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短編小説 「恋の夢」


ユメヒサは、高校二年生の普通の男の子だ。特別に目立つわけでもなく、ただ毎日を過ごしているだけの彼だが、ある日、変化が訪れた。

その日、ユメヒサは不思議な夢を見た。夢の中で、彼は学校の校庭で可愛い女の子と手をつないで歩いていた。顔立ちが柔らかで、笑顔が眩しいその子は、彼の隣で無邪気に笑っていた。二人は、桜の花びらが舞い散る中を歩きながら、お互いのことを話し合い、笑い合った。ユメヒサの心は温かさで満たされ、この瞬間が永遠に続けばいいと願った。

目が覚めると、まだ夢の余韻が残っていた。心の中に広がる温かい感情に戸惑いながらも、ユメヒサはその夢が現実になることを心から願っていた。だが、彼は現実がそう簡単に夢と同じになるわけがないと自分に言い聞かせ、いつも通りの学校生活を送ろうと決意した。

学校に到着すると、驚くことに夢の中で手をつないでいた女の子とそっくりな同級生のサクラが、彼の方に歩み寄ってきた。サクラは照れくさそうに「おはよう」と挨拶し、ユメヒサの胸はドキリと跳ねた。その瞬間、彼は夢で見たシーンが現実となり始めていることを感じ、驚きと喜びで胸がいっぱいになった。

数日が過ぎるうちに、ユメヒサは夢で見たことが次々と現実になっていくのを目の当たりにした。二人は少しずつ仲良くなり、放課後には一緒に帰るようになった。二人で歩く道には、春の陽射しが暖かく照り、まるで夢の中と同じように桜の花びらが舞っていた。

ある日、ユメヒサはまた夢を見た。だが、今回の夢は前とは違っていた。夢の中で、サクラは彼に背を向け、どこか遠くへ行こうとしていた。彼は必死にサクラを引き止めようとするが、手が届かない。ユメヒサは夢の中で声を張り上げ、サクラを呼び止めたが、その声は虚空に消えていった。

目が覚めたユメヒサは、汗びっしょりで布団から飛び起きた。「まさか、夢の通りになるなんて……」彼の心に不安が広がり、サクラとの日々が壊れてしまうのではないかという恐怖が襲いかかってきた。

しかし、次の日から現実がまさにその夢の通りに進んでいった。サクラとの距離が次第に広がり、会話も減り、笑い声も途絶えていった。ユメヒサは何とかして状況を変えようとしたが、夢の中で見た結末が現実となることを防ぐことはできなかった。

そして、ついにその日が訪れた。サクラはユメヒサに別れを告げ、静かに彼のもとを去っていった。まるで夢の通りだった。ユメヒサは茫然自失となり、立ち尽くしたままサクラの後ろ姿を見送ることしかできなかった。

だが、ユメヒサはその悲しみに浸り続けることはしなかった。彼は決意したのだ。夢が現実になるのならば、次は新しい恋を夢見ようと。そう思った彼は、もう一度恋をするために、心の扉を開け放った。

新たな恋を夢見るユメヒサの物語は、ここで終わりではなく、新たな始まりを告げるのだ。




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