『老子』54章は、小さなものから大きなものへと展開する。10章も自分の精神から、世界に通じる「道」へと視野が拡大していく。この尺度の広大さには、詩的な魅力を感じる。
そしてここで、老子が度々言う「無知」が、本当に何も知らないことではないと気付く。47章には「遠くへ行くほど、知ることは少なくなる」とあり、33章もまた「自分を知る者は聡明だ」とする。
54章に戻ってみれば、老子はそうすることで「天下の有様を知った」のだと言う。自分を知れば世の中のことも見えてくるのだから、他人を知ろうとする欲は持たない、ということだろう。