【強い経理】「発生主義への移行」&「月次決算早期化」に取り組む。
こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。
月次決算の適正化の観点からは「現金主義から発生主義への移行」ということが大きな課題になります。ただ、事前検討なしに発生主義に移行すると、どうしても「月次決算が締まる時期が遅くなってしまう」という結果になることが多いです。
今日は「発生主義に移行した上で、月次決算の早期化を進める考え方」について書きます。
注)本マガジン「強い経理のつくりかた」では、中小企業の経理にとって重要だと思うことについて書いています。同じ内容であっても、角度を変えて何度でも書きますので、よろしければお付き合い頂けますと幸いです。
↓↓↓ 本マガジンにおける「強い経理」の定義
【前提】発生主義でないと、何が困るのか?
会計帳簿の付け方として、「現金主義」、「発生主義」という2つのルールがあります。
会計の原則は「発生主義」なので、決算書を「現金主義」で作成することはありません。ところが、年度末には「発生主義」で決算書を作成していても、期中の月次決算は「現金主義」で記帳している企業は少なくありません。
例1)9月分の売上を、8月に前受した場合
現金主義の場合:8月の収入として記帳される
発生主義の場合:9月の収入として記帳される
例2)8月分の業務委託費を、9月に支払った場合
現金主義の場合:9月の費用として記帳される
発生主義の場合:8月の費用として記帳される
発生主義であれば収益と費用が正しく月次試算表に反映される一方、現金主義の場合は収益と費用の反映時期が実際と違ってしまいます。そのため、現金主義の記帳をしている場合、経営判断のために試算表を見ても、現時点の経営成績を確認するという意味では、あまり役に立ちません。
また、決算月に「現金主義による収入・費用」と「発生主義による収入・費用」がダブルで計上されてしまうため、月次推移を見ても、その推移の表現が適切でなくなってしまいます。
発生主義で月次決算を組まない理由。
現金主義の方がデメリットが大きいように見えますが、それでも発生主義で月次決算を実施しない企業がある理由は「社内ルールを変更せずに経理部の努力だけで発生主義の月次決算を組もうとすると、月次決算の確定時期が遅くなってしまうことが多い」からです。
収入側は自社で必ず把握しているはずなので、一般的には、収入を発生主義にすることは難しくありません。(収益認識基準が特殊な企業においては、難しくなることもあります。)
一方、費用側を発生主義にする場合、費用の金額の確定時期が遅くなってしまうことが多いです。なぜなら、企業内で購買・発注管理できていないケースが多いからです。
費用の発生を把握することを考えても、その企業が発注した時点でその金額が決まるので、本来は難しくはないはずです。ところが、多くの中小企業においては「その費用の発生時期と金額を経理部が知るのは『請求書を受け取った時点』」ということになってしまっています。
購買・発注管理のルールが定まっていて、社内で不足なく情報共有されている場合は、「請求書を受け取っていなくても、経理部がその費用の発生時期と金額を知る」状況にあります。ところが、現金主義で記帳している企業においては、そのような状況にはありません。
そのため、購買・発注管理のルールが決まっていなかったり、購買・発注情報が経理部に共有されていない場合、会計記帳を発生主義に切り替えようとすると、「請求書を受領するまで会計記帳が終わらない=月次決算の締めが遅くなる」という結果になってしまいます。
発生主義への切替のための考え方。
それでも、経営者から「月次試算表がおかしいから、『発生主義』に変更して欲しい」と言われた場合や、経理部として「会計記帳を『発生主義』に変更したい」と要望する場合は、どうしたら良いでしょうか。
①経理部だけでは変更が不可能なことを、経営者に理解してもらう。
割とよく見る例ですが、「会計記帳の変更=経理部だけで完結できること」と考える中小企業の経営者は多いです。
ところが、そのようなことは絶対にありえません。
例えば、翌月第5営業日までに月次決算を締めようとする場合、遅くとも第3営業日までに請求情報がすべて揃っていないと、月次決算は決して締まりません。
このような場合、2パターンの対処方法があります。
A) 「第3営業日までに経理部に到着するように」請求書を送ってもらうルールにする。
B) 請求書が届かずとも、社内の発注情報から請求されるべき金額を常に把握できるようにする。
上記の2パターンの対応をすることなく、経理部で費用の会計記帳を発生主義に変更することはできません。
②過去3か月の支払取引を整理する。
次に、実際の状況を把握するために、過去3か月の支払取引を集計・整理してみます。
「支払は振込のみ」という企業もあるかもしれませんが、通常は、振込以外にも、口座振替や法人カード決済など、支払方法が複数にわたる場合もあると思います。
請求書を送って頂く時期を早くすることができる取引先もあれば、システム上の問題で難しい取引先もあるかもしれません。また、家賃など契約書のみで請求が確定し、請求書を毎月受領することがない場合もあります。
支払取引を整理すると「請求書を早く送ってもらえれば取引金額を発生主義で記帳できる」ケースもあれば、「請求書で金額を把握しようとすると到底間に合わないので、その前に金額を把握して記帳すべき」ケースもあることがわかります。
また、そもそも「費用の発生金額が確定するのが遅すぎる」という場合も、実際に存在します。理由は様々ですが、これは経理の記帳の問題ではなく、そもそもの取引・契約上の問題です。この問題を解決することなく費用を発生主義に変更することはできませんので、上記①の通り、経営者の理解が必須となります。
③締日を確認し、締後取引のルールを考える。
収入にも費用にも「締日」があります。締日が「末日」のことが多いと思いますが、締日が「20日」等、月末でないこともあります。
「発生主義の月次決算」を考える時、「どこまで厳密な月次決算を求めるか?」ということがあります。
考え方としては、次のポイントがあると思います。
A) 収入と費用の対応
B) 特殊取引の有無
C) 締後取引を会計記帳するための手数
例)収入が末日締めで、費用が15日締めである場合
この場合、9月の月次決算を組むときに、収入は9/1~30を集計し、費用は8/16~9/15を集計して「9月決算」としてしまうと、収入と費用の対応がとれません。(→A)
ただ、特別な特殊取引(=原価率が異なるような、大きな取引)がない限り、単月の原価率の変更がないような内容であるならば、概算で9/16~9/30の費用の金額を計算し、概算で会計記帳をすれば良いと思います。(→B)
また、締後取引を納品情報などで簡単に集計することができるのであれば、見積計算をすることなく、実際の金額を集計し、会計記帳することができます。(→C)
締後取引がある場合は、自社の状況に応じ、対応方法を決定する必要があります。
月次決算の改善には、経営者の理解を得る。
月次決算の適正化(例:現金主義から発生主義への移行)や、月次決算の早期化にあたっては、経理部だけで対処できる問題ではありません。まず、経営者の理解を得てから、他部署と連携し、対応していく必要があると思います。
もし、お困りの経理部がありましたら、経営者にご理解頂くことから始めてみてはいかがでしょうか。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
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