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【システマ】嫌でも喧嘩が終わっちまうシステマ


要約

マッサージしたら20年来の骨肉の争いが終わった。

兄妹ゲンカ

親戚に20年来喧嘩している兄妹がいました。20年と言えばすさまじい期間です。どちらがいいとか悪いとか、それぞれにたくさん理由があったのですが、喧嘩し続けている間にもはやどれがメインの問題なのかすらわからなくなってしまいました。兄と妹で揉めてそれぞれに主張があるのですから周囲の親戚もおいそれと介入はできません。

「お前ももういい加減お兄さんを許してやれよ」

毎年のように親戚の会合では喧嘩している妹が他の親戚に説教をされています。

「だってゆるせないの!このまえもこういうことがあったの!」

相手に対する認識が必ず「許せない!」という出発点から始まるので、過去に起こった出来事が風化してしまうどころか、新たな出来事がすべて不快で、自分に対する不都合なアクションとして目に映るのです。

「もう少し仲良くしろ、亡くなったお前のお母さんだってお前らが喧嘩することは望んでないぞ」

その兄妹のお母さんが亡くなっても、まだ二人の仲は険悪です。お葬式にも顔を出さず、遺産をネタにさらに揉めます。揉めなくてもいい問題で揉めるのですから、揉めやすい問題はさらに遠距離からのミサイルの応酬になってしまいます。

「すいません、妹の連絡先が分からないのですが、ご存じですか?」

揉めるだけ揉めて連絡先も渡さないのです。うちの家族に互いに連絡先を聞きに来たりして、実の兄弟なのに面と向かって話すことすらできなくなっているのでした。憎しみに継ぐ憎しみ、疑心に継ぐ疑心、罵倒……親戚たちも彼らのこととなると腫れ物に触るようにしてしか対処できません。

周囲の人々は相談も𠮟責も説得ももう何十年もやってきてるのですが、全く効果がありませんでした。わたしもいつしか、そのふたりの兄妹のことになると親戚中で微妙な雰囲気になるので、話題を避けるようになっていました。

兄と妹とそしてぼく

その時は親戚のおばさんの葬儀でした。焼き場で、ばたばたして遺体を式場から運んできて火葬している最中、お通夜からずっと中心となって働きづめだった父が、さすがに腹が減ったのですこし昼飯を買ってこようと提案し、待合室から他の親戚たちを引き連れてぞろぞろ出て行ったあとでした。

わたしは腹が減っていなかったので、荷物の番も含めてその待合室に残ることにしました。十数人からいた親戚たちがぞろぞろと出て行ったあと、その待合室にはなんと件の喧嘩兄妹と、わたしだけが残されたのです。

他の親戚も祭事で疲れきっていて、それぞれに子や孫を引き連れていたため、その兄妹のことまで頭が回らなかったのでしょう。広い待合室に荷物番のわたしと、兄妹だけというすさまじく気まずい構成になってしまっていました。かつてわたしが経験したことのない重苦しい沈黙が流れました、なにせその兄妹は母親の葬儀含めて10年は顔を合わさない、もし顔を合わせても絶対に会話しないというソ連対アメリカより熱い冷戦を繰り広げてきたのですから。

一昔前なら私も雰囲気にのまれてがっちりと固まって緊張していたかもしれません。下手に二人のどちらかに緊張して話題を振ったかもしれません。

でも、そのとき私にできることはなかったのがわかったのでひとり呼吸しながら窓を眺めていました。

その日は天気で、斎場の窓から燦燦とした太陽が待合室に降り注いでいました。今、階下の火葬場ではおばさんが焼かれている真っ最中です。おばさんも煙になってしまっているな…あの立ち上る煙は叔母さんかな……?今窓開けたら叔母さんを吸い込んじゃいそうだな……喘息出たら困るな、とかそれくらいの感想で日に当たってぼーっとしていたのを覚えています。

揉んで揉まれて揉み返されて

「そういえばペリメニ君は武道をやっていたね」

重い沈黙を破ってお兄さんの方がわたしに話しかけてきました。この戦場で二人は緊張しまくっているわけだから、二人の問題に関係がなくぼーっとしてだらけているわたしのほうに注意が向くのは当然でした。水が勾配の低い方に流れるようなものです。

「そうなんですよ!最近マッサージの仕方も習ったんです。ロシアの先生から練習している方にはマッサージをしていいという許可もいただきました」

「武道にマッサージもあるの?」

「あります。良ければマッサージをしましょうか?」

と申し出て、お兄さんにシステマの呼吸とマッサージを受ける基礎的な原則を教えて、マッサージを始めました。

フーフーとそのお兄さんが呼吸をしてくれてマッサージを受けてくれました。彼は武道経験者なので単純に呼吸の技法と武道的マッサージに興味があったのかもしれません。一生懸命真面目にシステマの呼吸してマッサージを受けてくれました。

その時唐突に、なんとなくうまくいえませんが、なんとなくだがうまくいきそうな気持がしました。するっと、あんまり苦労せず、いろいろ面倒が片付きそうな予感があったんです。なので

「よかったら、お姉さんもマッサージしますよ」

と、部屋の隅でスマホをいじっていた喧嘩してるその妹の(私から見たら)お姉さんに水を向けました。そのお兄さんに近づくことすらしなかった妹さんは明らかにどっぴいていて顔が引きつっていました。一瞬手を横に振ろうとする仕草まで見せました。マッサージを受けていたお兄さんも私の言葉に驚愕の表情をしていました。あの二人の表情は一生忘れられません(笑)2人とも私より年上で50くらいですが、それほどのかわいらしい子供の様な素の驚愕と戸惑いの表情でした。

「呼吸さえしていればあまりいたくないです……」

とか言いながらわたしは2人をマッサージし始めました。

「フーッ痛い……フーッ!」

とかなんとか二人がやり始めたのを見計らって二人に互いにマッサージをさせることにしました。

「システマではお互いにマッサージをするんですよ……おふたりも、ほらどうぞ……」

恐る恐る二人がマッサージを互いに始めました。ぼくの持ち歩いているマッサージスティックを使って互いにぐりぐりやり始めます。

「ア……呼吸を止めないで」「無理に押し込むのではなく、こう、流す感じで……」

やらせていくと、二人が笑顔で笑い出しました。まあ、そりゃそうでしょう痛かったでしょうし、骨肉の争いをしている兄妹で今日マッサージをすることになるとは思ってはいなかったでしょうから。

しばらくして、親戚がぞろぞろと待合室に戻ってきました。親戚連中の驚愕はすさまじかったらしいです。中にはほんとに泣いちゃう叔母さんもいました。互いの母親が亡くなっても喧嘩し続けた兄と妹が変なロシアの呼吸しながら互いをマッサージしていたのです。お互いの肩をもみ、頭にスティックを突き立て、互いに踏みつけていたのです。

2人が数十年喧嘩してきたことを知る親戚連中からするとなんと……美しい光景だったことでしょう。ちなみにわたしは2人にマッサージをおしえることに夢中でそういった目で二人の兄妹を観てはいませんでしたが……親戚の連中から見るとそう見えたらしいです。

その時、階下では叔母の肉体が業火でこんがりと焼かれて煙突から排出され煙になってたなびいている最中です。あらゆることがそれぞれのリズムで互いの進行を邪魔せずに、粛々と進んでいきました。穏やかな午後でした。

緊張が呼吸と共に流れた

その日の夜は実家に妹の方が泊まりに来て、何度も何度もお礼を言ってくれました。

「わたし、ペリメニ君のおかげで、お兄さんにこだわるのを辞めようと思ったよ。ありがとうね」

おいおい、いまどき少年ジャンプでもそんなに簡単にもめ事解決しねえぞ……と思いましたが、システマのマッサージをお互いに受けたらそうなるのはだいぶ見てきましたから、私は特にもう不思議だともすごいとも思いませんでした。

「お互いにリラックスしたらそんなもんですよ……なんも自分してないですけどね」

実際何もしてません。お互いにマッサージさせただけですから。20年の骨肉の争いと言えど、リラックスの前には肩こり以下の問題なのです。システマに関わると何もかもが省エネで素晴らしいです。

そのお兄さんもお姉さんもまたシステマのマッサージを受けたいといってくださいました。

「ほんと、なんか変にお兄ちゃんのことに拘ってた・・・反省した」

緊張なんてそんなものです。人のもめごとや拘りなんて言うのも、肩こり程度の問題に過ぎません。原理的には全く一緒なのです。

喧嘩なんてしたくないのが普通です、肩凝るし、頭痛くなるし、内臓悪くするし。何十年も喧嘩し続けるなんてきつい事、やりたくないに決まってるじゃないですか。単に昔の緊張の感覚を体が覚えていて、それを繰り返して再生産しているにすぎません。もう「昔の緊張」そのものは消えてしまってどこにもないのですから。

だから今ある緊張をほどいて、リラックスしたら喧嘩なんてできやしません。しかもお互いにマッサージしながら怒ったり喧嘩するなんて、不可能です。リラックスしたら嫌でも喧嘩やめたくなりますから、やれるもんならやってみろや。

呼吸して緊張を吐き出してリラックスしたら、まあうまくいくものはうまくいくし、うまくいかんかったら、それはそれでいいって思えますもんね。最後は人生死ぬんだし、何十年も兄妹と喧嘩するより楽しくてリラックスしたことしたほうがいい。そんなかんじ。

またシステマが私の周りをリラックスさせて長年の問題ごと消滅してしまった。ありがたかったです。お二人がこれからも事あるごとに深呼吸してリラックスされることを願っています。また二人とマッサージ一緒にしたいなと思っています。

話は以上です。読んでくださりありがとうございました。



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