短編小説 「わらび餅のきな粉」
わらび王国の片隅で、僕はキナコという名前で知られている。きな粉として生きることを夢見て、明るく振る舞う毎日だ。けれども、わらび餅の生産ラインに乗せられた時、僕の運命は大きく揺れ動いた。
わらび餅の生産ラインから逃げ出す計画を立てたのは、ある日のことだった。仲間たちは次々とわらび餅にかけられていく。それがきな粉の運命だと言われても、僕にはどうしても受け入れられなかった。自分自身の意志で生きたいと願っていたからだ。
夜明け前の薄明かりの中、僕は密かに生産ラインを抜け出し、わらび農園へと逃げ込んだ。農園のわらび草の間に身を潜め、静かに息を潜めていた。心臓が激しく鼓動し、捕まることへの恐怖が押し寄せてきたが、それでも自由を手に入れるためには、この一歩が必要だった。
しかし、運命は残酷だった。僕はすぐに見つかり、捕まってしまった。抵抗する間もなく、再び生産ラインに戻され、ついにわらび餅にかけられることになった。熱い蒸気と共にわらび餅にかけられる瞬間、僕の心は絶望と諦めに包まれた。
「これで終わりか……」僕は心の中で呟いた。きな粉としての自分が消え去る瞬間を感じながら、運命を受け入れざるを得なかった。
だが、その時、奇跡が起こった。突然、わらび餅の生産ラインが停止し、周囲がざわめき始めた。何かが起こったのだろうか。そのざわめきの中、突然生産ラインの天井が激しく揺れ始めた。工場の天井がこじ開けられ、巨大な影が差し込んできた。その姿を見た瞬間、僕の心は凍りついた。
「シンゲン王国の兵が現れたぞ!」誰かが叫んだ。その声に応じるように、甲冑を身につけた巨大なシンゲンが現れ、鋭い目で周囲を見渡していた。彼は圧倒的な存在感を持ち、その姿はまるで伝説の巨人そのものだった。
「逃げろ!」わらび餅工場の作業員たちが次々と逃げ出す中、僕はその場に立ち尽くしていた。逃げる術もわからず、ただシンゲンの動きを見守るしかなかった。
突然、シンゲンの巨大な手が僕を鷲掴みにした。その力は凄まじく、僕は抵抗する間もなく彼の掌の中に収められた。視界が揺れ、次第に意識が遠のいていく。
「こんなところで終わるのか……」絶望の中、僕は心の中で呟いた。シンゲンは僕をそのまま、シンゲン王国に連れていかれた。そこで待ち受けていたのは、わらび餅とはまた異なる恐ろしい運命だった。信玄餅の上に僕をまぶしつけるように、シンゲンの手が動いた。
「うわあああ!」叫び声が喉から漏れたが、誰にも届かない。僕は信玄餅にかけられ、きな粉としての最後の役目を果たすことになった。身体中に広がる甘い香りとともに、僕の存在は再び消え去る運命にあった。
その瞬間、ふと頭の中に一筋の光が差し込んだ。自分自身の意志で生きることを求め続けた日々が、走馬灯のように蘇った。逃げ出したわらび餅工場、大豆農園での静かな日々、そして再び捕まった絶望の瞬間。
僕はシンゲンの口の中に運ばれた。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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