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【無料で全部読めます】戦略コンサルタントからみた「ビジネスケース」のポイント

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戦略コンサルティングファームを中心とした入社試験ではもはや定番であるビジネスケースについて語ります。
ビジネスケースとは、「売上額をXX倍にするには?」や「利益額をXX倍にするには?」といったアウトカムが与えられそれを達成する方法について提案が求められるものです。
前回説明したフェルミ推定(戦略コンサルタントからみた「フェルミ推定のポイント」|周平@外資系戦コン|note)では、足切り基準が決まることが多いと言及しましたが、今回のビジネスケースでは”次の面接に呼べるかどうか”の見極めに使われることが多いです。

戦略コンサルタントはビジネスケースで、候補者をどのように評価するのでしょうか。大きく3つのポイントがあります。
 ①アウトカムを構成要素に分解して整理できるか?
 ②本質(アウトカムを規定する要因)を付くことができるか?
 ③②に紐づいて具体的な施策を論理的に導出できるか?
お気づきかもしれませんが、これらのポイントはフェルミ推定と極めて類似しています。フェルミ推定とビジネスケースが連続する所以でもあります。

では実際のケースのお題を例にして①~③がどのように評価されていくかみていきましょう。以降、”ジュニアクラスの1次面接であれば通しても良いかな”と思える候補者の回答イメージです。

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◆ケースお題
原宿にある個人経営の美容院の利益を概算し、利益を1.5倍にするための方策を提案してください。尚、座席数は10席、美容師は5人、平均客単価は8,000円としてください。
まずは利益の概算をお願いします。

◆フェルミ推定の初期回答 (準備時間は5分程度を想定)
美容院の利益は売上、コストから構成され、それぞれを概算していきます。

売上については需要サイド(原宿商圏需要から何%とれるか)と供給サイド(座席が何%うまっているか)から求めることができるが、イメージがしやすく推定精度が高い供給サイドから算出を試みることとする

売上=A:座席数(席)×B:平均稼働率(%)×C:回転数(回/時間)×D:営業時間(時間/日) ×E: 平均客単価(円/席回)×F: 年間営業日数 (日/年)
 A=10席  前提事項
 B=50%        原宿の美容院をイメージし仮置き
 C=0.75回  半分がカットで1回、半分が+カラー等で0.5回と仮定
 D=10時間 仮置き
 E=8,000円 前提事項
 F=300日  週6日営業と仮定(50週×6日)
∴売上=9,000万円/年

コストについては固定費、変動費に分けた上で主要費目を羅列し概算する。

コスト=固定費+変動費
固定費= G:人件費 + H: 土地・建物 + I: 什器等減価償却 + J: 水道光熱費
 G =1,800万円 美容師5人が月間30万円のコストが発生と仮定
 H = 2,400万円 100平米程と想定し、月あたり200万円の賃料と仮定
 I   = 400万円   初期費用2000万円と仮定し5年償却と仮定
   J   = 60万円  月5万円と仮定
∴固定費 = 4,660万円/年

変動費=  K: 広告宣伝費 + L: 原料費(シャンプー等)
   K  = 1,800万円 売上の2割と仮定
   L   = 450万円  売上の5%と仮定
∴変動費 = 2,250万円/年

以上より、コスト = 6,910万円/年となり、利益 = 2,090万円/年
(①アウトカムを構成要素に分解して整理できるか?)

◆面接官とのビジネスケースの議論
面:ありがとうございます。前回の面接でフェルミ推定に関する考え方はみさせていただいているので、本日は後段の議論にうつりましょう。
「利益を1.5倍、約1,000万円上乗せすること」を考えたいと思います。何がこの美容院にとって課題になるでしょうか?
(②本質(アウトカムを規定する要因)を付くことができるか?)
候:目標水準は現実的である印象で、ゆえにまず既存の美容院ビジネスの枠組みの中でどこまでストレッチできるかを考えたいと思います。前提として原宿の美容院市場は飽和していると考えており、加えて競合との競争も激しい状況だと思います。こうした状況において、特に課題となるパラメーターは次のようなものだと考えます
E: 平均客単価
客数を増やすのはROIが低い市場フェーズと考えられるため、今来客してくれている顧客に価値を提供し価格を上乗せできないかを考えることが重要と考えます。実際、カットが平均6,000円と思われる原宿において、平均客単価8,000円は低すぎると思います。カラーやパーマなどへの誘導が弱いのではないでしょうか。美容師の営業力や提案力が弱い可能性があります。
K: 広告宣伝費
客数が増やすのがROIが低い市場フェーズと述べましたがその裏返しになります。売上比2割に対して適切な客数が取れているかという視点で堀どころにならないでしょうか。意味のあるマーケチャネルにきちんと投資できているか、各チャネルの効果が可視化され実際に集客に繋がっているかを確認することを通じてアップサイドが生じるとみます。

面:固定費は落とせないでしょうか?変動費にしか着目されていませんが、市場成熟フェーズにおいてコスト低減は重要だと思います
候:土地・建物や人件費が主となりますが、これらは触らない方が無難であると考えます。土地・建物は立地やブランドイメージ、人件費に相当する美容師もブランドイメージを毀損する可能性が高いです。確かに市場成熟フェーズですが、こうした要素を手入れすることにより競合への顧客流出が懸念されるのではないかと考えます。
面:なるほど。わかりました。それでは、この美容院の課題が「E: 平均客単価」「K: 広告宣伝費」であると仮定し具体的な方策を提案してもらえますか(②に紐づいて具体的な施策を論理的に導出できるか?)
候:「E:平均客単価」を梃入れするためにも美容師の接客モデルを作ることを提案したいと思います。美容師によってカラー・パーマーといった高単価を勝ちとれる者と、そうでない者にバラつきがあるのではないのでしょうか。高単価な美容師の接客パターンを研究し横展開することを通じて底上げができる可能性があります。また、美容師の評価・処遇を客単価と連動させることを通じて客単価向上に向かわせるという方策も考えられます。
面:「E:平均客単価」が低い理由が接客ではなく、他起因である可能性もありますよね。カラーやパーマの評判が悪いとか、カラーやパーマの価格が高いとか。
候:勿論その可能性はありますが、あまり美容院によって差がでない領域であるとも思いました。ここは十分できている前提で接客が盲点であると仮説しています。腕の良い美容院ほどこのような「カットなんぼ」のカルチャーが続いてしまっているように考えました。
面:なるほど
候:広告宣伝費については、新規顧客獲得向けのプロモーションの低減を提案したいと思います。
個人経営店舗ですし殆どがリピート顧客でそのロイヤリティ維持が本来的な課題であると感じます。一方で広告宣伝費の中見の大半が新規顧客向けの広告宣伝をうっていて利益を毀損している可能性がないかなと思いました。
実際、ホットペッパービューティなどでは新規向けに大幅なディスカウントもするのを目にしますし、最適な水準の投資になっているかどうかを科学する必要があるかもしれません。その意味では競合店舗のベンチマークをして全体水準として妥当か、そのうえできちんと顧客にとって意味のある結果(集客や既存顧客維持)に繋がっているかをアセスメントする必要があると思います。
面:なるほど。それぞれ、どの程度のインパクトになるとみますか
候:少しお時間をください・・・
E: 平均客単価単独では約1700万円の利益増があるとみます。
現状8,000円ですが実際は+2000円くらいいけると思います。カット単独客を6,000円、カラー・パーマ客を12,000円とすると10,000円水準くらいは目指せるのではないでしょうか。売上では約2250万円増に相当するので変動費を除くと約1,700万円増になります。
K: 広告宣伝費単独では約900万円の利益増があるとみます。
無駄打ちが半分くらいあるのではないか、と想定しました。実際は他とのベンチマークなどをしたいところです
面:ありがとうございます
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この候補者は無難な回答をしている。①~③のポイントに基づき簡単に評価をしてみよう。
①アウトカムを構成要素に分解して整理できるか? ➔ Good
因数分解に問題はない。特に評価できるのはコスト構造をある程度網羅的に整理できている点である。美容院の装置(洗髪台やレジ等)に関わるコストなどがイメージできずにカバーできないケースが多いが、この候補者は難なく言及できている

②本質(アウトカムを規定する要因)を付くことができるか? ➔ Good
大半の候補者がフェルミ推定の各構成要素ごとの数字を見て大きいところを見始めたり、個別に伸ばせるかを考え始めたりしてよくわからないロジックに陥るケースが多い。一方でこの候補者はある程度、市場競争環境について大枠を捉えた上で、この環境ならばここが堀どころになると思うとスタンスを取れている点で優れている

③②に紐づいて具体的な施策を論理的に導出できるか? ➔ そこそこ
なぜ「平均客単価が低いのか」「広告宣伝費が高いのか」の要因仮説の構造化が弱く、思い付きベースで飛びついてしまっているところがある。しかしながら指摘している点や提案している内容は、ビジネスの実態を踏まえるとストーリーとしてあり得そうであり納得感がある。

いかがでしたでしょうか。
勿論、ビジネスケースは初回である1次面接で用いられるものであり、この後、この候補者は2次面接以降のより難易度の高いケーススタディに答えていく必要がある。
とは言え、このレベルの回答は戦略コンサルタントを志望する上では必須といっても過言ではない。このケースを参考に対策をしていっていただけると幸いである

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