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中高年ランナーとウエイトトレーニング

近年のランニングブーム、マラソンブームの勢いは衰えず、むしろ年々勢いが増しているようにも感じますが、ランニングは誰もが手軽に実施出来る運動ですので、例えば陸上競技経験のない人が健康のためにと中高年になってからランニングを始め、ただ単に日々ランニングするだけに留まらずレース(大会)に出始めたというケースも増えているのではないでしょうか。

ランニングは健康維持・増進に有効な運動であることは疑いようのない事実ですが、中高年の方々がランニングトレーニングを健康的に継続していく上で、特にレースに出場するためのランニングトレーニングを健康的に継続していく上で是非とも念頭に置いて頂きたいポイントがあります。

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●中高年ランナーは加齢に伴う筋肉量の減少および筋力の低下を防ぐことが何より重要

我々人間は加齢に伴い筋肉量が減少していきます。その筋肉量の減少は50代になると年間0.45kgに及ぶことが報告されています(Nelson et al.)が、加齢に伴う筋肉量の減少は筋力の低下をもたらし、その筋力の低下はランニング(トレーニング)に悪影響を及ぼす可能性があることから中高年ランナーはウエイトトレーニングを十分に実施し加齢に伴う筋肉量の減少および筋力の低下を防ぐことが何より重要になるといえます。

なぜなら・・・

先行研究(1)で、中高年ランナーは若年ランナーより最大下ランニング中のピークインパクトフォース(地面反力鉛直成分第1ピーク:下記「●参考:走動作の地面反力について」を参照)が増大することが示され、これは加齢に伴う筋機能の低下、すなわち、筋力の低下による衝撃吸収力の低下によるものであると示唆されていますが、ランニング動作におけるピークインパクトフォースの増大はランニング障害(特に接地時の衝撃に関連するランニング障害である疲労骨折、足底筋膜炎、等)のリスクになり得ることが多くの先行研究によって明らかにされていることから、中高年ランナーが健康的にランニングトレーニングを続けるにはウエイトトレーニングを十分に実施することで加齢に伴う筋肉量の減少、筋力の低下を防ぎランニング動作におけるピークインパクトフォースの増大を防ぐ必要があるといえのです。

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●参考:走動作の地面反力について

下記の図における「b:鉛直方向」の「中速(▲)」を参照すると2つのピークを確認することが出来ます。

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●参考:米国のトップランナーであったライアン・ホールの地面反力解析

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つまり、中高年ランナーは加齢に伴う筋力低下の影響によるピークインパクトフォースの増大がみられ、ランニング障害を引き起こし易いといえるので、加齢に伴う筋力低下を防ぐことでランニング障害を予防することが重要であるという訳です。

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●ランニングフォームの改善で加齢に伴うピークインパクトフォースの増大を防ぐ!?

ランニング動作におけるピークインパクトフォースは、ランニングフォーム(特に接地動作)によって異なると考えられ、実際に幾つかの先行研究ではランニングフォームとピークインパクトフォースの関係について検討されていますので、ランニングフォームの改善を図ればウエイトトレーニングを実施せずとも加齢に伴うピークインパクトフォースの増大を防ぐことが可能であると考える中高年ランナーが多いかもしれません。

確かに、ランニングフォームを改善することでピークインパクトフォースを減少させることは可能ですが、中高年ランナーのピークインパクトフォースの増大はランニングフォームの良し悪しよりも加齢に伴う筋力の低下が大きく影響していると考えられ、そもそもランニングフォームの改善を図るにも然るべき筋力が必要になるといえる訳ですから加齢に伴う筋力低下がみられる中高年ランナーがランニングフォームを改善するのは容易な話ではありません。

ましてや、仕事や生活の合間の限られた時間を使ってランニング(トレーニング)を実施している中高年ランナーがランニングフォームを改善するのは時間的制約から容易いことではありませんので、ランニングフォームの改善によってピークインパクトフォースの増大を防ぐのは効率的であるとはいえません。

更に、ランニング等の有酸素運動は異化反応(分解反応)が大きいとされていることからランニングフォームの改善に固執しランニング(トレーニング)に熱を入れ過ぎてしまうのは、かえって筋肉量を減らし筋力の低下が著しくなる可能性もあります。

これらのことから、中高年ランナーがランニング障害を予防するにはウエイトトレーニングを十分に実施し加齢に伴う筋肉量の減少および筋力の低下を防ぐことが最も効率的であるといっても過言ではないのです。

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●体幹トレーニングでピークインパクトフォースを減少させることは可能?

最近ではランナーの間でも自体重運動を主とする、いわゆる体幹トレーニングが流行っており、体幹の安定性を高めることでランニングフォームの改善やランニング障害の予防が可能であると考えられているようですが、果たして体幹トレーニングでピークインパクトフォースを減少させランニング障害を予防することは可能なのでしょうか?

結論からいえば、体幹トレーニングでピークインパクトフォースを減少させることは不可能であるといえることから、体幹トレーニングでランニング障害を予防することは効率的であるとはいえません。

なぜなら・・・

4回/週×6週間の体幹トレーニング(5種目)がランニングパフォーマンス、下肢の安定性、ランニング動作中の地面反力、に及ぼす影響について検討された先行研究(2)によって、体幹トレーニングでは地面反力鉛直成分ならびに水平前後成分の変化がみられなかったことが報告されていることから、体幹トレーニングでピークインパクトフォースを減少させることは不可能であるといっても過言ではなく、ランニング障害を予防する上で体幹トレーニングは効率的であるとはいえません。

また、「漸進性過負荷」という点から考えれば体幹トレーニングを含む自体重エクササイズでは、加齢に伴う筋肉量の減少および筋力の低下を防ぐことは出来ないといっても過言ではありませんので、中高年ランナーがランニング障害の予防を目的に体幹トレーニングを選択するのは適切であるとはいえないでしょう。

以上を踏まえ、中高年ランナーが健康的にランニングトレーニングを継続するには、ランニングトレーニングの頻度を多少減らしてでもウエイトトレーニングを十分に実施し、加齢に伴う筋肉量の減少および筋力の低下を防ぐことでランニング障害を予防することが重要であるといえるのです。

●まとめ

・中高年ランナーは加齢に伴う筋肉量の減少および筋力の低下によってランニング動作におけるピークインパクトフォースの増大がみられる。

・ランニング動作におけるピークインパクトフォースの増大は、接地時の衝撃に関連するランニング障害である疲労骨折、足底筋膜炎、等のリスクとなり得る。

・中高年ランナーが健康的にランニングトレーニングを継続するには、加齢に伴う筋肉量の減少および筋力の低下を防ぎ、ピークインパクトフォースの増大を防ぐ必要がある。

・先行研究によって、体幹トレーニングはランニング動作における地面反力に影響を及ぼすことはないと報告されていることから、中高年ランナーがランニング障害の予防を目的に体幹トレーニングを選択するのは適切であるとはいえない。

・ランニング等の有酸素運動は異化反応が大きいとされることから、中高年ランナーはランニングトレーニングの頻度を多少減らしてでもウエイトトレーニングに取り組んだ方が健康的にランニングトレーニングを継続出来る。

参考文献:
(1)Sato K, Mokha M:Does core strength training influence running kinetics, lower-extremity stability, and 5000-M performance in runners? J Strength Cond Res. 2009 Jan;23(1):133-40

(2)Bus SA:Ground reaction forces and kinematics in distance running in older-aged men. Med Sci Sports Exerc. 2003 Jul;35(7):1167-75.

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