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【経理】企業は、見えない問題にはお金を使わない。~不正防止の話~

こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。

税理士業務や経理業務とは直接関係ありませんが、業務上、企業の不正調査を担当することがあります。

その中で、「帳簿・書類・証憑の電子化は、不正防止に有益かもしれない」と感じることがありましたので、今日はそのことについて書きます。


電子化すると、すべての証憑に簡単にアクセスできる。

ペーペーレス化や電子帳簿保存法の影響もあり、会計帳簿・経理書類・経理証憑を電子化する企業も多いと思います。電子化していると、経理書類・経理証憑は仕訳にひもついているため、「この取引の証憑を見たい」と思った場合、帳簿から検索して簡単にアクセスすることができます。

不正調査をするとき、従前は次のような流れでした。
①仕訳取引のcsvデータをもらう。
②資料を見たい取引を抽出して顧客に依頼する。
③受領した資料を確認する。

一方、現在は次のような形式での調査も可能です。
①帳簿のアクセス権を付与してもらい、直接仕訳と資料にアクセスする。

そのため、同じ時間内でより多くの情報を得ることができ、調査を円滑に進めることができるようになってきています

ただし、記帳システムや書類保存システムは不正調査を目的として作られたシステムではないので、書類・証憑に記載されていても、帳簿にはテキスト入力されていない項目も多いです。この場合は、手作業でテキスト入力し、抽出・調査していくことになります。


不正防止に取り組みにくい理由。

経理における電子化が不正調査に有益なのであれば、不正が行われていないことの一定の証明になるかもしれません。これを生かして、まずは、不正自体を防ぐ仕組みづくりができるのではないでしょうか。

ただし、悩ましい問題ですが、人は、大きなトラブル(天災等も含む)が自分には降りかからない前提で生活しています。「災害に備えて」「不正防止のため」と言ったところで、運が良ければ生きている間に遭遇しないで済むかもしれないことに、わざわざお金を使いません。

しかし、不正は今、こうしている間にも行われているかもしれません。それは「起きていないこと」ではなく、単に「今、見えていないこと」なのかもしれません

だからこそ、不正防止のための仕組みは、すべての会計システムの標準装備であって欲しいと思います。わざわざお金を使いたくないものであるものの、非常に重要なものだからです。

よく「不正防止機能は装備しているが、その設定をしなくてもシステムは機能する」ということがあります。ユーザーにとってはその方が便利なことは理解しますが、その場合、機能を付している意味がありません。

内部統制・社内コンプライアンスのようなことは、企業規模を大きくしようと思った時に考えれば良い、と考える企業も多いのですが、その「企業規模を大きくしようと思った時」の定義は不明確です。結果的に考えるタイミングを失い、気づいたときには不正がしやすい環境になってしまっていることが多いです。


あったら良いと思う不正防止機能。

不正防止のための機能として、いろいろなものが考えられます。今はまだ夢の機能も多いですが、こんな機能が標準実装されたら良いなというものを書いてみます。

①経費精算時の自己承認を検知する。

例1)管理職A氏が自身の経費精算をする際、そのまま自分で承認してしまっているケースです。管理職A氏の経費精算は部長や役員などの上席者が承認しなければ、エラーになるような機能は標準装備であるべきでしょう。(このようなシステムは既に多くありますが、すべての経費精算システムがそうであって欲しいです。)

例2)管理職A氏が自身の経費精算をする際、自分の部下B氏にそのB氏の経費精算として申請させ、承認はA氏が実施するケースです。申請者はB氏、振込先はA氏になりますので、そのような場合もエラーになるような機能があるべきだと思います。(ただ、振込先もB氏にし、A氏はB氏から現金で回収する、という流れの場合は気づかないのですが、、、)

②接待交際の相手先の実在チェックをする。

例3)接待交際費の支出が多い企業の場合には、接待交際の相手(法人名、氏名)を登録し、その相手方の法人の実在チェックが自動で判定できるようなシステムが良いと思います。
なお、接待交際の相手先は、現在は仕訳の摘要にテキストで記載されているだけのことが多いのですが、通常の取引と同様に取引先設定をし、金額や件数が多い接待先を抽出・集計できるようにするのが望ましいでしょう。

③業務委託費の成果物の添付確認をする。

例4)業務委託費の支払いであるにも関わらず、その成果物が添付されていないときは、エラーが出るようなシステムが望ましいと思います。業務委託費の支払いに関し、その成果物は各部門で管理・保存されていることが多いです。実在性のない業務委託費の支払いを防ぐ防ぐ意味で、重要だと思います。


不正をしにくい・検知しやすい環境づくりを。

どのような対策も万能ではありませんが、ひとつの可能性として、帳簿・書類・証憑の電子化が役に立つかもしれないと考えています。(もちろん、電子化していなくても、紙の書類で不正防止について対策を考えることは企業経営の中で重要です。)

簡単に社内で取り組めることがありましたら、検討してみてはいかがでしょうか。


ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。