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短編小説 「小人とクツ屋」


むかしむかし、ある街のはずれに、小さなクツ屋がありました。この店は代々、親から子へと受け継がれてきた老舗でした。今は主人公の息子、トムが店を任されています。しかし、トムはクツ屋の経営に全く興味がなく、父親が苦労して築いた店を台無しにしていました。

毎日、トムは店の金を持ち出しては、街のカジノへ通い、ルーレットに使い込んでいました。ギャンブルの興奮に取り憑かれ、クツ屋の仕事などすっかり忘れてしまっていたのです。店の棚には、ほこりをかぶったクツが並び、お客さんの足音もほとんど聞こえなくなっていました。

ある夜、トムがカジノから帰ってくると、クツ屋の中から不思議な音が聞こえてきました。カリカリ、トントンと、小さな音が響いていました。驚いて店の中に入ると、目の前には小さな小人たちがたくさんのクツを作っている光景が広がっていました。小人たちはトムに気づかず、一心不乱にクツを作り続けていました。

「これは使える!」トムはそう思いました。小人たちをこき使えば、自分は何もしなくても大量のクツが作れる。そして、そのクツを売って利益を上げられる。トムはすぐに計画を立て、小人たちに命令を下しました。「もっと早く、もっとたくさんのクツを作れ!」小人たちは黙って命令に従い、トムのためにクツを作り続けました。

その結果、トムのクツ屋は再び繁盛し始めました。棚には新しいクツが次々と並び、お客さんも増えてきました。トムはその利益でさらにギャンブルにのめり込み、カジノで豪遊する日々を送るようになりました。しかし、小人たちは不満を抱き始めていました。自分たちが作ったクツでトムが儲けているだけでなく、ギャンブルに使っていることに気づいたからです。

ある夜、トムがいつものように酒に酔って寝ていると、小人たちは静かに動き始めました。彼らはトムの寝室に忍び込み、彼の手に細い針と糸を持って近づきました。そして、そっとトムの指と指を縫い合わせました。痛みで目を覚ましたトムは、自分の手が動かなくなっていることに気づきました。指と指がしっかりと縫い付けられ、お金を持つことができなくなっていたのです。

「なんてことだ!」トムは叫びましたが、小人たちは笑って言いました。「お前が私たちをこき使った罰だ。これでお前はもう、ギャンブルに使う金も、クツを作るための手もなくなった」

その後、トムはクツ屋を続けることができなくなり、店は再び閉鎖されてしまいました。街の人々はトムの変わり果てた姿を見て、クツ屋の伝統が失われたことを嘆きました。しかし、小人たちは再び静かな夜に戻り、自分たちの仕事を楽しみながら、穏やかな日々を過ごすことができるようになりました。

こうして、クツ屋は静かに物語の幕を閉じました。





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