短編小説 「武装上等」
エルフ界弍本国防衛会議
二〇〇人のエルフが会議場のど真ん中に一人ぽつりと座る、青い肌のエルフ、ヤマモトに視線を集めた。そのまわりには円を描くように座る、首相と財務省を除く各省庁の大臣たち。
そんなか、ヤマモトは手のひらに「馬」と書いて生唾と共に飲み込んだ。
極強力破壊兵器、保有・使用について
極強力破壊兵器賛成派ヤマモトの発言。
「えー結論から言います。我が国、弍本国はマツタケを保有するべきです」
ヤマモトの第一声の後にエルフ達がお互いに顔を見合わせ、ヤマモトに罵声を浴びせた。遠くからは悲鳴も聞こえる。そんなか、一人のエルフがヤマモトの頭に紙コップを投げつけた。そしてそれは伝染してほかのエルフ達も紙コップをヤマモトに向かって投げつけた。
罵声は収まらないが、ヤマモトは咳払いをして発言を続けた。
「極強力破壊兵器、通称マツタケを保有し、敵国、いや名指しします志奈国が我が国を攻撃してきた時、報復もしくは攻撃抑制のために使用可能にするべきです」
強まる罵声。
「知っているでしょう、人間界のはるか昔の日本国の惨状を。我々、この会場にいる者全員がそれを知っています。国民も知っています。反対派は日本国のような惨状をこのエルフ界弍本国にもたらす気ですか」
エルフ達の息を吐く音が会議場にこだまする。
ヤマモトの背後からまっすぐ上に赤い腕がスッと伸びた。ヤマモトが振り返ると反対派の赤い肌のリンホウセイが手を挙げていた。
極強力破壊兵器反対派リンホウセイの発言。
「発言します。私も結論を先に、武装上等です。ですが、それは相手がマツタケを持っていなければですけどね」
「どうするんですか、我が国が武装したら相手は攻撃してくると思い先制攻撃を仕掛けてくるかもしれないですよ」
会議場からごくわずか賛成する声が聞こえる。
「我々は攻撃されることを望みません。穏やかにすごしたいです。あなたも日本国の広島、長崎がどうなったかご存知でしょ。我が国をその二の舞にするおつもりですか」
賛成の声が聞こえる。ほんのごくわずか。
「我々は穏やかな世界を望みます。戦争を引き起こすなんてもってのほかです。以上です」
会議場に小さな拍手が起こった。
極強力破壊兵器賛成派ヤマモトの発言。
「議長、証言者に発言を願います」
議長の発言。
「許可する」
弍本原爆被害者団体代表ナカタの発言。
ニット帽姿のナカタがマイクを手に取った。
「私たち、団体の結論を申し上げます。保有、使用を求めます。人間界の日本人と同じ、私たちも被爆者です」
「幸い、人間と違い、エルフの私たちは被爆の被害は少ないですが、亡くなったエルフは五〇万人。被爆者二〇万人がエルフの象徴ともいえるトンガリ耳は失いました。子供も孫もその耳を持っていません」
ナカタはニット帽を脱ぎ捨て、毛のない頭と丸い耳を見せた。
「私たちの故郷、ヒイロシマ、ナアガサキあの惨状をもう二度と見たくありません。故郷を失いたくありません。国全体を広島、長崎、ヒイロシマ、ナアガサキのようにしてはいけません」
会議場の誰もが静かにナカタの話に耳を傾けた。
「私たちの目的は極強力破壊兵器マツタケの廃絶です。平和を望みます」
「ですが、恐怖なくして平和はありえません。恐怖の上に平和が成り立っています。諸外国には性悪説で考えなければいけません」
「マツタケを保有すれば、敵国は攻撃、侵略を躊躇します。マツタケシェアリングでも構いません。私たちに必要なのは恐怖です」
「恐怖をこの手に収め掲げるだけで、平和が手に入り維持できます。武装上等。皮肉なもんですね。以上です」
会議場に涙と拍手が巻き起こった。ほぼ全員が拍手を送り、指笛を鳴らし「賛成」と声をあげた。
極強力破壊兵器賛成派ヤマモトの発言。
「わかりましたかみなさん、恐怖こそが平和です。名指し名指しでいきます。左の連中の口車に乗ってはいけない。武装しましょう。恐怖をこの手に収め、志奈を震え上がらせてやりましょう」
極強力破壊兵器反対派リンホウセイの発言。
「『左』とはなんとも野蛮な言い方だ。それに侵略を考えているかのような発言です」
極強力破壊兵器賛成派ヤマモトの発言。
「言い直します。物書き、お花畑、旗振り、革新、文化芸術、あちらの国、赤い人、訓垂れ連中の口車に乗ってはいけない。マツタケ保有こそが平和への第一歩です」
「軍事研究もしましょう。武器開発もしましょう。我が国なら世界一の武器を作ることができます。志奈などひとひねりで黙らせることができます」
会議場はプロレス会場とボクシング会場が混ざり合って同時に試合をしているかのような雰囲気につつまれた。
極強力破壊兵器反対派リンホウセイの発言。
「これぞ保守。国を保ち守るために罵詈雑言の嵐だ。聞いて呆れます」
極強力破壊兵器賛成派ヤマモトの発言。
「すべて事実であり、我が国に必要なことです。内ゲバ連中がマツタケを反対し、軍事研究すらも反対している。紛れもなく事実です」
極強力破壊兵器反対派リンホウセイの発言。
「なんやその言いがかり内ゲバなど起こしとらんわ」
極強力破壊兵器賛成派ヤマモトの発言。
「ソウ連が崩壊し、社会主義が成り立たないとわかり、議論が興奮し、内ゲバはじめて殺しあっただろ。おたくらは議論が常だからな。環境、環境つってそっちに行っただろ」
極強力破壊兵器反対派リンホウセイの発言。
「エルフ界も人間界も環境大事やないか。プラスチックは有害や。二酸化炭素減らさんか。動物食べるな可哀想やないか。野菜食え、コオロギ食えばええんや」
極強力破壊兵器賛成派ヤマモトの発言。
「二酸化炭素減らしたきゃ志奈国に言え。どうした怖くて言えないのか。イルカの鼻にストロー刺したのはカメラマンだろ。イルカはそんなとろくないわ。動物がダメで虫と植物はいいのか。クソクズが」
終
エルフ界弍本国防衛会議、書記が踊り出しため以降の記録はない。
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