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短編小説 「月の裏側からのプレゼント」


月の裏側、静かな一角に、ラビーという名前のうさぎ型の生物が住んでいました。彼は大きな耳とふわふわの丸い尾っぽが特徴的で、一見するとまるで地球のうさぎのようでした。

十五夜が近づくと、ラビーは耳をまっすぐ上げて、その日の仕事を持っていました。それは、地球の人々が空を見上げて「ああ、うさぎが餅をついている」と言えるように、月の表側で餅つきをすること。この一夜限りのショーは、地球の日本の人々にとって、大切な伝統となっていました。

今宵も、ラビーは大きな臼と杵をバギーに積み、月の表側へ向かう準備をしていました。そのバギーは特別設計されたうさぎ型で、ラビーの自慢の乗り物。

バギーのエンジンがかかった瞬間、月の裏側は静かなブルーの光で照らされました。ラビーは深呼吸をして、「さあ、行くぞ!」と独り言を言いながらアクセルを踏み込みました。バギーはゆっくりと前進を始め、月の表面の砂を蹴散らしながら加速していきました。

ラビーはバギーの操縦が得意で、月の裏側のさまざまな地形や小さなクレーターを軽々と乗り越えていました。その道中、彼は時折宇宙空間を彩る星々を眺めたり、地球が近づいてくる景色に心を奪われたりしていました。

しかし、その心のうちにも、今夜の大役、餅つきの重要性が常に頭の中にありました。地球の人々のため、そして伝統を守るために、彼は必死で走らせていました。

「もう少しで表側だ!」と思ったその時、目の前に現れたのは大きな岩。「キャー!」と叫ぶラビー。急ブレーキをかけようとしましたが、バギーのスピードは既に上がっており、バギーは岩に乗り上げ前輪が岩に引っかかって動かなくなってしまいました。

「どうしよう…」と耳が垂れ下がるラビー。時間が経つにつれ、地球からの光が強くなってきました。それは、地球の人々が空を見上げ、月のうさぎを待っている証拠。ラビーは一瞬考え、杵を手に持って大きな岩を何度も叩き始めました。すると、岩が少しずつ砕け小さくなり、バギーが動くようになったのです!
ラビーは大急ぎで乗りこみ、アクセルを目一杯踏み込んで月の表側へ走り出しました。

そして月の表側に到着したラビーは、バギーから飛び出すようにして地面に着地しました。彼の足元は、薄い月の砂塵が舞い上がり、短い時間の中での彼の瞳は焦りと期待で潤んでいた。

「時間がない!」と独り言を漏らしながら、彼は臼を地面に設置し、臼の中に蒸された餅米を入れ、すぐに杵を手に取りました。ラビーは餅米を見るなり、力強く杵を振り下ろしました。一打、また一打。臼と杵が出す音は、月の静寂を打ち破るように響き渡りました。

月明かりの下、ラビーの姿は熱心で、彼の汗が星のように輝いて飛び散りました。彼の背後には地球が大きく見えており、その惑星はラビーの努力を静かに見守っているかのようでした。




時間を割いてくれて、ありがとうございました。

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