無修正を取り締まる法律(刑法175条)の廃止についての論点メモ(2023年10月時点、参議院法制局より)


背景

刑法175条をものすごく簡単に言ってしまうと、いわゆるアダルトビデオや成人漫画等の性器にモザイクや黒塗り等の規制が存在している原因の法律です。でもこの法律、違憲である、曖昧である、科学的根拠が無いなど、色々と問題が指摘されてきました。
詳しい問題点については下記noteを参照下さい。

では、この刑法175条を廃止や改正する上で、どのような論点があるのかを整理する必要があります。今回は諸派党構想・政治版を通じ、どのような論点があるかを参議院法制局より回答を頂きました。参議院法制局から頂いた回答をそのまま記載した後、各論点について筆者の考えを述べます。

参議院法制局の回答

(※本内容中の【資料n】は、本noteの末尾にある参考資料.docxをダウンロードし参照下さい。)

刑法第175条の廃止について

 刑法第175条の廃止について提案していく際には、他の立場等から、以下のような点について疑問等が呈されることが想定されます。
 これらの点について、どのように説明するかを整理されてはいかがでしょうか。

1.刑法第175条の立法目的等について
(1) 刑法第175条の立法目的について、判例は、性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持する(最大判昭32・3・13)こと、あるいは、性生活に関する秩序及び健全な風俗を維持する(最大判昭44・10・15)こととしており、同条と憲法第21条等との関係について合憲と判断してきている。【資料1・2参照】
→ 近時の裁判例でも、こうした立法目的については「失われていない」とされている。【資料3~5参照】
(2) 裁判例等では、わいせつ文書等による有害な影響(やその蓋然性)について、「明らか」であるとされたり、実証をすることは難しいものの「識者の間にかなり広く信じられている」とされている。【資料6~8参照】
⇒ こうした裁判例等の見解について、どのように考えるか。

2.刑法第174条との関係について
 公然とわいせつな行為をした者については、刑法第174条によって処罰される。仮に、同条は維持しつつ、第175条を完全に廃止した場合には、①公然とわいせつな行為をすること自体は第174条によって処罰されるのに、②例えば、その様子を撮影した写真・映像を広く公衆に見えるように陳列したり、流したりしたとしても、処罰されないことになる。
⇒ 第174条による処罰は必要であると考えるならば、②のような結果になることでよいのかどうか。

3.国際条約との関係について
 我が国は、わいせつ物の頒布等を処罰すべきとする「猥褻刊行物ノ流布及取引ノ禁止ノ為ノ国際条約」(昭和11年条約第3号)を批准している。【資料9参照】
⇒ 同条約との関係について、どのように考えるか。

〈参考〉刑法第175条について、廃止ではなく、規制の手法を限定する見直しを提案する学説
わいせつ文書等の規制の根拠(立法目的)を、それを見たくない者や未成年者の保護と捉え、それらの者が目にせざるを得ないような態様の頒布・販売等のみを規制すれば十分であって、自己の意思で見たいという成人のみが接し得る態様での頒布・販売等は処罰をすべきではないとする学説がある。【資料10・11参照】


各論点についての筆者の考え

1.刑法第175条の立法目的等について
(1)の通り、過去の裁判例にて刑法175条の立法目的は「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持すること」とされています。また(2)の通り、過去の裁判例にてわいせつ文書等による有害な影響は「明らか」「識者の間にかなり広く信じられている」とされました。
しかし、「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持すること」にある「性的秩序」や「性道徳」が具体的に何であるか示すことはできません(法務省より)。また、わいせつ文書等が有害である事を示す調査や研究等は存在していないことも明らかになっています(法務省と警察庁国会図書館より)。

このように、裁判例が示す(1)の立法目的の解釈は非常に曖昧で、(2)の主張も明らかに誤りです。
また、【資料1】「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持することが公共の福祉の内容をなすことに疑問の余地はない」【資料2】「猥褻性をもつものである場合には、性生活に関する秩序および健全な風俗を維持するため、これを処罰の対象とすることが国民生活全体の利益に合致する」としていますが、前述のようにわいせつ文書等が有害である事を示す調査や研究等は存在せず、わいせつ文書等を規制する刑法175条が国民の利益になっているとは言えません。むしろ表現の自由という国民の人権を制限しているだけ、不利益になっています。

(すこし話がズレますが、具体的な調査や人名等を挙げることもなく「わいせつ文書等による有害な影響は「明らか」「識者の間にかなり広く信じられている」」と言い切って、人に罰を与えるていること自体、おかしいと感じているのは私だけでしょうか?)

2.刑法第174条との関係について
(刑法174条と175条は似ていますが、「公然と行為を行う(174条)」か「公然と物を頒布する(175条)」という違いがあります。実際の人間がその場に居るか、物が在るかの違いです。)
もし、174条の立法目的も「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持すること」と解釈されているのであれば、公然とわいせつな行為をすることで害がある事実が存在する場合を除き、174条も必要ないと考えます
(少なくとも、お客さんの前で脱ぐ「ストリップショー」を「公然とわいせつな行為」をしたとして処罰する必要はないでしょう。気候、災害、政治的主張、ファッション等の理由で脱いだ場合も、果たして処罰する必要はあるのでしょうか?)

3.国際条約との関係について
「猥褻刊行物ノ流布及取引ノ禁止ノ為ノ国際条約」(昭和11年条約第3号)について、そもそもこの条約は現在効力を発揮しているのでしょうか(刑法175条も本条約の履行を完遂したとは言えないという研究あり)。
仮に発揮している場合、本条約における「猥褻」の意味は各国が決めて良いという旨の文言があります(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S38-C1-439_3.pdf の四八四、pdfでのページ14)。
ですので、例えば「猥褻」を「私事性的画像記録」と新たに解釈すれば、既に日本に存在する「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」で完全でなくともある程度履行したことになるのではないでしょうか。(ただし刑法の「わいせつ」と意味が異なってくるので、刑法174条と175条を廃止した上で、刑法の「わいせつ」を「性交」や「性交等」に改正する必要があるかもしれません)

〈参考〉刑法第175条について、廃止ではなく、規制の手法を限定する見直しを提案する学説
立法目的を、それを見たくない者や未成年者の保護と捉えるように見直すのは難しいと考えます。
「見たくない者の保護」について。見たくない物は人によって千差万別です。わいせつな文書を見たくない人がいれば、政治活動ポスターを見たくない人、虫の写真を見たくない人、など。仮に見たくない人をすべて保護するのであれば、この世に存在する殆ど全ての物を規制する必要があります。わいせつな物だけ特別扱いし規制するのは不平等です。また、見たい者の権利や見せたい者の権利(=表現の自由)と相反します。わいせつ文書だけは見たくない者、他の物は見たい見せたい者、が優先されるというのもおかしな話です。特別扱いすべき科学的根拠がなければ、立法目的とすべきでないと考えます。
「未成年者の保護」について。わいせつ文書が未成年者に悪影響を与える科学的根拠があるのでしょうか。未成年者の健康保護を理由に販売できない物にお酒がありますが、こちらは悪影響があるという科学的根拠があるので多少は理解できます。一方、わいせつ文書はお酒と同等かそれ以上に悪影響を及ぼすのでしょうか。少なくともそれが確認できない限り、「未成年者の保護」は目的に成り得ません。


最後に

刑法175条の論点やその考えについて記載しました。もし「こんな論点もあるよ」「この論点に対してこう考えるよ!」等の意見がございましたら、遠慮なくコメントをお願いします!


参議院法制局の回答及び参考資料(元データ)

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