【経理】"財務会計" は、経営者の意思を明確に示す。
こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。
中小企業では優先順位が低くなりがちな "財務会計" ですが、最近特に「中小企業も、もっと "財務会計" にこだわったら良いのでは」と考えることが多くなりました。
今日は、「会計処理や決算書は、経営者の考え方を示す」ということについて書きます。
"財務会計" とは。
財務会計とは、端的に言えば「会社の決算書を作るための会計」です。
金融機関や投資家など、誰がその決算書を見てもその企業の財政状態・経営成績を把握できるようにするため、この財務会計には一定のルールがあります。
会社の規模の違い、上場・非上場の違い、法人形態の違いなどに応じてルールの種類は異なりますが、会計処理と決算書開示についてはルールがあり、各企業はそのルールに沿って決算書を作成します。
この決算書を作成するにあたり、企業の経理部でまず会計記帳をし、その記帳の結果として試算表が作成されます。そのまま決算書が作成できることもありますが、場合に応じ、決算書用に追加で会計処理をしたり、開示科目を変更したりするなどの作業を実施します。
本来は、決算書は変わらない。
経営者は、必ずしも会計処理や開示ルールに詳しいわけというわけではありません。そのため、開示すべき決算書作成にあたっては、社内の経理部や外部専門家が経営者にルールを説明し、そのルールに沿った開示をします。
ルールの中にはいくつかのオプションがあることもありますので、それぞれの方法を説明し、その中から方法を選択することになります。
そのため、本来であれば、企業の方針によってその決算書の内容に大きく違いが出ることはないはずです。
「税法ありき」で、財務会計は歪む。
ところが、例えば企業がIPOを目指して財務会計を整えようとするとき、その決算書の内容が大きく変わることがあります。
例えば、従業員の退職金制度があり退職金の支払義務が生じているにも関わらず、「退職給付引当金」を計上していない場合です。
企業の決算書上は、退職金を支払わなくても、退職金の支払義務が発生した事業年度の「費用」を計上し、その企業の「負債」として退職給付引当金を計上すべきこととなっています。ところが、計上していない場合は企業の利益(=収益-費用)は本来よりも多く、企業の純資産(=資産-負債)も本来よりも多く認識されてしまっています。
企業の決算書が変わってしまうのです。
「引当金」の多くは、税金計算上は費用となりません。つまり「引当金を決算書に反映しなくても、税金計算は変わらない」ため、決算書にも引当金を反映しないことがあります。
中小企業では「会計処理はあくまで税金計算の一環」と考えられてしまうことが多いかもしれません。税金計算に影響しない限り、会計処理や決算書についてこだわることは、それほど多くないのではないでしょうか。
財務会計が歪むと、何が起きるか?
それでは、財務会計が歪むと何が起きるのでしょうか。
退職給付引当金の例で言うと、退職給付引当金を計上していない場合、退職金を支払った事業年度に急に費用が発生し、大きく利益が減ることになります。
それだけでなく、そもそも退職金をいくら払うことになるのか把握していないことも多いため、退職金を支払う段になって、急に企業のキャッシュフローが苦しくなるということが起こります。
また、過去に株主に配当金の支払をしている場合などは、特に注意が必要です。会社法上、株主へ配当金の支払いをする場合は、決算書上の純資産の金額をベースとして「配当可能利益」を算出し、その範囲内で配当をします。したがって、そもそも誤った決算書を作成し続けている場合は、配当可能利益を超えて配当をしてしまっている場合があり、その場合は会社法違反となってしまいます。
経営者の意思を反映した "会計" を。
引当金を計上していない決算書を作成しているとき、経営者の方にお話を伺うと「そもそもそのような会計処理があると知らなかった」「むしろその会計処理をしてもらった方がわかりやすかった」と言われることがあります。
顧問税理士の側の問題でもあると思いますが、経営者がルールを理解した上で決算書を作ることになれば、その決算書は「確かにその経営者の意思が反映された決算書」になります。
是非、経営者の意思が反映された会計処理・決算書を目指してみてはいかがでしょうか。
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ここまでお読み頂きまして、ありがとうございましたw。