこと。

ラリックは、上顧客のために高価で1点モノの作品も作りつつも、

・・・むしろ「廉価な作品ほどの喜びは得られなかった」とまで言っている。高い技術力と作家と研ぎ澄まされた感性を個に閉じ込めるのではなく、家族や工員たちと共同し、いかに多くの人々に届けるかということに注力した。
 香水瓶や写真立てといった日常の小さな小物から、建築や室内装飾のような大きなプロジェクトまでガラスの可変性を生かして、常に技術開発を怠らなかった姿に、ユニーク・ピースなのかマルチプルなのか、「作品」なのか「プロダクト」なのか関係なく、等しく質が高いものであるべきという徹底した態度を見ることができる。(SECTION 2より)

イサム・ノグチは彫刻家として石や木、鉄など様々な素材を使って作品を作りながらも、「僕の作品は値段が高くなりすぎてしまった。だから、AKARI(廉価な名作照明)のような多くの人に手の届く商品を作れたことは嬉しい」と語っていたのだ。(2021年イサム・ノグチ展の記事はこちら

アーティストにとって、自分の作品が売れ、高額になることは必ずしも喜びではない。むしろそれを多くの人に見てもらい感じてもらうことの方に意義を見出すアーティストが私は好きなのかもしれない。


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展覧会を観終わり、café TEIEN へ。もう夕方の閉館にも近かったためかルネ・ラリック展オリジナルデザートは売り切れており、ガトーバスクを注文。

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やはり疲れた脳に甘いものは至福。クマちゃん柄の豆乳ラテは、ひと口飲んだらヒゲをたくわえたクマじいさんになったw


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暑い日でした。

展覧会は9月5日まで。
改めて、庭園美術館の魅力に気付かされ、東京の宝だな、、と思いました。
都民はぜひ訪れてほしいです。


庭園美術館のHPには本館の各部屋の紹介が載っているのを知った。
いつでもじっくり眺められる。


展覧会URL


最後に。

記事の冒頭で、写真を撮っても見たものとのギャップが激しくてがっかりしてしまうと書いたが、今回の展覧会図録は素晴らしいので気を落とすことはない。

今回の展覧会場に展示された状態が撮影されているので、展覧会で見られる自然光と庭園美術館の取り合わせが限りなくよく再現されているのだ。作品写真・情報はもちろんのこと、会場にはなかったテキストも充実していて面白い。

この図録を作ってくれた人、ありがとう・・・・・(涙)。

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おわり

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