刑法175条 問題点まとめ

ドンドン更新します。指摘、追加事項等あれば、具体的にコメントお願いします。

廃止署名はこちら



刑法175条 条文

第百七十五条 わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。

刑法175条におけるわいせつの定義

1957年 チャタレー事件より

「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/271/051271_hanrei.pdf

「徒らに」ってどの程度?「徒らに」って具体的には?普通人とは?多様性が叫ばれる現代で、普通とは誰を指すのか?性的羞恥心?善良な性的道義観念とは?どこにそれが定義されている?それに反したら一体何が起こる?

また、わいせつに値するかは裁判官の判断に委ねられる。下手をすれば、性器が隠されていようと裁判官の性欲を興奮させてしまうと有罪になりかねない危険性も孕んでいる。

さらに、現状「性器が明らかに確認できる無修正画像やそれに近い画像」がわいせつに該当するという運用がなされている(https://www.internethotline.jp/reports/edit/IHOU1)が、なぜ無修正画像がわいせつに該当するのかという具体的な説明は存在しない。

ちなみに「わいせつ」という言葉は刑法175条が属する刑法の第二十二章の他の条文にも登場するが、各条文で「わいせつ」という言葉が使われていても、それぞれの実際の運用は異なっている。例えば、不同意わいせつ罪でおなじみ刑法176条では「無理やりキス」もわいせつ行為とするような運用がされているが、「無理やりキス」の表現物を刑法175条のわいせつ物とする運用はまずされない。行為と物で大きな差がある。

刑法175条 保護法益

1957年 チャタレー事件より、保護法益(簡単に言うと、この刑法が守っている利益)

「性的秩序を守り,最少限度の性道徳を維持すること」

性的秩序や性道徳が何かについては示されていない。また、わいせつな文書等を頒布することで、それらが破られる科学的根拠は無い四畳半襖の下張事件では「識者の間にかなり広く信じられている」から、という信仰を理由にしている。
性的表現が性的秩序を乱す根拠が無いことについては後述の「性的表現が悪影響を及ぼす根拠」に記載。

憲法違反

日本国憲法 第一三条

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

刑法175条はこの憲法に、特に幸福追求に関して違反している(と考える)。性表現を行いたい、見たいという幸福追求を、刑法175条によって制限されている。

公共の福祉をどう考えるかだが、「個人の自由が対立したときの調整原理である」とするならば、「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持すること」は公共の福祉には当てはまらないため、幸福追求を制限する理由にならない。


日本国憲法 第二十一条

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

刑法175条はこの憲法に違反している。

裁判所は「性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持することが公共の福祉の内容をなすことについて疑問の余地がない」(チャタレー事件)として、表現の自由を制約し得るとしている。が、そもそもわいせつ文書等の頒布で性的秩序が破られる事実は見つかっていない(四畳半襖の下張事件)、つまり公共の福祉を守っているということにもならないから、表現の自由を制約し得るとは言えなくなる。

公共の福祉を守っているわけではないのに、表現の自由を制限しており、明らかに日本国憲法 第二十一条違反である。

表現の自由は基本的人権のうち精神的自由権の1つに分類される(下記参考URL)、立派な人権である。「刑法175条は人権侵害である」という言説を目にすることがあるかもしれないが、決して間違いではない。
参考:参議院憲法審議会 第3部_[基本的人権]4.精神的自由権(表現の自由、政教分離など) (sangiin.go.jp)


日本国憲法 第二十条

信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

拡大解釈っぽくなるが、刑法175条は、日本国憲法 第二十条にも違反していると考えることができる。

四畳半襖の下張事件で示されたように、わいせつ文書が性道徳や性秩序を乱す理由を「識者の間にかなり広く信じられている」としているからだ。この信仰を行っている識者という団体(宗教団体)に、政治上の権力(裁判権)を行使させている。すなわち、日本国憲法 第二十条に反している。

・・・やはり拡大解釈っぽいか?


刑法175条による影響範囲

影響人数の計算方法募集中

pixiv R-18: 500万作品以上

FANZA: 動画30万点以上、同人16万タイトル以上、ゲーム10000タイトル以上

個人の経済活動をも妨害している。例えばこのニュースでは、わずか7名で4億7千万円もの売上を上げている。国内外で需要の高いコンテンツで、税収にもなるだろうものを規制する意味は無い。


こちらは約90作品を作り、少なくとも計約1600万円を売り上げていた。出演者は募集で募っており、当然被害者など居ない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/63cb4ccb1e01568e5b8c85714e01d64c6119ed35

2022/04/29追記 上記は不起訴処分となった。裁判所は理由を明らかにしていない。
無修正動画販売疑い 逮捕の2人を不起訴処分に (ntv.co.jp)

性的表現が悪影響を及ぼす根拠

無い。それどころか、1970年にアメリカで提出された「猥褻とポルノに関する大統領諮問委員会報告書」には、「大人が見たいと思って見る分には無害」という結果すらある。

猥褻とポルノに関する大統領諮問委員会報告書( 原文はまだ見つかっていないため参考程度:https://www.buzzfeed.com/jp/yuikoabe/why-h-dame )

日本を対象にした報告もある。ポルノ増加とレイプに相関は見られない。

Pornography, Rape and Sex Crimes in Japan (原文:http://www.hawaii.edu/PCSS/biblio/articles/1961to1999/1999-pornography-rape-sex-crimes-japan.html ) (解説: https://twitter.com/i/events/1410161511503327232 )


当然、現状の刑法175条の運用である「無修正もしくは修正が薄い性器があれば違法」の根拠は一切無い。

2022年のAV新法に関し、AV出演対策委員会が「性的コンテンツから性犯罪を誘発することは、警察庁の発表でも明らかになっています。」という声明を出したが、警察庁自身はこれを否定している。


2022年11月、法務省と警察庁に、今現在刑法175条の基準が存在するか、刑法175条が禁止しているわいせつ物頒布が性秩序を乱すという調査結果はあるか、等を問い合わせた。結果、「明確な基準は示せない」「調査結果は把握していない」、つまり明確な基準は存在しないし刑法175条の存在意義も存在しないことが発覚した。

2023年7月、国会図書館にも調べてもらったが、現行運用である無修正配布による悪影響を調査したものは存在しなかった。その上、ポルノ流通に悪影響はないとする研究すら出てきた。175条の存在する根拠の無さがますます明らかに。


刑法175条が無くなったらおちんちん画像無理やり見せ放題?セクハラし放題?

そんなことはない。刑法175条は個人の人権を守るものではなく、性秩序という漠然としたものを守るもの(社会法益)である。仮にセクハラを個人の性的自由を害するものとするならば、セクハラは対象外である。刑法175条があっても無くなっても、セクハラは違う法で処罰されるべきである。刑法175条の廃止運動は、個人の性的自由を害する性犯罪の横行に賛同するものではない

ちなみに法務省の過去の資料によると、セクハラは刑法174、176、177、178、230、231条などの対象となるとされていた(現在はアクセス不可)。

https://www.moj.go.jp/jinkennet/asahikawa/sekuhara.pdf


歴史(判例が多く、適宜追加予定)

1957年 チャタレー事件 、わいせつの定義が述べられた。

「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」

「徒らに」ってどの程度?普通人とは?多様性が叫ばれる現代で、普通とは誰を指すのか?性的羞恥心?善良な性的道義観念とは?どこにそれが定義されている?それに反したら一体何が起こる?

刑法175条の保護法益についても述べられた。

「性的秩序を守り,最少限度の性道徳を維持すること」

性的秩序や性道徳が何かについては示されていない。また、わいせつな文書等を頒布することで、それらが破られる科学的根拠は無い。


1980年 四畳半襖の下張事件

わいせつ文書が、性道徳や性秩序を乱す理由が裁判にて述べられる(ここの[12])。

[12] いうまでもなく、自由主義的憲法原理の基礎は、すべての国民が個人として尊重され、生命、自由及び幸福追求の権利について最大の尊重をうけるということにある。わいせつ文書の公表が、右の憲法的価値の実現に資するゆえに善良なものと観念される性の道徳、風俗あるいは秩序に対して長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題並びに日常生活の質の向上、社会の品格の維持、わいせつ物の未成年者からの隔離などの国民的利益に対しても長期的にみて何らかの有害な影響を及ぼす蓋然性があるという事実命題は、我が国を含む自由主義的憲法原理を採る諸国家において識者の間にかなり広く信じられている。そしてこれらの命題については、未だ利用に値する実証的長期的な観察調査結果は見当らず、右の命題は、実証されていないがさりとて否定もされてはいないものの、不合理なものとはいまだ認められない。従つて、現時点ではこれらのかなり広く信じられている命題と刑法175条の規定とが合理的関連性を有しないものと断ずるわけにはいかず、それゆえ刑法175条は憲法21条に反するとはいえないものであり、この種文書の入手を欲する成人に頒布販売することを刑法175条により規制しても、これまた憲法21条に反するものではない。

「識者の間にかなり広く信じられている」からだそうだ。識者とは誰???かなり広く信じられているっていう信仰を理由に表現の自由を奪っているって言ってる???

「これらの命題については、未だ利用に値する実証的長期的な観察調査結果は見当らず、右の命題は、実証されていないがさりとて否定もされてはいないものの、不合理なものとはいまだ認められない。」見当たらないってことは、そもそもわいせつ文書が性道徳や性秩序を乱す事実は無いってことでは?


2007年 松文館裁判

逮捕された漫画家や出版社に対し、警察や裁判官による差別や恐喝が発生

取調べの際に検察官が「争うなら社員を全員逮捕するぞ」「文句を言うなら釈放を取り消すぞ」と脅したり、警察が「認めなければ社員や家族を全員逮捕して、マークして何度でも逮捕してやるぞ」と脅すなど、人権を無視した違法な捜査が行われていたとの証言が存在する

2004年1月、東京地方裁判所刑事第2部中谷雄二郎裁判長は「被告人は、当公判廷において、本件漫画本を頒布したことは認めながらも、そのわいせつ性について争うばかりか、本件漫画の描写がリアルかどうかなどは専門家でない警察官や検察官には分からないなどと広言して、自己の行為が社会に与えた悪影響について反省する態度は全くみられない」として、わいせつ図画頒布の初犯としては異例の懲役1年・執行猶予3年の判決を下した。

また、性器の修正範囲や、現状出回っている成人向け雑誌についての言及もある。

一審の判決で中谷雄二郎裁判長は「市場に出回っている多くの成人向け雑誌は、摘発していないだけで本来違法である」と明言しており、その上で「40%の網掛け修正は小さすぎるため違法」と述べている。

「市場に出回っている多くの成人向け雑誌は、摘発していないだけで本来違法である」という発言は、その気になればいつでも逮捕するぞと脅しているようなものである。

「40%の網掛け修正は小さすぎるため違法」については、何%だったらいいのか・・・?何か統計的だったり科学的な根拠とかあるのか?


2020年 ろくでなし子裁判

自身の女性器の3次元(3D)データを支援者に配布したとして、わいせつ電磁的記録等送信頒布罪などに問われた漫画家の五十嵐恵被告(48)=ペンネーム・ろくでなし子=の上告審判決が16日、最高裁第1小法廷であり、小池裕裁判長は被告側の上告を棄却した。データのわいせつ性を認定し、罰金40万円とした一、二審判決が確定する。小法廷は「(わいせつ性は)データを視覚化したもののみを見て判断するのが相当」と述べた。*リンク

女性器の3Dデータが「徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反するものをいう」に当てはまる理由が不明。地形図に見えるという意見があり(199684124.pdf (core.ac.uk))、そのようなものが徒らに性欲を興奮又は刺戟せしめるとは到底考えられない。



2022年 まんだらけ摘発(不起訴)

2022/05/27 に発生。
【違法なアダルト本約400冊を販売目的で所持するなどしたとして、警視庁は27日、同社の男性社長(50)や店舗責任者ら計5人をわいせつ図画有償頒布目的所持などの疑いで書類送検し、発表した。アダルト本は1970~80年代に流行したいわゆる「ビニール本」(ビニ本)と呼ばれる写真誌で、性器が露骨に確認できるものだったという。】
過去摘発されなかったものが、突然警察が基準を変えて摘発してきた重大事件。刑法175条が恣意的に運用されるという証拠となった。
この件で多くの国会議員が反応し、刑法175条に異議を唱えた。不起訴で終わるか裁判まで進むのかまだ不明だが、本件は刑法175条のターニングポイントになりうるので注目。
2022/9/01、本件は不起訴処分となった。何故こんなにも乱暴な摘発を行ったのかは依然不明。https://news.yahoo.co.jp/pickup/6437414


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