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これからの大企業とスタートアップとの連携に必要な視点とは? キーマンである東京大学・各務茂夫氏が語る

大企業とスタートアップが手を組み、イノベーションを生む。そんなオープンイノベーションの議論をよく聞くようになった。しかし同時に、連携が形式だけに終わってしまったり、うまく成果を出すことができなかったりといった課題を耳にする機会も増えた。

日本の大企業がスタートアップと真の意味で協業し、成果を生むために必要な条件はどのようなものかーー。今回は、大企業とスタートアップ双方に長く関わってきた東京大学・各務茂夫教授にそんな問いを投げかけた。東大発スタートアップの現場から日本とアメリカの経営史までを横断しながら、オープンイノベーションの本質を探る1万字インタビューをお届けする。

各務茂夫さん/ 東京大学 大学院工学系研究科 教授、産学協創推進本部 副本部長                   
ボストン・コンサルティング・グループを経て、戦略コンサルティング会社のコーポレイトディレクション(CDI)設立に参加。スイスIMD経営学修士(MBA)。米国ケース・ウェスタン・リザーブ大学経営大学院にて経営学博士取得。その後、エグゼクティブサーチ会社のハイドリック&ストラグルズにパートナーとして入社。コーポレート・ガバナンス改革に取り組む。2002年東京大学大学院薬学系研究科教員となり、2004年国立大学法人化と同時に東京大学産学連携本部 教授に就任。2020年4月から現職。本年1月、日本ベンチャー学会会長に就任。

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20年後の時価総額ランキングはどうなっているか

──今日は日本における大企業とスタートアップの関係性について、その歴史を振り返りながら、今後のあるべきビジョンを伺いたいと思っています。各務先生、よろしくお願いいたします。

よろしくお願いします。大企業とスタートアップの関係というテーマをいただきまして、どこから話そうかと思っていたのですが、まずは時価総額のランキングを頭に浮かべるところから始めてみようと思います。

現在の日本の時価総額ランキングを眺めると、古いもので戦中戦後に創業したトヨタやソニー、新しいものでも1981年に創業したソフトバンクなど、1990年代以前に設立された伝統ある会社ばかりです。これは20年後にどうなっているでしょうか。私の考えは、いまある大企業が数社を除けばそこに名を連ねることはないだろうということです。逆に、いまは名前も知られていないようなスタートアップの名前がずらりと並ぶような未来を予想していますし、そうあるべきだと思っています。

しかし、こうした認識はまだまだ一般的ではありません。特に行政の世界では、ムーンショット型研究開発と言われるような国を挙げてイノベーションを起こそうという場合にも、まず大企業が取りまとめます。大企業がイノベーションを主導し、スタートアップはその下にぶらさがっていくような構図を想定しているわけです。

私に言わせれば、根本的に間違った認識です。クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」を引くまでもなく、イノベーションの中心にずっと同じ大企業がいるということは、歴史を辿ってもほとんどないからです。

日本的経営のはじまりとおわり

──いつ頃から日本の経済は大企業中心になっていったのでしょうか。

ずっとそうだったわけではありません。現在のソニーの前身にあたる東京通信工業株式会社が設立されたのは1946年ですし、トヨタが豊田自動織機製作所から独立したのは1937年です。当たり前ですが、いまある大企業も初めは小さなスタートアップでした。

これらの企業は、おおむね戦中戦後に立ち上がり、1980年代半ばまでにいわゆる日本型の経営システムをつくりあげていきます。この成長を象徴しているのが、1979年に書かれたエズラ・ヴォーゲル教授の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』ですね。日本人の高い学習意欲に基づく品質管理の高さや優秀な官僚の経済に対する関与が、日本の成長の要因としてあげられています。

こうした成功がバブル経済にまで膨れ上がっていったのが1989年です。このとき、世界のトップ企業10社のうち7社を日本企業が占めていました。金融業で言えば、いまのみずほ銀行の前身にあたる日本興業銀行と第一勧業銀行、富士銀行を合わせると当時20兆円規模の時価総額があって、まさに世界のトップに君臨していました。

しかし、現状を見てください。みずほ銀行の時価総額は3~4兆円ほどしかありません。野中郁次郎先生らが執筆した『失敗の本質』「学習棄却(アンラーニング)」という概念があります。かつて学んだ知識を捨てて新たに学び直すという意味ですね。日本の大企業はこの学習棄却ができず、新たに自己革新できず、またエッジの効いた新規参入のスタートアップと成果を上げる形で連携することもできないまま、平成の30年間をずるずると沈んでいったのです。

コーポレート・ガバナンスとアメリカ的経営

──日本の大企業において、学習棄却が進まなかった理由はどうしてでしょうか。

株主が企業を監視、統制して競争力を高めるよう促す「コーポレート・ガバナンス」の導入が遅れたことにあります。

少し自分の話をさせてください。私は90年代にアメリカの大学でコーポレート・ガバナンスを研究していました。博士号を取得したあとは、ハイドリック&ストラグルズという会社に入り、実務でもガバナンス改革に関わっていました。ハイドリック&ストラグルズはCEOをはじめ経営幹部レベルをヘッドハンティングする会社で、1993年に外部からルー・ガースナー氏をIBMのCEOとしたことでも有名です。当時のアメリカ企業には、外部人材を招聘することで、過去とのしがらみを断ち切って業績回復をするところが増えていました。まさにコーポレート・ガバナンス改革です。

──アメリカではどうしてコーポレート・ガバナンスが推進されたのでしょうか?

突拍子もない話に聞こえるかもしれませんが、80年代に本格化した年金改革が原因です。本を一冊紹介しましょう。1976年にマネジメントの父として知られるピーター・ドラッカーが書いた『見えざる革命』です。この本には世界の株式市場は年金基金によって牛耳られるようになるだろうという話が書いてあり、これを「年金基金社会主義(Pension Fund Socialism)」と呼んでいます。80年代になると、ドラッカーの書いた通りのことがアメリカで起こるのです。

象徴的な事例として、カルパース(CalPERS)というアメリカ・カリフォルニア州の公的年金基金があります。カルパースはカリフォルニア州の公務員による年金基金で、40兆円以上の資産を持っています。この基金は1984年にカリフォルニア州の州民投票を行い、株式をはじめとするリスク資産にも投資する決議をしました。この決定には、アメリカを含む先進国において高齢化が進み、必要とされる年金額がどんどん膨らんでいくという予測が背景にあります。高齢化社会を支えるために、年金の運用益を伸ばさなければならないという現代的な話ですね。

これをひとつのきっかけとして、株式市場に年金のお金がたくさん流れ込んでくるようになりました。年金基金は公的な存在ですから、投資先が公正に運営されているか、利益をあげることができているか厳しくチェックします。まさにコーポレート・ガバナンスですね。これより前のアメリカ企業の1970年代の取締役会は、日本と同じように社内取締役が中心で構成されていましたが、急速に社外の人間が務めるようになっていきました。年金基金はアメリカの上場企業に大きな変革を起こしたのです。

年金基金の投資流入がきっかけとなり、企業の取締役に第三者的な社外メンバーが増えた。その結果、コーポレート・ガバナンスが進んだのですね。

年金基金の積極的な投資方針は、大企業以外にも影響を与えました。年金という莫大な資産の一部が、スタートアップを資金的に支えるベンチャーキャピタル・ファンドの大きな源泉になったからです。アメリカでは年金や大学に集まる寄付の蓄積としての大学基金(Endowment)がベンチャーキャピタルの原資になっているのですが、これがアメリカのイノベーションを支える懐の深いところですね。

日本企業のコーポレート・ガバナンス改革

──日本企業のコーポレート・ガバナンスは現在どうなっているのですか。

アメリカから数十年遅れて起こった安倍政権下での年金改革により、この5~6年間にコーポレート・ガバナンス改革を大きく進展しました。日本の公的年金基金であるGPIFは、カルパースの4倍の160兆円もあります。

それまでGPIFは国債を6割ほど買ってきたのですが、この低金利の時代には30年ものの国債であっても利回りが1%もありません。そこで、リスクを受け入れつつしっかりマネージして利益を増やしていこうということで、投資ポートフォリオ全体の中で50%強が株式に変わりました。このうち半分が国内株式です。つまり、年金基金の25%が国内の株式市場に入ってくるようになったわけです。

年金基金がもとになったお金が日本の株式市場に入ってきて、上場企業にプレッシャーがかかるようになった。これが日本におけるコーポレート・ガバナンス改革のこの5~6年間の大きな変化です。

それまで株主というと、ややもするとハゲタカ的なイメージというか、テレビを見過ぎかもしれませんが、我が国の資本主義システムの悪の根源というイメージがありました。日本では経営者ですらそういう認識をもっていたかもしれません。年金基金が株主になったことで、株主の意思は公共性・社会性を帯びたものだと捉えられるようになりました。公正に企業を経営して利益をあげなければ、株価が上がらない、株主に配当金を増やせないということになれば、年金が目減りしてしまうかもしれませんし、結果として高齢社会を支えられなくなります。

──こうした改革によって、大企業とスタートアップの関係はどのように変化したのでしょうか。

まず、日本企業の収益向上に対する危機意識が急速に強まったことは間違いありません。そして、その方策のひとつとして、スタートアップと本気で連携する必要があると考える経営者が増えてきました。

たとえばトヨタの場合、2016年にTOYOTA Research Instituteを米国に設立しました。この組織は、アメリカの国防総省系組織・DARPAにいた最先端のAI、あるいは機械学習の研究者であるギル・プラット氏を三顧の礼で迎え、シリコンバレーとハーバード大学とMITがあるボストン、ケンブリッジに2つの拠点を設けています。これと並行してベンチャーキャピタル・ファンドを立ち上げ、自動運転をはじめとしたスマートシティに関わるスタートアップを買収するための仕組みをつくったのです。一方、日本国内では現場からの叩き上げである製造担当執行役員・河合満氏の指揮のもとで工場を改善するオペレーションを回しつつ、来たるべき自動運転の世界で生き残るために、スタートアップとの協業を真剣に模索し始めました。これも「両利きの経営」といって良いのかもしれません。

製造業系では、富士フイルムが面白いと思います。富士フイルムはその名の通り、もともと写真フィルムの会社でした。しかし、いまは薬や化粧品をはじめとするバイオテック、ヘルスケアの会社に生まれ変わりました。そのために数多くのM&Aをして、iPS細胞を用いた再生医療系の海外スタートアップから、富山化学というインフルエンザ薬関連の会社、新薬や臨床ができる和光純薬まで、ありとあらゆる会社を買いました。現在では、写真フィルムは売上高の1%程度で、化粧品が収益事業に育ちつつあります。

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大企業が本格的にスタートアップと協業する方法

──スタートアップとの連携をうまく進められている大企業と、そうでない企業の違いはどこにあるのでしょうか。

まず、文化的なレセプター(受容器)があるかどうかです。比喩的にいえば、ネクタイとスーツの人たちがTシャツとジーンズとポニーテールの人たちを受け入れることができるか、ということですね。M&Aの場合であっても、スタートアップが働きやすい文化がなければうまくいきません。

海外ではGoogleがうまいと思います。AndroidやGoogle Earth、YouTubeと、基幹事業はどれも買収した会社が母体になっています。囲碁の世界チャンピオンに買ったAlpha GOのDeepMind社や、東大発のSCHAFTをはじめ日本のスタートアップもいろいろ買っています。

次に、スタートアップと付き合うためのノウハウを蓄積していくことです。M&Aの例を続ければ、仮にいい会社を見つけて買いたいと思ったとしても、事前に覚書を交わし、秘密情報保持契約を結び、買値(売値)を交渉する。そのためにしかるべき弁護士や、投資銀行と付き合うための仕組みを社内につくる。買ったあとも、社内にうまく取り込んでいくために、不要な事業は売ることも必要かもしれません。こういったノウハウやナレッジがあって初めてスタートアップと付き合うことができるようになるわけです。逆にやる気がない会社は、オープンイノベーションが重要だとは言いながらも、社外のVCに社員を派遣して、そのファンドに自社のお金を少し入れて勉強しようという程度に留まってしまいます。これでは意味がありません。

──会社の文化やノウハウの蓄積には、経営トップのコミットメントも必要かと思いますが、その点についてはいかがですか。

もちろんです。これは人から聞いた話なので確かめたわけではないのですが、日本の自動車メーカーのトップはみなUberの出現が危機的だと言うけれども、実際にUberに乗ったことがあるのはトヨタの豊田章男社長しかいなかったという笑えない話があります。同じような話ですが、フィンテック系のサービスが脅威だと語る日本の銀行の社長や頭取に、フィンテック・ベンチャー企業のアプリ使ってますか? と聞いてみてください。どれくらい触ったことがあるか怪しいです。ただ、ここ2、3年でようやく変わってきたかなとも思います。

以前経団連の人たちに東大のスタートアップについて話をしたとき「各務さんは素晴らしいことをやっていらっしゃいますね、私どももどうやって応援しようかな」なんて言われました。スタートアップを見下していたというか、CSRの一環で少し支援しようかくらいの気持ちだったのでしょう。しかし、最近になってようやく潮目が変わってきたと感じます。スタートアップと対等に付き合っていかなければ、自分たちは生き残れないと考える経営者が増えてきました。

スタートアップと大企業の共同研究が抱える課題

──少し視点を変えて、各務先生ご自身のキャリアについてお伺いしたいと思います。大企業のコーポレート・ガバナンス改革から大学発スタートアップの支援に移ったのは、どういう経緯だったのでしょうか。

事前に計画していたというより、なりゆきのようなものですね。2002年に東京大学の教員になってから、大学発のスタートアップを支援するようになりました。

ちょうど私が着任した直後に国立大学法人化となり、大学研究者の特許のような研究成果が研究者個人ではなく大学に帰属するようになりました。特許法の規定が大学にも適用された、つまり企業研究者と同じ仕組みへの変換ですね。大学が法人格を持ち特許の所有者になれるようになったことで、大学の資産である特許権等を活用して大学発スタートアップを育成・支援することが、国立大学法人法で定められたわけです。私自身も2004年に産学連携本部の所属になり、本格的に大学発のイノベーションを模索し始めました。

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──ただ、制度改革だけで大学組織が変わっていくとは考えづらいですよね。実際にイノベーティブな企業を生むために、どういう施策を行なったのでしょうか。

もちろん制度が変わったからといって、すぐに大学発スタートアップがたくさん出てくることはありません。

そもそも、2004年当時は産学連携というと大企業との共同研究が中心で、スタートアップ支援の文脈はあまり強くありませんでした。産学連携の進展の尺度としても、共同研究の件数が大学に課されたKPIになっていました。こうして件数を追いかけていきましたが、その結果として共同研究先で新しいイノベーションが生み出されるわけではありませんでした。言葉を選ばずに言えば、大企業との共同研究はほとんどイノベーションにつながらないのです。

なぜなら、共同研究と言ってもたいていの予算は数百万円程度で、アメリカの共同研究とは一桁も二桁も違っているうえ、共同研究の多くが企業と特許を共有する仕組みになっているからです。共願特許と呼ばれる制度です。

共願特許の問題は、日本の特許法では、企業と共同研究をした大学側がその特許を使って大学発スタートアップを起こそうとしても、共同研究先である企業の許可なしではこの特許を使えないということです。権利を持っている大企業は、自分たちで事業化したいと考えますからね。

──そうであれば、大企業がしっかり事業化していけばいい、ということにはならないのでしょうか?

非常に難しいと思います。実際、国立大学でも大企業との共願特許になっているものがたくさんありますが、大きな売上を伴う事業化した案件は指折り数える程度ですから。こうなってしまうのは、大企業のなかに共同研究の成果を事業化していく仕組みがないからです。仮に企業研究者が特許を事業化しようとビジネスプランをつくってみても、大企業の規模感からするとあまりに小さく取り合ってもらえません。もちろん、これまでの共同研究のやり方のすべてが悪いわけではありません。新しい科学技術の発明を生んだり、研究者のモチベーションが保たれたりといった良い部分もあります。しかし、具体的な製品やサービスが立ち上がるという意味でのイノベーションは生まれにくいのです。

実効的なオープンイノベーションのために必要なこと

──そういう状況のなかで新しいイノベーションを生むのは難しそうですね。どういう戦略がありえるのでしょう。

結論から言えば、①基本的には大学は有力な単願特許を増やし、この特許を大学発スタートアップにライセンスする。②スタートアップ側は特許を使って事業成長を目指す。③大企業側はこのスタートアップ企業と連携する。オープンイノベーションを実効的なものにするためには、この方法が有効だと思いますね。

そのためには、相手となる大企業側のトップがしっかりコミットすることが不可欠です。さらに、大学側もそれを受け止められるように変わる必要があります。そこで東大では、4年ほど前に産学連携本部が産学協創推進本部と名前も変え、大企業と大学それぞれの組織がトップも交えて協力し、イノベーション創出を目指す("協創")組織間連携を追求するようになりました。

──先生が着任した当初と比べて大きな変化ですね。いつから潮目が変わったのでしょうか。

さきほどお話した、日本企業のコーポレート・ガバナンス改革が進んだ5~6年前からですかね。東大が産学協創推進本部と名前を改めたのも、五神総長が着任したその頃からです。

大学が変わったのは、アントレプレナー道場出身者のスタートアップがどんどん増え、また研究者である東大教員の研究成果を事業基盤とするペプチドリームのような会社が成長して東証一部上場で時価総額数千億円にまでになるなど、多くの東大発スタートアップのロールモデルが生まれてきたことが大きいと思います。東大はペプチドリームに特許をライセンスするときに、ロイヤルティーの一部をストックオプションとしたので、同社が上場したことによって何十億ものリターンがありました。2015年に政府が日本ベンチャー大賞をつくり、そこで東大発のユーグレナやペプチドリームが立て続けに内閣総理大臣賞を受賞したことも大きいですね。経済的・社会的に成功した事例が出てきたことで、大学組織も意識が変わったのだと思います。

大企業と大学発スタートアップのエコシステムをつくる

──学生にも変化がありましたか?

大きく変わりました。アントレプレナー道場の今年度の登録者は、約700人です。アントレプレナー道場には、ゲストとしてユーグレナ社長の出雲充さんやGunosy創業者の福島良典さんといった東大発スタートアップの面々が登壇します。もう少し上の世代でいうと、mixi創業者の笠原健治会長や、同じくmixiで社長を務めた朝倉祐介さんも来ます。朝倉さんはアントレプレナー道場第1期生です。こういう人たちはNewsPicksなどの媒体でオピニオンリーダーとしての役割も担っていますから、学生も憧れて自分も起業したいと思うようになるわけですね。

各務 第11期 東京大学アントレプレナー道場

(アントレプレナー道場の様子)

──大学発スタートアップが育つ下地が整ってきたわけですね。

そうですね。大学内のインキュベーション施設が充実してきたことも重要です。たとえば東大のキャンパスにある「東京大学アントレプレナープラザ」というインキュベーション施設にはユーグレナやペプチドリームに加えて、PKSHA Technology、プリファードネットワークス、モルフォといった企業が入居し、巣立っていきました。

2018年の秋からは、東大病院に隣接して「東京大学アントレプレナーラボ」というインキュベーション施設の運営も行っています。さらには企業からの寄付金で運営されているFoundXという取り組みでも、本郷に新たな施設を開設しました。ここにも、これから起業したいと考える東大の卒業生が集まっています。本郷テックガレージというメイカースペースの場所もあって、ここからは電動義足をつくった東京大学エッジキャピタルの投資先であるBionicMという会社が出ました。

インキュベーション施設から多くの有力な東大発スタートアップが生まれ、東京大学と密接な関係にあるベンチャーキャピタルから投資を受け、一定の成功を収めた後、こうしたスタートアップの起業家がシンボリックなロールモデルになって、アントレプレナー道場のような教育の場で講師やメンターとして大学に戻ってくる。東大では、そういったエコシステムができつつあると言えると思います。

アジアのエコシステムへ

──最後に、改めて日本企業の未来について伺いたいと思います。大企業がオープンイノベーションを進めていくうえで、これから求められるエコシステムはどのようなものでしょうか。

これからの日本企業に必要なのは、国内を超えてアジアのスタートアップとつながるエコシステムでしょう。いわゆるユニコーン企業(未上場の時価総額10億ドルを超えるベンチャー企業)は日本だけで見ると本当にわずかですが、中国やインドといったアジア全体に目を広げればその何十倍もの数のユニコーン企業があります。大企業の視点に立つと、アジアを見逃すことはできません。

なぜアジアかというと、日本やアメリカのような過去のしがらみがない、換言すれば社会変革を阻むものが少ないからです。アジアでは、レガシーに囚われず多種多様なスタートアップが生まれています。たとえば、インドのスタートアップは当たり前のようにオンライン診療のサービスを提供しています。日本ではコロナ禍以降にようやく岩盤規制が和らぎ、いままでこの分野を開拓してきたメドレー社等のスタートアップがオンライン診療を開始した段階です。一方で医者の数に比べて人口がとても多く、医師法も薬事法もあまり整備されていないインドでは、当たり前のように事業が立ち上がっています。

あるいは、最近ソフトバンクが買った中国のGuaziという企業。ここはカメラで中古車をグルっと一回撮影するだけでAIが価格査定してくれるサービスを手がけています。日本で中古車ディーラーが時間をかけてやっていることをあっという間に解決してしまうのです。これもレガシーがないからこそできた事業でしょう。

私自身は、運営委員長を務めるアジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)を通じて、アジアのスタートアップとつながるきっかけづくりをしています。AEAは日本を含めたアジアのスタートアップが集まるイベントで、日本の大企業やVCも参画しています。

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(AEA2019で優勝したシンガポールのAcumen Research Labs)

去年までは千葉県・柏の葉に集まって行われていましたが、コロナ禍の影響で今年はオンライン開催になり、ある意味、距離を越えてこれまで以上に参加しやすくなったという見方ができるかもしれません。参加するスタートアップは、ニューノーマルの世界を乗り越えるために必要な技術を持った会社ばかりです。日本企業がそれらの会社と結びつき、世界を変えるサービスをつくりあげ、大きなイノベーションに結実することを期待しています。

──本日はありがとうございました。

AEA2020開催概要

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AEAはアジアを中心とした国と地域からディープテックスタートアップが集い、ビジネスを競いながら国境を越えた起業家ネットワークを構築する、国際的なイノベーション・アワードです。

今年は初の全編オンライン開催となり、ニューノーマルの世界で重要と目される4つのテーマ(ヘルスケア・コミュニケーション・働き方・Quality of Life)に関するソリューションを持ったスタートアップが集結。例年の迫力あるプレゼンに加え、オンラインだからこそ実現できるセッション、コンテンツ構築に取り組みます。

アジア各国の勢いあるスタートアップを知り、出場するスタートアップとの協業・連携を希望される方のご参加をお待ちしております。

開催日時:2020年10月27日(火)〜29日(木)
開催形式:全編オンライン開催     
参加費:無料
申込:https://aea2020online.peatix.com/
主催:アジア・アントレプレナーシップ・アワード運営委員会
共催:国立大学法人東京大学産学協創推進本部 / 三井不動産株式会社 / 一般社団法人TXアントレプレナーパートナーズ / 日本ベンチャー学会 / 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
Story Design houseでは「意志あるところに道をつくる」をミッションとして、さまざまな企業のPR活動を支援しています。是非、ウェブサイトもご覧ください。
お問い合わせはこちらから。 https://www.sd-h.jp/contact
※ Story Design houseは、アジア・アントレプレナーシップ・アワード運営委員会のPR活動を支援しています。