試されるカップル②

前回の流れで国際カップルの亀裂について、まあカルチャーの違いを考察するいい機会なので書いてみたい。

スリランカ絶賛戒厳令のため、私のサーフコーチでスリランカ チャンピオンでもあるラッキー(21)が家族経営するホテルから一歩も出ていない私にとって、
こんなゴシップがどこから提供されるかというと、もちろん内部でしかない。
そう、ラッキー本人とそのロシア人の彼女(年齢は言えないが、まあ私と数個しか違わない)のことである。

コロナのせいで、観光客相手に商売していた二人は、図らずとも無職になった。
ラッキーはもちろんホテル経営、そしてサーフコーチ、彼女は観光客のサーフィン写真を撮るカメラマンである。
みんな当然将来が不安な時期である。ピリピリしても、それはしょうがない。ラッキーに関してはまだ21歳である。自分が家族の稼ぎ頭として頑張ってきたのだから、この事態は本当に辛いだろうし、まあ男のプライドにも触る。
彼女はロシアに帰らずここにいることを選択した。今帰ったら次いつ会えるか分からないし、それは破局を意味するようなものだと判断したからである。
が、しかし。
彼女とラッキーはここのホテルで家族とともに暮らしている。家族構成は、ママ、パパ、妹(14)、そしてお兄ちゃん二人、その嫁一人、犬猫が複数頭といったところなのだが、当然ラッキーの彼女なので、一緒の部屋で寝るし、三食タダ飯である。
これに関して、コロナ前は特に問題でなかったのだが、やはり経済的に苦しい中、問題として表面化する。喧嘩が絶えなくなった。
二人が会話を交わすことはほとんどなく、ハタから見てもだいぶ気まずい。
ラッキーは割と寡黙な男子なので、間違っても私に恋愛の悩みなど打ち明けるやつでは無いから、ここからは全ては彼女からの情報のみである。
しかしそれを私の推察込みでまとめると、まず彼の言い分はこうだ。

「君は今特に仕事もしてなくて、うちの家族におんぶで抱っこの状況なのに、朝起きて僕にお茶を淹れることすらしない。
ほんと何かうちに役に立つことしてる?」

きついが、言いたいことはわかる。普段ならこうは思わないだろうが、やはり経済状況がきつくて将来の不安というストレスの中、嫌味の一つも言いたくなるのはわかる。
そして、私から見ていても、彼女は本当に何もしていない。

「だったらお金払うよ、って言ったらいいじゃん」と私は提案したが、彼女は却下した。「そんなこと言ったら、彼が余計怒るわよ」
ふーん、てことは、彼は別にお金のことを言ってるんではなくて、もっと家のことを手伝って欲しい、つまり、「感謝のきもち」が見えないって怒ってるんだよね?
私がそう言うと、彼女は驚いた顔をして言ってきた。
「感謝?宿泊とタダ飯が?それ、当たり前じゃ無いの?」
これを聞いて、こっちがぶったまげた。彼女は続ける。
「私は彼の彼女だから、この二つは当たり前のことだと思うの。私は愛情をもっと見せて欲しいの!こんなのを提供されて、これが愛情です、なんて到底思えないわよ」
いやいやいやいや、それはおかしいだろ。私は彼女のことを友人として大好きだが、これは違う。そしてツッコミどころが多すぎる。
「あのさあ、まず、こんな危機的状況の中で、寝る場所の提供と三食タダ飯って、すごいことだと思うよ。いくら付き合ってても、まだ結婚もしていないあなたにこれはすごい。そして、私たちの出身国に比べて、ここはまだ貧しい。そんな中であなたにこれを提供してくれてるのは、とても価値があることじゃない?」
すると彼女は「そうなの!?」と驚く。
「あなたがそれで驚いてるってことは、あなたの感謝の気持ち、充分示せてないんじゃ無い?一度でも彼に、本当にありがとう、あなたのおかげで生き延びてるとか言ってあげた?」と聞くと、「無い」と言うではないか。
「ねえ、それはおかしいよ。ちゃんとありがとうって、感謝と尊敬の気持ちを伝えなよ」と私は説得したが、「心に思ってないことは言えない」と言うではないか。
だめだこりゃ。心に思ってないって、根本的価値観が違いすぎる。親でも、30過ぎた無職の子供に三食タダ飯食わせて感謝されなかったら、イライラするだろうけどなあ。少なくとも、日本ではそうだと思う。
私は常日頃、「親しき仲にも礼儀あり」、付き合ってる相手が自分にしてくれてることは、当たり前でもなんでもなく、とても特別なことなんだと思うようにしている。私も自分の彼氏が同じようにしてくれたら、もう頭が上がらないけどなあ。
そして話を聞けば、自分の洗濯物ですら、お母さんがしてくれてるという。いや、これはおかしいよ、とまたもやハッキリ言う。
コロナ前の仕事があって忙しい時ならともかく、今は無職だし自分でやりなよ、と言うが、不満そうである。
「しかもさ、彼は今無職で、今後の不安がすごいわけじゃん?あなたは自分の国に帰ったり他の国に行くと言う選択肢があるけど、彼にはこれしかないよね。そりゃストレスの一つや二つも溜まって、恋愛とか言ってられないよね。そんな中、彼女が愛情が足りない、って、ごめんハッキリ言うけど、あんた重たいわ。全く彼を支えていない」
「彼を支える?じゃあ、私のニーズはどうなるの?」
え、まだ言ってる?こんな大変な時に、「もっと愛情を見せて欲しい」とかいうとんでもニーズにお応え出来る若い男は早々いないんじゃないか?

しかしこれはとても欧米的で、文化の違いだなとも興味深く受け取っている。
我々アジア人女性は、やはり2000年代の今日も、「女は多少の我慢をしても、男性の辛い時を支える」という習慣が染み付いているし、別にそれは悪いことでもなんでもない。私は、アジア人でも欧米人でもお付き合いしてきたけれど、「相手を立てることで最終的にこちらがこっそり手綱を握る」というやり方は、どこでも通用すると思っている。しかしやはりヨーロッパの女性は「自分の権利」に敏感である。こんな時まで主張が激しい。
なんとなく、今回のコロナ騒動で、「主張の強い女性」を良しとする、偏ったフェミニズムは一掃されて、アジア的価値観が尊重されるのではないか、などと思索してしまった。男女の仲に限らず、「仏教的思想」が広まる、という人もちらほら見かける。どちらにせよ、「自分が我慢しても、相手を支える」というような「アジア的思想」が必要になってくる機会かもしれない。 
(続く)


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