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【無料で全部読めます】戦略コンサルタントからみた「ランダムケース」のポイント

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これまで戦略コンサルティングファームを中心とした入社試験で定番である「フェルミ推定(ナンバーケース)」と「ビジネスケース」を紹介してきました。
◆フェルミ推定 ➔リンク
◆ビジネスケース ➔リンク 

上記は、論点がクリアな問について解を求められるものであり、開成・筑駒ご出身のいわゆる受験勝者の得意科目とも言えます(同時に2022年12月に登場したChat GPTでもある程度代替が可能な問ともいえそう)
上記のようなケーススタディで足腰に問題がない候補者を待っている関門が、「ランダムケース」と呼ばれるものです。この記事ではこの「ランダムケース」の概要についてご紹介したいと思います。

「ランダムケース」とは、フェルミ推定やビジネスケースとは異なり、「論点が曖昧な問について解を求められるもの」です。例えばこれまで下記のようなお題が各戦略ファームから出題されています。
 ◆学生時代の友人の経営するサーフショップの今後の経営方針は?
 ◆1億円で事業を起こすならば何を行うか?
 ◆世の中で最も疑うべき情報とは何か?
 ◆ロングセラーとは何か?
 ◆大手家電メーカーのCEOと明日に会話予定。明日までに何を準備するか

これらは論点自体が曖昧であるため、とっつきにくい印象を持つ方も多いかと思います。実際、1次や2次選考を突破した後に、パートナーによる採用面接試験で用いられる傾向があります。

戦略コンサルタントはランダムケースで、候補者をどのように評価するのでしょうか。大きく2つのポイントがあります。
 ①経営視点で論点定義ができるか?(≒文脈設定が適切にできるか?)
 ②実際に解けるか?(ビジネスケースの確認ポイントと同様➔リンク

お気づきかもしれませんが、特に①のポイントは問題を解くというよりは、問題自体を解いて意味のあるように設計することができるか(論点設定)を問われています。

では実際のケースのお題を例にして①~②がどのように評価されていくかみていきましょう。以降、”ジュニアクラスの3~4次面接であれば通しても良いかな”と思える候補者の回答イメージです。

****
◆ケースお題
学生時代の先輩がサーフショップを経営しています。今後の経営方針を相談されました。どのようにアドバイスすれば良いと思いますか?

◆面接官とのランダムケースの議論
候:アドバイスするにあたって前提を把握したいのですが、サーフショップの前提についてお教えいただけますか?
面:江の島で個人経営している単独店舗だとしましょう。それ以外の前提については適宜おいて頂いて構いません。

(①経営視点で論点定義ができるか?(≒文脈設定が適切にできるか?))
候:承知しました
・先輩は、30歳男性でテニスサークルの先輩で独身
・コンサルに新卒入社後も、自由を求めて3年目に脱サラ
・サーフショップは用具販売・レンタルに加え指導教室も提供
・従業員は自分に加えバイトが2人だけ
・年間売上は1500万円であり、先輩の手取りは500万円
と仮定します。
面:なるほど。で、アドバイスしますか?
候:この先輩のサーフショップ経営は仕事であるだけでなく、ご自身の生活基盤や趣味そのものだと思います。従って、この先輩がまずどのようなライフスタイルを目指すかを整理することが大事だと思います。
面:はい。
候:「ご自身の生活基盤の安定」がテーマなのではないでしょうか。というのも30歳男性で独身であり、手取りもコンサル時代に比べて寧ろ低そうです。加えてサーフショップは季節性が大きく年間を通じて稼げる時と稼げない時の差が大きそうです。今後、結婚や家庭を作ることを考えていて、そう考えると今の現状を打破したいという気持ちが強くなってきていてご相談にこられたのではないでしょうか
面:なるほど。そうかもしれないですね。それでどうしますか?
候:であれば、次のように「将来のありたい姿」の案が整理できそうです。
・年収:倍の1,000万円の獲得を目指す
・事業:
 ーサーフショップは継続(脱サラまでして始めた大事な趣味)
 ー業績の季節性変動を極小化する(月の最低収入を50万以上にする)
・働き方:週に固定曜日で必ず2日の非稼働日を作る
面:で、どうアドバイスしますか?
候:この「将来のありたい姿」に到達するための「現状との差分」を課題として定義し、各課題を解くための方策案をアドバイスしたいと思います。少し考える時間をいただけますか
面:どうぞ (5分ほどの思考時間)
候:生活基盤がテーマなので、まず、月別の財務状況を現状として整理しました。こちらをご覧ください。
夏である7~10月の4か月間で売上1000万円、残り8か月で500万円を稼いでいると仮定します。夏の手取りは月110万円ですが、それ以外では月6万円というのが現状になります。

現状の季節別の財務状況(サーフショップ)

これを踏まえるとこの先輩の課題(論点)は2点に集約されると考えます。
 A: 夏以外の手取りを月50万円に引上げるべく売上を如何に確保するか
   (達成すると年収は840万円までいき、年収1,000万円も見えそう)
 B: 夏の週2日休暇捻出に向け店舗運営の如何に継続代行者を探すか

面:なるほど。悪くないと思います。それで、どうしますか?
(②実際に解けるか?)
候:解く順序としてはA➔Bだと思います。Bで継続代行者はコスト増に繋がります。ゆえにAでどれだけカバーできるかによってBのためにどこまでコスト投下できるか(給与条件など)が変わってきてしまいますのでAから考えた方が良いと思います。
Aについては「サーフショップ事業で売上を伸ばす方策」と「新規事業で売上を伸ばす方策」と大きく2つあります。前者はネットによる用具販売などがあり得ますが、先輩は元コンサルであることもあり前者は既に手を付けている状況で感度が悪いと仮説します。よって後者の新規事業で売上を伸ばす方策を考えたいです。
面:はい
候:アプローチとしては先輩の現状のアセットを棚卸し、各アセットから展開可能な新規事業を洗い出した上で優先順位付けしたいと思います。
アセットとしては・・・
・ハード:
 あ:店舗、サーフ用具(在庫)
・ソフト
 い:スキル:サーフィン、接客、問題解決力、デジタルマーケティング、
 う:人員資源:自分自身、バイト2人(若い学生?)
 え:外部関係:お得意様(サーフ仲間)、江の島周辺観光事業との関係

ゆえに新規事業案としては以下のようなものが考えられるでしょうか。
あ  ➔ P:カフェ事業 / 宿泊事業 (場所貸し)
う  ➔ Q:UBER EATsによるアルバイト
い  ➔ R:コンサルフリーランス案件の獲得
いえ ➔ S:周辺観光事業へのコンサル/デジマ事業 
     T:サーフ仲間へのイベント(旅行ツアーなど)企画事業

評価軸としては「容易性(必要投資)」「効果の高さ」「効果発現スピードの速さ」「先輩の考え方との整合性」の4つが考えられ、先輩が脱サラしてまで今の生活を望んだことを考えると「先輩の考え方との整合性」を大事にしたアドバイスになるのではないかと思います。
まずは、クイックウィン(追加投資が少なく、効果発現までのスピードが速い施策)としてオフシーズン中心にUBER EATs、イベント企画を行いながら手どり収入を上げていきます。しかしながらこれだとまだスポットでの収益であり手どり収益を安定させることは難しいと思います。従って並行してビッグウィン(スピードは遅いが将来大きく効果が期待できそうな領域)の下準備を進めることが大事だと思います。江の島の観光施設や宿泊施設など周辺観光事業者とコネクションを作っておくこと、彼らの悩みを聞いておきお手伝いできることがないかアンテナを立ておくこと、場合によっては案件として受注し収入源とすることをしていくと良いのではないかと思います。

新規事業案とその位置づけ案

面:ありがとうございます。このくらいで終わりにしましょう。
****

この候補者は普通の回答をしており、回答自体に独創性を感じないのではないでしょうか。しかしながら総評としては良く奮闘している、と言えます。よく奮闘しているポイントは次の通りです。

①経営視点で論点定義ができるか?(≒文脈設定が適切にできるか?)
殆ど面接官からの誘導なしに、顧客である先輩のニーズやその根源にある「将来のありたい姿」を規定するための前提情報をおくこと、つまり文脈設定がきちんとできています。大半の候補者がとりあえず”サーフショップの利益を最大化する”という目標設定を文脈無視で暗黙的におき、機械的かつ線形的にケースを解き始めますが、実際のコンサルティングはそうではありません(特にケースリーダー以上)。クライアントの文脈を想像し、何をしたいのか思考しきった上で提案をすることが求められるのです。この候補者は先輩の根源的なニーズが何なのかを深く考察して論理展開することができたと言えます。

②実際に解けるか?
文脈設定をするだけでなく、検討アプローチも、きちんと文脈を踏まえたものとして設計されていました。顧客である先輩は年収も高くなく、若くして脱サラしているため貯金もさほどリッチでないことが想定されます。故に市場ニーズからビジネス機会をゼロベースで見出すよりも、今あるアセットに着目してできることから順に成長ステップを描くことが合理的といえそうです。こうしたアプローチを何故とるのか明文化していなかった点は残念であるものの、流れとしては違和感なくロジックがしっかりとした印象になりました。

以上です。
いかがでしたでしょうか。ランダムケースは、提案のために必要な前提情報(文脈設定)を自らおけるかどうか(≒おかないと良い提案にならないことに自分自身でケースの中で気づけるかどうか)で差が分かれると言えます。相手の立場にたって考え抜ける姿勢があるか、まさにコンサルティングの本質が試されている試験であるといえるでしょう。

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