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短編小説 「かごめ」


公園のベンチに座っていると、寒さで尻が冷え切ってしまう。ぼんやりと空を見上げると、どんよりとした曇り空が広がっていて、まるで今にも雪か雨が降り出しそうな気配だ。そうだ、家に干したままのタオルを思い出した。さて、家に戻るべきか、それともこのまま待ち続けるべきか、迷ってしまう。

その時、突然、懐かしい歌声が耳に飛び込んできた。「か〜ごめ、か〜ごめ、かごの中の鳥は、いついつ出やる夜明けの晩に鶴と亀がすぅべった」公園の一角で、小学生たちが歌を歌いながらゆっくりと回っている。

「懐かしいな、僕も昔は友達とこんなふうに遊んでいたんだ」と思い出に浸っていたその瞬間、急に世界が真っ暗に包まれた。何も見えなくなって、心臓がドキドキと高鳴る。でも、気持ちを和らげるように、どこか落ち着く柔軟剤のいい匂いが鼻をくすぐる。そして、耳元で優しい女性の声が響いた。

「後ろの正面だぁ〜れだ」

その声に、ふとした緊張と期待感が交差する。どう答えようか一瞬迷ったけれど、思い切って「ミサトさん」と彼女の名前を声に出した。

瞬間、目の前がぱっと明るくなり、見たことのある優しい笑顔が目に飛び込んできた。

「せいか〜い」と彼女が言うと、その声に安堵感と同時に小さな興奮が湧き上がる。

「待った?」

「待ったよ。尻が冷え切ってる」

ミサトさんが隣に座ると、笑いながら僕の冗談に応えた。「それは大変ね。でも、今からは暖かくなるように頑張るから!」その言葉と共に、彼女は僕に近づいて腕を組んできた。その温もりが、冷えた体を少しずつ暖かくしてくれる。

「かごめかごめ、懐かしいね。子供の頃、よく遊んだよね」とミサトさんが話を切り出した。

「うん、僕も」と僕も懐かしい記憶に浸りながら答える。

「今思うと、『かごめかごめ』の歌、ちょっと不気味だと思わない? 歌詞の意味もいまいちわからないし」と彼女が少し首を傾げながら言った。

「本当だね」

そんな昔話に花を咲かせながら、ふと気がつくと、曇り空も少し明るくなってきた。まるで、僕たちの会話に呼応するかのように。

「ねえ、また一緒にかごめかごめ遊ぼうか?」と彼女が提案してきた。

「いいね、それ。でも今度は、もう少し温かくなってからにしよう」と僕が笑いながら答えると、二人で心から笑った。その瞬間、子供の頃のような純粋な喜びを再び感じることができた。





時間を割いてくれてありがとうございました。

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