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【強い経理】耐用年数表をそのまま使って大丈夫?~固定資産の減価償却~

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

新しく顧問契約を結んだお客様の過去の固定資産台帳を拝見すると、「固定資産を取得したときに、"自社ではどう費用化するか" をもう少し考えて頂いた方が良かったのではないか?」と思うことがよくあります。外資系企業や上場子会社では親会社のルールを採用せざるを得ないことがほとんどなので、変更をすることはできません。ただ、検討・変更の余地がある法人であれば、いちどは考えた方が良いことだと思っています。

今日は「"強い経理" をつくるため、固定資産をどのように費用化すべきかについて考えよう」ということについて書きます。

↓↓↓ 本マガジンにおける「強い経理」の定義


固定資産の費用化について考える。

有形固定資産や無形固定資産は、時の経過やその利用に伴い、その価値が減っていきます。会計処理上は「減価償却」という形で、各事業年度に費用配分され、その価値の減少が表現されます。

この「減価償却」の方法ですが、企業によっては「会計事務所に処理は任せてしまっている」「社内で処理しているが、経理部内の決まった人が処理しているので全貌はよくわからない」というような状況のことも多いようです。

経営者の方にお話を伺うと、「減価償却方法は全く知らない」「そもそも税務上のルールが決まっているので、これは経営者の意向が及ばないものだ」と言われることがあります。

固定資産が少なく、決算書上の影響額が少ないのであれば特に大きな問題ではありません。ただ、固定資産の金額の影響が無視できないほどに大きいのであれば、減価償却の内容は知っておく必要があり、かつ、検討すべきものだと思います。

「耐用年数表のまま固定資産登録する」は正解なのか?

固定資産台帳を拝見したときに、「あれ?」と思う例で最も多いのが、「明らかに事業の実態と乖離している(と思われる)期間で減価償却している」ことです。

例えば、賃借している本社建物の内装工事投資額を50年で償却していたりする会社さんがあります。確かに、賃借している本社建物が鉄筋コンクリート造であれば、その建物に施工した内装工事の耐用年数は、耐用年数表上は原則50年です。もちろんこれは正しいのですが、あくまで「原則」です。内装工事の施工内容を見積書から確認したり、賃貸契約の内容を確認したりすることにより、実態に沿ったより短い耐用年数に変更するよう、税法の範囲内で充分に検討することができます

経営者とお打合せするとすぐに気づいて頂けることが多いのですが、内装工事を施工したのち、その工事したばかりの状態が50年継続するかというと、そのようなことは考えにくいでしょう。経年劣化に応じて修繕を重ねたり、あるいは大規模改修が必要になったりもします。修繕や回収の都度、投資が追加でかさんでいくのにも関わらず、当初投資の減価償却費が50年継続してしまいます。移転しない限り、当初投資額の帳簿価額は50年経過するまでゼロになりません。

「耐用年数表を見て、適切に耐用年数を登録できる」ことは大事なのですが、「その固定資産の本来の(自社の計画通り利用した場合の)耐用年数は、本当は何年なのか?」を考えることは、何倍も重要です。

2022年に亡くなった稲盛和夫さんは、京セラや第二電電(現KDDI)などを創業し、日本航空(JAL)を再建した方ですが、耐用年数について下記のように書かれています。

「法定耐用年数」を使うという慣行に流され、償却とはいったい何であり、それは経営的な判断としてどうあるべきなのか、という本質的な問題が忘れられてしまっているのである。
だから、京セラにおいては法定耐用年数によらず、設備の物理的、経済的寿命から判断して「自主耐用年数」を定めて償却を行うようにした。具体的には製造設備の耐用年数は四年から六年とおおむね税法で定められた年数の半分としているが、変化がとくに激しい通信機器関係の設備では、税法上十年となる耐用年数を大幅に短縮している。このように会計的にはいわゆる「有税償却」を実施し、税務上は税法で定められた耐用年数による償却計算を別途行っている。

稲盛和夫. 稲盛和夫の実学 (日本経済新聞出版) (p.23). 日本経済新聞出版社. Kindle 版.

この方法は、前半で述べた「税法上の範囲内で耐用年数を短くする」ではなく、「税法で許される範囲を超えて、耐用年数を検討する」方法です。ここまでダイナミックに会計処理をしようとする経営判断はなかなか難しいかもしれません。

ただ、法定耐用年数(=耐用年数表上の年数)と本来の耐用年数(=実態に沿った耐用年数)が乖離しているのであれば、本来の耐用年数で会計処理することも検討すべきだと思います。

実態(=会計)に近い税務処理を検討する。

実態(=会計)と税務が大きく乖離しているのであれば、その処理が不一致になるのは仕方がありません。強い経理のためには、実態に沿った会計処理が第一です。

ただし、このような場合も、できる限り税務処理は会計処理に近づける検討をした方が良いと思います。納税額は企業のキャッシュフローに直結するため、会計と税務が不一致の場合、利益に見合わないような大きなキャッシュアウトが発生する可能性もあるからです。もちろん、早期に納税額を試算して準備できるような体制にすれば良いのですが、「避けられる手数は避ける」のも大切です。

例えば、耐用年数表上の年数は、あくまで税務上の「原則」であり、場合によっては税法の範囲内で短くしたりすることができます。また、税法上で変更できる償却方法(例:「定率法」→「定額法」)であれば、会計処理に近づけるような変更をした方が良いでしょう。

小さな手続きの積み重ねにより、経理上の手数を減らすことができます。

見積数値だからこそ、ルール決めは徹底的に。

固定資産の減価償却は、お金の動きが絡まない見積もりの数値です。償却方法を考えていないと、実際の動きを反映しない減価償却費が決算書に載ってしまうことになります。経営者の経営判断のためには、実態に沿った決算書が第一ですので、その方針に反します。

だからこそ、各企業における減価償却のルール決めに際しては、徹底的に考え抜く必要があるでしょう。

是非、自社の固定資産の減価償却の方法について、見直してみてはいかがでしょうか。


最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。

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